c1 マリアと杞憂
ミネット。
昔一緒に組んだ事がある、女の子の魔導士。
ワタシは魔法が使えないし、アキも魔法が使えないから、魔導士と組む事はメリットが大きい。
盾役もこなすミネットの兄と、同郷だという力持ちの女戦士。その三人と組むとバランスのいいパーティになった。
でも色々あってその三人とは組めなくなった。
それからしばらくは、アキと二人きりの冒険に戻った。
その後、アルル、カタリーナにヴァルマと仲間が増えていった。……全員女性だったのはたまたまかしら?
ヴァルマはアキの子……子種が欲しいって言っているけど、それってあれよね……。
それを考えると少しイライラするけれど、ヴァルマは良い人なのよね。
「おはようございます、マリアお姉様!」
「カタリーナおはよう」
カタリーナもいい子だ。少し私に執着しているというか、慕い方が凄い気がするけれど……。
「アキ達は……まだ寝てるのかしら?」
ミネットを仲間に加える事が出来たので、しばらくはこの国でゆっくりする事になっているわ。
だから、特に予定も経てないで毎日まったり……と言っても、朝はきちんと起きるのだけれど。
「私はまだ見ていませんが……」
今日は少し寝坊をしてしまったから、もしかしたら先に起きていたのかもしれないわね。
「おや? マリアちゃんにカタリーナちゃん、おはよう!」
団長さんは朝から元気ね。
お世話になっているし、ヴィータネンの人達も皆いい人なのだけれど、この団長さんは少し苦手ね。
……距離感が分からないわ。
「おはようございます、団長さん。ところで、アキ達見かけませんでしたか?」
「あぁ、アキヒトちゃんなら、ミネットちゃんと一緒に冒険者ギルドに行ったよ?」
知っているかもで聞いたけれど、知っているなんてね。
冒険者ギルド……。確か、ミネットの正式なパーティ登録がまだだったから、それかしら?
でも……二人で?
ワタシにも声を掛けてくれてもいいんじゃない?
「そうですね……。カタリーナは今日は暇かしら?」
「はい! マリアお姉様のために毎日開けていますわ!」
それはそれで怖いのだけれど……。
「そ、そう。良かったら出掛けないかしら?」
「はい、喜んで!」
まずは……冒険者ギルドに行きましょう。アキもいるはずだしね。
「あ、あの。カタリーナ? そんなにくっ付かれると歩きにくいのだけれど?」
「いえいえ。この国ではマリアお姉様を狙う輩もいますので、そのためです。それにデートですし!」
そう。この国だとナンパがされやすい。それも女性からされる。
女性のワタシが女性からナンパという、良く分からない事が起きる。
それを防ぐためにとカタリーナがくっ付いてくるのだけど……。まぁこの子も悪い子じゃないし、悪気がある訳じゃないしね。
「そ、そうね……」
こうして街を歩いていると、同じようなカップルが多くいるのが分かる。
ワタシ達も、カップルに見られているのかしら……。それはちょっとあれね。ワタシは普通の男性が好きだから……。
女性が過ごしやすいという点なら、この国はいいわね。
その分、アキが大変な思いをしているのだけれど……。ごめんね、アキ。
カタリーナと歩いていたら、もう冒険者ギルドね。
「あら、なんだか中が騒がしいわ」
冒険者ギルドが騒がしいのは通常通りの事。それでも、少し騒がしすぎるわね。
「なんでしょうか。マリアお姉……え、中に入るんですか?」
イヤな予感がするしね。それにこの国でこの騒ぎっていったら、男性絡みでしょうし。
「い、嫌です!」
今のはミネットの声よね? あの子がこんなに大きな声で拒絶するなんて……。やっぱり何か起きているのね。
「男なんかより、アタイ達と一緒のが楽しいよー?」
「そうそう、ほらこっちに来なよ」
今の声は知らない声ね。
これは……ミネットがナンパされているのかしら?
アキも一緒にいるはずだけど、ここじゃ男性はあれだしね。アキが悪い訳じゃないのだけれど……。
ここはワタシが頑張るしかないわね。
「ちょっとあなた達、私達の仲間に何をしているのかしら?」
やっぱりそうね。
アキとミネット。それに知らない女性が二人。
ミネットがアキの後ろに隠れているから、やっぱりナンパされていたのね。
アキが困っているわ……。ワタシ達にはいい国だけど、やっぱりアキには辛いわね。
「何々? 君もかわいいね。一緒に遊ぼうよ」
この人たちは……。ミネットだけじゃなくワタシまで?
「ミネットもイヤって言ってるじゃない。それともこの国じゃ強引に女の子をナンパするのかしら?」
「そんな男なんかよりも、アタイ達といるほうが楽しいよ?」
そんな……男?
貴方達はアキの事を知らないのは仕方ないわ。
見た目も戦士じゃなくて頼りない魔導士に見える。
でも、アキは強いし心優しいわ。
消える運命だったワタシを救ってくれたし、苦難に立ち向かう勇気もある。
ワタシはそんなアキの事が……。
「アキなんか……より? ワタシはアキといると楽しいし、とっても頼りになるわ。少なくともアナタ達とは一緒にいたいとは思わないわね。カタリーナとミネットもそうよね?」
「はい。マリアお姉様と一緒の方がいいです!」
「私もアキヒトさんと一緒がいいです」
カタリーナは残念な回答だけど、やっぱりミネットもアキの方がいいわよね。
「ほらね。あまり強引な勧誘していると、相手になるわよ?」
「ちっ……。もういいわ」
「くそ。男がこの国ででかい顔をするんじゃないよ、まったく」
冒険者のいざこざはよくある事だけど、今回はすんなり引いてくれたわね。
「さすがです、マリアお姉様!」
「ふぅ……。良かったわ。アキもミネットも無事ね?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
「は、はい。ありがとうです……」
「あんな人達もいるのね……。女性の国なのは分かるけれど、でも男性を蔑ろにするのはどうかと思うわ」
だけど、やっぱり男ってだけでこの国だとあれなのね……。
アキの良さを分かってくれたら、みんなもいいのに。
「それにしても、いつの間にいたんだ、マリア達」
「シグネ団長に聞いたのよ。それよりも出かけるなら声を掛けてくれてもいいじゃない」
そうよ。ミネットと二人きりだったからナンパなんてされるのよ?
大勢でいれば、それだけ安全になるのよ?
でも、それだとハーレムって思われてしまうのよね……。
それがアキにはイヤみたい。
ハーレム……。確かに、男性一人に対して女性が大勢ってあれよね。女性も一人なら……? でもそれも難しいわよね。
「前はアルルとヴァルマと出掛けたでしょ? なら今度は私達の番じゃない?」
「んー、まぁもう用事は済んだし、四人でどこかぶらぶらしていくか」
「ふふ、決まりね! それじゃアキ、行きましょ。カタリーナとミネットもね」
ちょっと人数が多いけど、アキとお出掛け。これなら安心よね。
アキとのお出掛けは楽しかったわ。
久々に羽を伸ばした感じね。
カタリーナもミネットも楽しそうだったし、合流して良かったわ。
……でも。
アキは最近少し寂しそうな顔をする時がある。
ちょうどあの研究所に行った頃ね。
やっぱり何かあったのよね。
手記って奴はワタシには読めなかったから、何が書いてあるか分からなかったけど、多分それだわ。
何かを思いつめたような感じ……。
この世界に初めて来てしまったときみたいな、そんな感じ。
アキに聞きたいけれど、聞いてしまったら何かダメなような気がするの。
でも、なんだかアキが遠くに行ってしまうかもしれない。そんな事すら思ってしまう。
……アキはワタシが護るわ。だから、アキはどこにも行かせない。
これから、ミネットを加えてこの六人で楽しく冒険していくのよ……。ずっと。
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




