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09 次元とジゲン

「誰か何か言ったか?」

 明らかな男の声。

 ここにいる男は、俺とトキだけ。

 女性でも、低い声を出せばという可能性もあったけれど、マリア達の声とは全然違う。

 可能性があるとすれば、ヴァルマだろうけど、口調も違う。

 皆を見てみても、首を横に振っているので、皆ではない。

「気の……せい?」

「ではないぞ、青年よ!」

 再度同じ声が廊下に響いた。


 これは誰か他にいるな……。

「誰だ! どこにいる!」

 不思議な通路でどこからともなく聞こえてくる声。

 もしかしなくても、この通路の関係者という事は間違いないだろう。

 何故このタイミングで声を掛けてきたのか分からないけど。

「まぁ待つがいい。案内しよう……。その前に、そこに立っている召喚獣を戻してくれないかね。そう、その大きなゴーレムみたいのだ」

 Jrの事か。

 Jrは防御の要。危険があるかもしれない場所では一番重要な召喚獣なんだけど……。

 いや。ループする通路を生み出せる相手に、防御も何もあったものじゃないか。

「アキ!」

「万が一にはトキがいるから大丈夫だ、マリア。これでいいか?」

 相手の言う通りにJrを送還した。

「あぁ、問題ない。では、そこの扉からこちらに来るといいぞ」

「扉……? 扉なんて……」

 ここは通路だ。

 ずっと続く通路だ。

 曲がり角なんてものもないし、扉なんて物も存在しなかった。していなかった。

 その時までは。

「これは……?」

「扉じゃな……」

 Jrがいた場所に、いつの間にか扉が出現していた。

 目を離していた訳じゃない。

 瞬きをするその一瞬に、あたかも初めからそこに存在していたかのように、扉がそこにあった。

「さぁ、その扉からどうぞ! もちろん危険はないから安心して欲しい。同輩もいるしそこは大丈夫だろう?」

 明らかに怪しい。完全に罠と言っていい扉だ。

 危険はないって、相手が言うと信用にならない言葉だ。

 しかし……。

「サブマスター。マスターの気配はこの扉からしています。また、この声も同じくマスターの気配がします」

 トキは創造主である戸田に従順だ。

 トキに危険はなかったし、恐らく戸田にも危険はないだろう。

 その時がマスターの気配がするという事は、この扉の向こうに戸田の施設があるという事になる。

 そしてこの声も、トキと似たような存在なのだろう。

 となると、危険そうな扉は危険ではなくなるという事になる。

「行くぞ……」

「えぇ……」

 異様な雰囲気に飲まれているのか、それとも危険はないと召喚獣なりに解っているのか分からないけど、普段なら俺を止めるマリアはいなかった。

 扉を開け、俺達は先へと進んだ。


 扉の先は、邸宅の玄関になっていた。

「ここは……。ドックトンのダンジョンと似てるわね……」

 トキがいた所と似たような造りだ。戸田の趣味なんだろうか?

「お客人! そして同輩よ」

 まるで俺達を迎えるかのように立っていたのは、長身の男性だった。

 Jrと似たような感じだけど、ごつさはない。

 着ている服もそうだし、執事と言ったほうが正解だ。

「我がマスター、戸田様の研究所へようこそ!」


 俺達は戸田の召喚獣を名乗る執事に連れられ、もてなされていた。

 紅茶を頂きながら、お菓子を頬張る。

 トキのいたダンジョンでもそうだったけど、ここがダンジョンとは信じられない光景だ。

 その執事の動作も洗練されている。本物の執事と言ってもいいくらいだろう。知らないけど。

「それで、貴方は何者なんですか? それと、目的は?」

 相手の正体は、敵ではないとトキも執事も言っているし、ここまでの材料で分かってはいる。

 しかし、目的が分からない。

 この執事はダンジョンのボスではないのだろうか。


「私は戸田様に創造された召喚獣。名はジゲンだ!」

 見た目も動作も執事なのに、何故か言葉遣いが少し乱暴というか、豪快なのが残念だ。

 そして、やはり召喚獣だった。

 それにしても……。

「なるほど。次元を司る召喚獣なのですね」

「な、何故それを!」


 戸田のネーミングセンスが残念というのが確定した。

 時を操るからトキ。

 そして次元を司るからジゲン。

 もっとこう、カッコいい名前とかは無かったのだろうか?

 それとも、二人すらどうでもいいレベルの召喚獣という事か、もしくは名前をあえて付けないようにしたとかだろう。

 戸田は、元の世界に戻るために研究を行っていた。

 その成果としてトキを創り、そしてジゲンを創ったはずだ。

 いずれ元の世界に戻り別れが来る事が確定しているのであれば、召喚獣を想ってはいけない。そういう思いもあったのかもしれない。

「……それで、何故俺達を?」

「おぉ、そうだった。それはもちろん、君達の力を認めたから歓迎したまで」

 ジゲンの能力は、文字通り次元を操れる。

 ダンジョンの構成は、人を惑わるような迷路の罠が散在してはいるが、それは直接の力ではないという。

 通路への入口の謎の壁や、あの無限ループする通路こそがジゲンの真骨頂だという。

 それらを乗り越え、見破った俺達の力を認めたという訳らしい。

 闘わずしてジゲンに認められたという事だ。

「なので、私もそちらのトキと同じく、汝を我がサブマスターとして認めよう!」

「はぁ……。それはどうも」

 トキも大概だけど、ジゲンと闘うとなると勝てる気がしない。

 次元を操るんだ。

 立っている地面の次元を曲げられて、無限ループ落とし穴にでもされたらどうしようも出来ない。

 闘わない事に関しては嬉しい。もちろん、ジゲンが仲間になるのも大歓迎だ。

 ここまでの大まかな展開は、トキの時と同じだ。

 でも、ここにトキの後に作られた研究所のはず。

 となると……。

「それで、トキとジゲンのマスターは今どこにいるんだ?」

 俺は聞きたかった質問を投げかけた。


「マスターはいらっしゃいません」

 戸田は元の世界に戻るための研究を重ねていた。

 戸田の目的は、()()()()()()姿()で戻る事だ。

 そのまま戻っては歳を取ったままなので、元の女子高生の年齢まで戻らないといけない。

 さらに、こっちの世界に来て年月が経っている。そのまま戻ったら浦島太郎状態になってしまうので、元の時間に戻る必要がある。

 自分を元の姿に戻すためにトキを、そして恐らく元の時間に戻るためにジゲンを創ったのだろう。

 それで材料は揃っているはずだ。目的は達成されていると思う。

「それは、戸田が元の世界に戻ったという事か?」

「なるほど……。マスターと似た感じがすると思っていたが、マスターと同じ世界の方か……」

「あぁ、それで戸田は……」

 戻れたのか。戻れなかったのか。それとも決断できずに……。

「はい、戸田様は元の世界へと戻られました」

 戻れた……のか。


「アキ……。ここってアキと同じ世界の人のなのね……」

「元の世界? アキヒト様達は一体何を言っているのでしょうか」

「マリアお姉様、一体どうしたのですか?」

「ふむ。何やら面白い話をしておるのぉ」

「どういうお話です?」

 しまった……。周りに皆がいるのを忘れていた。

 マリアは俺が他の世界の人間って知っているけど、他のメンバーは知らないはずだ。

「アキ……。アキは元の世界に戻りたいの?」

 マリアはきっと薄々気づいていたんだろう。俺が戸田の研究所に拘る理由とその目的に。

 トキとジゲン。二人の力を手に入れた今、俺は元の世界に戻れるはずだ。

 そう、願うならば今すぐにでも……。

 戸田の日記を知り、トキを手に入れた時から、戻れる可能性があるならどうしようと思っていた。

 もちろん、戻りたくない訳はない。

 戻れるとしたら、俺は戻りたいのかもしれない……。


ご意見ご感想があれば嬉しいです。

が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……


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