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05 盗賊と過剰

「ここにも冒険者が……」

「どうしますか、筆頭」

 街道はどこも冒険者で封鎖されていました。森の中にも警戒をしている冒険者がいました。

 こちらのアジトも完全に包囲されていたという事ですね。

 兵士達の突入よりも早く脱出できましたが、まさかこんなにも包囲されているとはねぇ……。

 警備のない所を探していましたが、どうもなさそうです。

 時間をかけ過ぎると、兵士達が追いついてきそうですし……。

「そうですねぇ……。あまり時間を掛けたくはないですし、ここを突破しましょうかね」

 目の前に見える冒険者は七名。見た事は……多分ないですね。仕事以外で人の顔を覚えるのは苦手なんですよね。

 こちらは四名ですが、冒険者相手なら不足はないでしょう。

 こちらにいるのは、私のお気に入りの駒達です。

 どれも強さ知識ともに一流で、そこらの冒険者では相手にならないでしょう。

 相手を殴り殺すのもいいですが、今は時間が惜しいです。遊ばずにサクッと殺して抜けましょうかね。

「では迅速に行きましょうかね。助けを呼ばれたりすると厄介なので、殺すか足を潰すかしてくださいね」

「承知」




 こちらの突入作戦に気付いているのは知っていたが、まさかこちらの想定の上を行く迅速さで逃げだすとは……。

 念のための包囲網だったが、そこに引っかかってくれれば良いが……。

 しかし、アジトにいた強者よりも強い相手となると、包囲網に割いた冒険者では荷が重いかもしれぬ。

「王よ! お一人で進み過ぎです!」

「急がねばならぬ!」

「辺りは兵士と冒険者で封鎖しています。逃げきれませんよ」

「相手が普通の盗賊ならばな」

 アジトにいた連中が捨て駒レベルだとすると、逃げた奴らの強さが分からぬ。

 決して無理はせずに、時間を稼いでくれれば良いのだが……。

「報告! 包囲網の一か所で戦闘が行われている模様です」

「ぬ。魔物か?」

「いえ……。相手は人間――盗賊と思われます」


「こ……これは……」

 報告のあった場所まで馬を飛ばしてみると、そこには盗賊()()()四名と、こちらで雇ったと()()()()冒険者達七名がいた。

 確証が持てない理由は、四名が地に伏せられており捕縛が完了していること。

 そして、それを為したと思われる冒険者の内、三名が見たことも無いような恰好――武具を装備していた。

 確かに、冒険者の中には高い実力を有するパーティも多い。世界中を旅し、ダンジョンに挑み、自身を鍛錬し、また貴重な資源を使って武具の強化を行う。

 そんな冒険者と国の兵士では、実力では大きな差が出てしまうだろう。もちろん冒険者の方が強い。

 とは言っても、そんなに強い冒険者の場合、ランクも高い。何より、国が発行した依頼を受けてくれるというよりは、国が依頼を受けてくれるように依頼をする立場になる。

 今回、そのような冒険者はいなかったと記憶しているはずじゃ……。

 いや。捕縛されているのが本当に盗賊なのかどうかの確認が先じゃな。

 四人ではなく、七人の方の、恐らくは代表者と思われる男性に声を掛けるか。

「失礼。貴殿らは冒険者と見受けるが、証を見せてくれないか」

 いくらこちらが国、そして王と言えど、高名な冒険者が相手の場合は、ある程度の礼儀が必要になる。

「あ、はい。そうです。えーっと、これが冒険証と今回のクエストを受注した証です」

 そう言って男性が見せてくれた冒険証には、名前や今回の盗賊討伐のクエストの内容が書かれたいた。

 これは予め決めていたやり取りだ。

 仮に、盗賊が逃げだして、冒険者を倒しそれに成りすまし、兵士達の目を欺こうとするかもしれない。

 そういった場合のために、冒険者自身しか晒すことの出来ない冒険証のシステムを利用し、自分が盗賊ではない事を証明するための手段としていた。

「ふむ……確かに冒険者で、クエスト受注した者達じゃな」

 念のため六人の冒険証を確認し、六名ともが冒険者で盗賊ではなかった。

 もう一人は、冒険者を引退しているものの、今回の国からの呼びかけに応じ参じた者だという。

 引退した者には冒険証はないため、先のシステムは使えない。

 しかし、そういった場合のために、冒険者ギルドが似たようなシステムが出来る書類を発行している。今回はそれを利用している。

「そちらも今回の協力者じゃな。うむ。七名とも盗賊ではないという事じゃな」

「はい、王様。そちらに捕まえている四名が盗賊です」

 儂を王だと知っていて、臆する事のない態度……。やはり、大物の冒険者か? しかし、アキヒトという名前は聞いた事がない……。

 どちらにせよ、今回の功労者。礼を尽くすのは当然と言える。

「うむ。ご苦労じゃった。しばらくは引き続き包囲網を頼む。おい、その四人を連行しろ。他の者は付近の捜索と、包囲網をさらに警戒するように!」

「はっ!」

 逃げだした盗賊の人数は不明のまま。そんなに多くは逃げてはいないと思うのだが、まだ隠れているかもしれない。

 やれやれ。一段落はまだか。




 兵士の定期連絡で、盗賊が逃げだしたという情報が入った。

 そのため、警戒を強化していきたい所だったけれど……。

「そりゃそうなるか……」

 ガサリと音がした方向を見ると、武器を持った四人の男達がこちらに向かってきたのだ。

 これまで、襲ってくるのは魔物だけだったので、てっきりまた魔物かと思っていたけど人間だった。

 兵士の話を聞いた直後なので、盗賊なのかもと思ってしまうのは当然だ。

 でもここは落ち着かなければいけない。

「待て。お前ら冒険者か?」

 俺達と同じく、包囲網で警戒している冒険者の可能性もあるのだ。

 ここじゃなくて、他の場所に盗賊が現れて、そして難を逃れて逃げてきた冒険者達。それが彼らの正体という事だ。

「まぁそんな訳無いんだけどね」

 冒険者なら冒険証を提示する事になっているはずだ。

 それにアルルが言ってくれた。

 嗅いだ事がない、冒険者でも兵士でもない人が近くにいます、ってね。

 それを証明するかのように。

「時間を掛けずに、そして確実に殺してやるよ。冒険者さん」

「くそぉ。女ばっかりじゃねぇか。こんな時じゃなきゃ楽しめるっていうのに」

「殺すのも楽しいだろ?」

「殺す……早く」

 本性を隠す事なく襲ってきたのだ。

「さて。安全第一。出し惜しみ無しだ。行くぞ、マリア、アルル!」

「いいわよ!」

「いきます!」

 相手は盗賊。俺達よりも戦闘の経験が多く、人との戦いに長けた奴らだ。

 そんな奴ら相手に、こちらも全力で挑む必要がある。手を抜いて怪我でもしたら意味がないからな。

「イージスの盾!! そして、グングニル!!」

 なので初手から全力だ。

 相手は四人。マリアとアルルに武装を展開させて、それぞれ一人ずつ相手をしてもらう。

 普通ならば危なくてタイマンとかはさせたくはないけど、俺の召喚で武装した二人ならば、そこらの人間には負けないだろう。

 そして残りの一人をヴァルマが、最後の一人を残りのメンバーである、俺とイヴァン、カタリーナにミネットで相手をする作戦だ。

 ヴァルマも普通の強さじゃない。盗賊相手なら安心して任せられる。

「ってヴァルマ……。その姿は何なんだ?」

 気付くと、ヴァルマの恰好が変わっていた。

 いつものどこにでもある防具ではなく、なんか鱗というか、龍っぽくなってる。

「これかえ? 傷も大分癒えておるからの。身体の一部をこうやって龍に戻しているのじゃよ。ちょっとだけ龍神状態じゃな。マリア殿やアルル殿の変身が格好よくての。真似してみたのじゃ。どうじゃ?」

 召喚とは違うけど、言われてみれば確かにマリアやアルルみたいな変身に見える。これなら龍神ってことは分からないだろう。

 しかし、ただでさえ強かったヴァルマが、これでもっと強くなるっていうのか……。恐ろしいな。

 でも、マリアとかアルルのを格好いいから真似って、案外可愛い所もあるんだな。

「ま、まぁいいか。それじゃ皆、行くぞ!」


 盗賊は強かった。確かに強かった。そこらの魔物よりも、ダンジョンのボスにも匹敵するような強さと戦いにくさだった。

 でも、勝負は危なげもなく終わってしまった。

 人間の急所や、防御しにくい場所ばかり狙う盗賊の攻撃も、マリアの防具の前では、何の意味も為さなかった。

 相手に捕らえられない速さで動き、翻弄しつつ仕掛けてくる盗賊の攻撃も、アルルの動きには追いつけず、何の意味も為さなかった。

 炎や氷といった魔法を撃ってくる盗賊の攻撃も、ヴァルマの鱗の前では、何の意味も為さなかった。

 大剣で豪快に攻撃を仕掛けてくる盗賊の攻撃も、イヴァンとカタリーナで防ぎ、ミネットと俺が補佐をする前に、何の意味も為さなかった。

「正直ここまでとは思ってなかった」

 俺達は特に被害を出す事もなく、襲ってきた盗賊四人を無力化し、捕縛する事が出来た。

 いや、盗賊も強かったさ。

 魔物とは違った攻め方をしてくるのは当然だし、何より対人の経験があるせいか、嫌らしい攻撃ばかり仕掛けてきた。

 その全てを防いだり、避けたり、そして無効化していたのがマリアとアルルとヴァルマだ。

 俺達は普通に四人で強力して、一人を相手にした。さすがに四対一では盗賊も分が悪かったのだろう。押し切る事が出来た。

 現役を退いたとはいえ、やっぱりイヴァンの守りは頼りになる。Jrを召喚しても良かったけど、消耗を減らす事が出来るなら減らしておきたいしね。

「誰か……来ます」

 アルルの鼻も頼りになるな。

 まだ盗賊が潜んでいたのか? アルルはそろそろ消耗が激しいから、解除しておかないとまずいかもしれないけど……。

 ってあれは……。

「失礼。貴殿らは冒険者と見受けるが、証を見せてくれないか」

 一度見ただけだけど、王様だよね?

「あ、はい。そうです。えーっと、これが冒険証と今回のクエストを受注した証です」

 そうか。さっきと立場が逆になったのか。

 俺達が盗賊ではないかと疑われているって事だな。

「ふむ……確かに冒険者で、クエスト受注した者達じゃな」

 ほっ、良かった。

 マリア達も冒険証を見せ、誤解は晴れた。

 イヴァンは冒険者ではないので、証はないけど、似たような書類を受け取っていたので、イヴァンも大丈夫だ。

「そちらも今回の協力者じゃな。うむ。七名とも盗賊ではないという事じゃな」

「はい、王様。そちらに捕まえている四名が盗賊です」

 王様に対応する礼儀があやふやだけど、場所もこんなだし、今は盗賊のが優先だよね。

「うむ。ご苦労じゃった。しばらくは引き続き包囲網を頼む。おい、その四人を連行しろ。他の者は付近の捜索と、包囲網をさらに警戒するように!」

「はっ!」

 どうやら良かったみたいだ。

 っとそうか、まだクエストは終わってないんだな。

 まだ逃げだしてくる盗賊がいるかもしれないって事か。でも王様達突入組がここにいるってことは、一段落はしてるのかな?

 とりあえず。

「アルルはそろそろきついだろ。まだ待機っぽいし、皆も武装解除して少し休もう」

「そうね。この恰好でずっといるのは疲れるわね」

「はい……すみません」

「わらわはむしろこの姿のほうが落ち着くのじゃが……。目立つのぉ」

「はは……。アキヒト君の仲間は皆凄いんだね」

「そうです。マリアお姉様は凄いんですよ!」

「アキヒトさんも凄いのです!」

「ほら、休憩だ! そしたらまた交代で警戒するぞ!」

 あの時以来の盗賊との戦い。

 あの時にもし力があったら……。マリアに嫌な思いはさせずに済んだんだけどな。

 でも、今回は皆のお蔭で対応出来た。俺一人じゃ何も出来はしない。皆がいたからこそ出来たんだ。

 ……さて、もうひと頑張りだな。


ご意見ご感想があれば嬉しいです。

が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……


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