08 推測と確証
前に投げたはずのビー玉が、俺達の後ろから飛んできた。
幸い、ヴァルマがキャッチしてくれたので、俺達に怪我はないけれど、一体どういうことなんだ?
「丸い通路になっているのかしら」
マリアの言うとおり、それは一番に思いついたけど、それはないだろう。
通路が丸くなっていて、環状になっているなら、元の場所に戻るのは理解出来る。
でも、この通路は真っ直ぐに見える。
もちろん、微妙に曲がっているとかも考えられるけど、だとしたらものすごい長さが必要になる。
いくらアルルの投げたビー玉が速いとは言え、数十秒でぐるりと回ってくるとは考えにくい。
それに、この通路に入ってから、分かれ道なんてなかった。
円になっているとしても、階段からの入口に続く部分は必要になるので、分かれ道が存在するはずだ。
「微妙に坂になっている、とかでしょうか?」
次のアルルの意見もだけど、これも違う。
登り坂になっていて、円の終わりに穴があって、そこからビー玉が落ちてきたのでは? という考えだ。
入り口付近の天井に穴が空いていれば、分かれ道がある訳ではないから、単に気づかなかったって事になるけれど、これもさっきと同様に距離の説明が出来ない。
つまり、この通路は円形ではないという結論になる。
でもそれではビー玉が後ろから飛んできた件が説明が出来ない。
「今度はゆっくり投げてくれないか? 気持ち転がす感じで」
「は、はい。分かりました」
情報が少なすぎる。
今度はゆっくり投げて貰って、ビー玉の軌跡を確認してみる事にする。
「えいっ!」
可愛らしい掛け声だけど、さっきよりもゆっくりと投げてくれた。
「よし……そのまま進んで……」
順調に進んでいったはずなのに、またビー玉の反応が前から消えて後ろに現れた。
「また後ろに移動した……」
しばらくすると、俺達の足元目掛けてビー玉が転がってきた。
そのままだとどこかに行ってしまいそうなので、、一旦送還をして回収をする。
「ふむぅ……。不思議じゃな。一体どうなっておるのじゃ?」
ある程度の推測が出来てきたけど、まだ確定には至っていないな。
「次はベアルカスに行って……いや、Jrにしよう」
ベアルカスはアルルはもちろん、皆にも人気の召喚獣だ。
見た目の可愛いらしさとは裏腹に、攻撃も防御も頼れる召喚獣だ。
でもやはり見た目からくる印象が強いのだろう。訳も分からない通路に向かわせるのはどうなの? みたいなプレッシャーを受けたので急遽その役目をJrにした。
Jrならゴーレム系だし、色々大丈夫だろう。足が遅いのが難点だけどな……。
「それじゃ真っすぐ歩いてくれ、頼むぞ」
Jrの歩みは遅い。
あの地点に到達するのはビー玉よりも時間が掛かるだろう。
それまでは……休憩かな。だから足の速いベアルカスにしようと思っていたのに……。
まぁ危険がないっぽいけど、ベアルカスを向かわせるのは少し罪悪感があるのは俺もそうだし。
やはりビー玉よりも時間は掛かったけれど、それは来た。
「動いた! Jr、少し戻って……あぁ、そこだ。そこで待機しておいてくれ」
「どうしたんですか? アキヒトさん」
「Jrの所まで行こうか。謎が分かるかもしれない」
「何も……ないじゃない!」
皆で歩いてJrの所に着いたけれど、特に変わったところはない。
ただ、Jrがそこに立っているだけだ。
「焦っちゃダメだぞ、カタリーナ。問題はここからだ。ここからまた前に進むぞ。あ、もちろんJrはそのまま待機な」
「また歩くの? アキ」
「あぁ、そんなに遠くないと思うけど、大丈夫だよ。目標はあるから」
Jrを置いてしばらく歩く。魔物も出ないし、危険はない通路だ。
真っすぐで、何も変化のない通路。
よく考えたら、ここってかなり危ない。
どのくらい歩けばいいのかとか、周りが何も変化がないとか、無限とも思えるから精神的にかなりのダメージになると思う。
真っ白で時計も何もない部屋に人間を置いたら、その人間は発狂をして精神崩壊をしてしまうとか。
ここも似たような事が起こってしまうのではないだろうか。
歩くという行為で身体的な疲労も出てくるだろうし、だとすればとんだ通路だ。
そんな事を考えながら歩いていると、それは見えてきた。
目標だ。
「あら? 何か見えてきたわよ」
「出口ですか?」
これまで何も変化が無かった通路だけど、前方にこれまでは無かった物が見えてきた。
「あれはなんでしょうか、マリアお姉様」
「ふむ。あれは、まさかの」
「着いたのです?」
見えてきたそれは……。
「さっきぶりだな、Jr」
さっき置いて来たままのJrだった。
Jrはさっきと変わらず、そこで待機していた。
「ど、どういう事なの?」
「いつの間にJrを戻しておいたのですか、アキヒト様」
俺がJrを戻して、前方に再召喚したと思っているんだろう。
だけどそれは違う。
「いや、俺は何もしていないよ。Jrはずっと同じ場所で待機して貰っている」
Jrは一歩も動いていない。
「これは推測だけど、恐らく正解だと思っている」
これまで集まった材料。
戸田の関連施設。そこにいるだろう戸田作の何かの力を持った召喚獣。この通路の入口の不思議な壁。とてつもなく長い通路。戻ってくるビー玉にそして今のJr。
「これらから推測されるのは……」
よく考えれば分かる事だ。
歩いても歩いても何も変わらない通路。
ビー玉が戻ってくるのは、物理的にはあり得ない現象だった。
そう、物理的には、だ。
この世界はなんだ? 地球ではない。魔法に魔物が存在する、まるでゲームのような本当の世界だ。
ゲームのような世界。ゲームには定番の、あれもきっとあるはずだ。
「この通路はループしている」
「ループ?」
皆の驚きの声がする中で。
「Exactly! 若き召喚士!」
皆とは違った声が通路に響いた。
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




