02 噂と再会
どうも短くなりがち……
宿屋の部屋に入れば俺は一人だ。
一人になったらやる事。それは……。
「気配は特にありません。この辺りにはないか、もしくは人が近寄らない所なのでしょう」
「そうか……。分かったよ。さすがにこんなに近い場所には作らないか」
俺の会話の相手は、トキだ。
戸田の研究所の場所を探るために、トキに気配を探って貰ったのだ。
手記では、別な場所に研究所をと書いてあった。なので、念のためこの街での状態を確認したのだ。
結果は残念ながら無さそう、という事だ。
まだここはウィック大陸からも近いし、もっと北にと書いてあったので、期待はしていなかったから、落胆もなかった。
「いえ。マスターは気まぐれな所もありましたから、どこに研究所を構えているかは分かりませんし、一か所だけとも限りません」
「そうなると……、やっぱ地道に足で探すしかないか……」
もっと分かりやすい所に構えて欲しいけど、内容が内容なだけにそれも難しいか。
戸田の研究所探し……。簡単とは思っていなかったけど、やっぱ難航するなぁ。
ここに無いとすると、長居する理由もないし、サクっと通過しちゃうか。
買い物中、その辺にいた人達の会話が聞こえてきた。
「おい、聞いたか? また盗賊が出たってよ」
「あぁ聞いた聞いた。どっかの商人が襲われたってな。冒険者を雇っていたけど、被害が出たって話だぜ」
「最近多いなぁ……。国は何をやってるんだか」
「冒険者ギルドは動いているけどなぁ。どっちにしろ、落ち着くまでは街から離れないようにしようぜ」
「だなぁ……」
盗賊、か……。
冒険者ギルドでも注意喚起はしていたけど、そんなに頻繁に起こっているのか……。
護衛を雇っていても襲ってくるのか。よっぽど強い盗賊って事なのかな。
慢心する訳ではないけど、俺達は強いはずだ。ヴァルマだっている。
でも、相手は人間だ。
前はギリギリの状態で、正常な判断が出来ない状態だった。だから殺せた。殺せてしまった。
でも、普段の俺は、盗賊を殺せるのだろうか……。
倒す殺すにしても、遭遇しない方がいいのは当たり前だ。
「物騒ね……。盗賊は……もう会いたくはないわ」
「盗賊……怖いですね」
「民が被害にあっているのなら、国が動くのが当たり前なんですけど……、対応中なのでしょうか」
「会いたくないのは同意じゃの」
「ウィック大陸じゃ盗賊はいませんでしたし、私も怖いのです」
皆も盗賊にはいい感想はないようだ。盗賊なんてぶっ殺す! とかじゃなくて良かった。
しかしそうなると、いつここを発つかは考えないといけないな。
国が動くのが筋という事らしいけど、どういう状況なのだろうか。
……冒険者ギルドなら詳しい状況が分かるのかな?
「盗賊について、冒険者ギルドで聞いてみるか。被害が大きいようなら、ここから動く訳にはいかないしな」
街の人の話だけでは情報が少なすぎる。
皆もそう考えていたのだろう。俺の意見に同意してくれた。
冒険者ギルドは今日も混んでいた。
と言う事は、まだ盗賊関連の依頼が多いという事なのだろうか。
依頼の張り紙は……。
やはり護衛募集系が多い。
隣町までとか、ウィック大陸に行くのもあるようだ。
「盗賊依頼減らねぇなぁ……」
「稼ぐにはもってこいだけど、盗賊も結構厄介らしいぞ。この前にあのパーティがやられたとか……」
「それらしい根城も無いみたいだしなぁ」
「こっちも徒党を組んで挑まないと……。国からの依頼はまだなのか?」
「もうじきって噂だけどな。だからこそ、今は安易に動かない冒険者も多いんだろう」
聞こえてくる会話も、結構な丈夫だ。
国からの依頼、か。
盗賊被害がここまで大きくなると、国が冒険者を雇って討伐するって事になるのだろう。
盗賊は徒党だ。数も多いし、地理にも詳しいのだろう。
とすると、こちらも数を揃えて団結して挑む必要があるという事なのだろう。
その討伐が終わってからなら安心だろうか。
「あれ、ミネットじゃないか。こんな所で何してるんだ?」
「に、兄さんです?!」
異国の地の冒険者ギルドで、まさかの再会を果たした。
「久しぶりだな」
「うん。アキヒト君もマリアさんも久しぶりだね」
冒険者ギルドでミネットに声を掛けた男性。
それは、ミネットの兄であり、俺達の仲間であるイヴァンだった。
混雑している冒険者ギルドでは話も出来ないため、適当な店にと退避したのだ。
「それにしても、今はローザと一緒に故郷にいるんじゃなかったのか?」
「うーん、あまり声を大きくして話す内容じゃないんだけどね」
イヴァンの話によると、国が、国内で起きている盗賊被害を鑑みて、各地の冒険者や元冒険者に声を掛けているらしい。
それも大々的にではなく、盗賊に感づかれないように、知り合いなどを通じて裏からこっそりという事らしい。
国に協力するという理由もあるけど、一番は村のため、妻と子のために、何か協力出来る事が無いかどうかと、国からの声に応じたらしい。
イヴァン達のいる村は、盗賊被害の範囲からは外れているが、いつその盗賊が河岸を変えるか分からない。
危険は承知の上だけど、国が動いている内にみんなで芽を摘めたら、という思いのようだ。
「ローザとも相談したんだけどね。村でじっとしている方が安全だけど、それじゃみんなを守ったとは言えないと思って。だから僕だけでも協力しようって思ったんだ」
イヴァンは漢だ。
ただでさえ、ここまで来る途中も盗賊に襲われる可能性だってあったはずだ。にも関わらず、ここまで来ることを選んだ。
「子供は小さいんだっけ?」
「うん。まだ産まれたばかりなんだよ。それがもう可愛くってね~」
あ、長くなりそう。
「兄さん。おめでとうございます。それで、兄さんはこれからどうするんですか?」
おっと、さすがは妹か。暴走しそうなイヴァンを抑えたぞ?
「えっと。国から依頼が来るはずだから、そこに参加するつもりだよ。と言っても、もう引退した身だからね。後方支援って事になると思うよ」
俺達よりも、イヴァンの方がよっぽど情報を知っていそうだ。
そのまま俺達は、皆の自己紹介と情報交換、そして再会の会話で盛り上がった。
「相手の動きはどうなってる?」
「数と道具を揃えてきているようですね。かなりの数かと」
「こちらの戦力で足りるか?」
「それは十分かと」
「ふむ……。あまり自由にさせておくのも煩わしい。そろそろ動くか」
「はい。そろそろ頃合いかと」
「では、明日に動く。皆の準備を進めておくように」
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




