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16 目的と別れ

「改めて、ミネットです。よろしくお願いします」

「よろしくー」

 数日後、ミネットの加入が正式に認められ、俺達のパーティへの加入と相成った。

 今はパーティでの交流をしている。

「ミネットは確か炎が得意な魔導士よね?」

「はい。攻撃メインで、サポートは余り出来ないのです……」

「私は氷でサポートが得意だから、ちょうどいいわね」

 ミネットは炎が得意な魔導士だ。炎にはサポート系の魔法は少ないので、攻撃型の魔導士と言えるだろう。

 回復も、少しは出来るようになってきたみたいだ。

 対して、カタリーナは氷が得意な魔導士だ。氷でも攻撃は出来るが、壁にして身を守ったりとサポート的な要素が強い。

 相反する属性と言えるが、いいコンビと言えるだろう。

 人数もパーティ上限の六人になったことだし、これで後衛も充実だろう。

「アルルは魔法が使えないから、ミネットさんもカタリーナさんも凄いと思います」

「でもアルルちゃんは速いし、攻撃もとても強いのです」

 ミネットが加わったことで攻撃の幅も広がるし、俺の負担も減るだろう。


「それで、これからどうするのじゃ?」

 交流と言っても、今までもヴィータネンの人達を交えてやっていたし、雑談のような感じだった。

 話が一息ついた所で、ヴァルマがを尋ねてきたのだ。

「これからって、今後の方針か?」

「そうじゃな。ミネット殿という仲間を迎えたのじゃが、今後どうするかじゃな」

「んー、そうだな……」

 色々な事があって、巻き込まれて。正直、この六人で生活するだけなら十分なくらいの資金は持っている。

 適当に安いけど楽なクエストをこなしていけば、一生暮らしていけるだろう。

 強いて言えば、()の目的は戸田の研究所を探したい。トキという強力な召喚獣もそうだけど、やっぱり同郷の行方は気になる。

 でも、()()の目的となると……。

「まずはイヴァン――ミネットの兄の所に挨拶に行く事かなぁ」

 イヴァンとローザは結婚、冒険者を引退して故郷で暮らしている。

 ミネットだけはこの国で冒険者を続けているけど、やっぱり当初の予定通りにイヴァン達に会いにいくというのが目的になるだろう。

「確かミネットの兄上だったかえ?」

「はい。私の兄さんです。今は故郷で暮らしています」

「ほぉ。故郷はどこなのじゃ?」

「ここから東にいった大陸です。そこの小さな村が私達の故郷です」

「そうなると、この国ともお別れということになるのじゃな……。変な国じゃったが、これはこれで楽しかったのじゃがな」

「別に今日明日出発って訳じゃないけどな」

 確かイヴァン達の村は、俺達が出会った街――ワーズヴェシンからそう遠くない位置にあったはずだ。

 となると、あの辺まで戻るのかな?

 それに、ここまで結構急ぎ足の旅だったのだ。ここで少しはゆっくり……するには俺は辛い国だけどな。

「出立するタイミングは決めるから、それまではこの国でのんびりしよう」

「分かったのじゃ」

「分かりましたです」

 これでとりあえずの方向性は決まった。


 その翌朝。

 そういえば、ミネットの加入は認められたけど、まだ冒険者ギルドに届けていないな。

 今のままだと、ミネットはどこにも属していない宙ぶらりんの存在になってしまう。

 これは早めにやっておかないとマズイな。

「という訳で、ミネット。一緒に冒険者ギルドに行こう」

「あ、そうですね。まだ届けていなかったのです」

「お? 何々? 二人でお出掛けするの?」

 ここはヴィータネンの人達のたまり場の宿屋だ。もちろん、ヴィータネンの人達も泊まっている。

 そこで、一番面倒な人に見つかってしまったのだ。

「いえ……ちょっと冒険者ギルドに行くだけですよ、シグネ団長」

「あ~。登録か。でも気をつけてね」

「何にですか?」

「ミネットちゃんの事は周知はされているからいいけど、他にも引き抜かれるかもとか、引き抜いて欲しいとかで声を掛けられちゃうかもしれないからね」

 クランからの引き抜きというのは珍しい話ではない。クランからクラン、クランからパーティへなどなど。

 今回のミネットの事もその一つでしか過ぎないけれど、引き抜いたのが男の冒険者というのが珍しいということらしい。

 この国はハーレムを夢見てくる男が多い。

 女性側は、男なんていらないとか、まだ恋愛はしなくていいかなとかが大多数らしいけど、中にはそのハーレムに誘われたいって願望を持つ女性もいるそうだ。

 なので、ミネットを引き抜いたという実績を持つ俺が、他にもハーレム要員を増やすために引き抜きをするんじゃないかとか思われるらしいのだ。

 もちろん、引き抜かれたくないクランもあるので、俺に近づくと引き抜かれるぞ注意しろ! みたいな事にもなるらしい。

「それは……面倒ですね」

 なんとも面倒な国だ。

「まぁ、アキヒトちゃんはこれでフルの六人だから、もう人数は増やさないよって事も周知してあるから、大丈夫だと思うけど……もう増やさないよね、ハーレム」

「ハ、ハーレム、なんですか?」

「だからハーレムじゃないですし、もう増えませんよ。ミネットも! ほら、行くよ」

「あ、ちょっと待ってくださいですー」

「はいはい~。行ってらっしゃい」


 シグネ団長に言われて、少し注意しながら来たけど、特に何事もなく冒険者ギルドでミネットの加入申請が済んだ。

「これで正式にミネットは俺達のパーティだな」

「はいです!」

 さて、後は……適当にぶらぶらするか?

 こうしてミネットと二人で歩く事なんて無かったしな。これからはパーティメンバーだし、俺も仲良くしていかないとね。

「おやぁ? ちょっと可愛い娘連れてるじゃん」

「お嬢さん、そんな奴放っておいてこっちで遊ぼうよ」

 そんな気持ちを一気に萎えさせてくれる人達の登場だ。

 因縁を付けられるというのは、ある意味でテンプレ通りの奴らだ。

 しかし、やはりこの国は普通とは違う。

「あれ、クランから引き抜かれたって娘じゃないか?」

「ちょうどいいじゃん。そんな奴よりアタイ達と一緒に組もうよ」

 絡んできた二人組は、両方とも女性だったのだ。

 この展開はちょっと予想外だったな。シグネ団長のアドバイスとは反対だな。

 ミネットが引き抜かれそうに、というかナンパされるなんて。

 さてどうしようか……。

 男としては、文句を言いつつミネットを守るのがカッコいいのだろうけど……。

「い、嫌です!」

 ここでは女性が強いのだ。

 もちろんミネットも例外ではない。というか、大人しいと思っていたけど、女は強いなぁ……。

「男なんかより、アタイ達と一緒のが楽しいよー?」

「そうそう、ほらこっちに来なよ」

 とは言っても、だんまりなのもいかがなものだろうか。よくはないな。

「ちょ……」

「ちょっとあなた達、私達の仲間に何をしているのかしら?」

 俺の発言にかぶせてきたのは、いつの間にか来ていたマリアだ。後ろにはカタリーナもいる。

「何々? 君もかわいいね。一緒に遊ぼうよ」

「ミネットもイヤって言ってるじゃない。それともこの国じゃ強引に女の子をナンパするのかしら?」

「そんな男なんかよりも、アタイ達といるほうが楽しいよ?」

 俺は蚊帳の外だ。だけど、ミネットは俺の後ろで守っているし、何も発言はしてないけどカッコいいだろ……?

「アキなんか……より? ワタシはアキといると楽しいし、とっても頼りになるわ。少なくともアナタ達とは一緒にいたいとは思わないわね。カタリーナとミネットもそうよね?」

「はい。マリアお姉様と一緒の方がいいです!」

「私もアキヒトさんと一緒がいいです」

「ほらね。あまり強引な勧誘していると、相手になるわよ?」

「ちっ……。もういいわ」

「くそ。男がこの国ででかい顔をするんじゃないよ、まったく」

 マリアの恥ずかしカッコいい発言の前に、ナンパ野郎――野郎じゃないな。女二人組はどこかに行ってしまった。

「さすがです、マリアお姉様!」

「ふぅ……。良かったわ。アキもミネットも無事ね?」

「あ、あぁ。大丈夫だ」

「は、はい。ありがとうです……」

「あんな人達もいるのね……。女性の国なのは分かるけれど、でも男性を蔑ろにするのはどうかと思うわ」

「それにしても、いつの間にいたんだ、マリア達」

 俺とミネットが出かける時には見掛けなかったけど、よくここにいるって分かったものだ。

「シグネ団長に聞いたのよ。それよりも出かけるなら声を掛けてくれてもいいじゃない」

 別にミネットと二人でって意思は無かったけど、見掛けなかったしなぁ……。

「前はアルルとヴァルマと出掛けたでしょ? なら今度は私達の番じゃない?」

「私はマリアお姉様と二人がいいのですが……。いえ。マリアお姉様がいるのでしたらいいです」

「んー、まぁもう用事は済んだし、四人でどこかぶらぶらしていくか」

「ふふ、決まりね! それじゃアキ、行きましょ。カタリーナとミネットもね」

 この日は四人で楽しく過ごした。とても疲れはしたけど、こういう日も悪くはないと思う。

 女性は強い。いや、強い女性が多いのか?




 数日後。俺達は出立する時期を決め、世話になったヴィータネンの人達にも連絡をした。

「それじゃ、アキヒトちゃん達はこの国を出て東に行くんだね」

「えぇ。元々はミネットの兄も会うつもりでこの国に来ましたからね」

「そう……寂しくなるね。冒険者をやっていると、出会いと別れには慣れるけど、やっぱり別れは寂しいよ。ミネットちゃんだけじゃなくてマリアちゃん、アルルちゃんにカタリーナちゃんにヴァルマちゃんともお別れなんて」

 ミネットは分かるけど、後は元々俺のパーティメンバーですけど?

「まぁ生きて別れを迎えられるのは事になったのは嬉しいのかもね」

「皆さんには大変お世話になりました。ありがとうございます」

「うんうん。皆も元気でね。またこの国に来ることがあったら、うちの宿に来るといいよ。歓迎するから」

 冒険者にとっての別れには色々ある。

 ミネットみたいに他のパーティへ移動したり、イヴァン達みたいに引退をしての別れ。

 そして、仲間を死なせてしまっての別れ。

 生きていればいつか会う事も出来る。でも死んでしまったら、もうそれは一生の別れになってしまう。

 俺達はその別れは経験していない。経験したくない。マリア達もイヴァン達も、誰ともその別れを経験したくはない。

 でも、もし俺は元の世界に戻る事が出来たら……。

 新たな仲間、ミネットを加えて、俺達はウィック大陸を後にした。


ご意見ご感想があれば嬉しいです。

が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……


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