15 勝負の行方と加入
「あ、やっと戻ってきたよ」
トキの話、そして手記の衝撃の内容にどのくらい時間が掛かったのか分からなかった。
それでもヴィータネンの人達の様子を見るに、そんなに時間は経ってなかったみたいだ。
「カタリーナちゃんから話は聞いたけど、トダの関連施設なんだって?」
先に戻っていたカタリーナとヴァルマから事情は聞いているみたいだ。
「そうみたいだ。中も見せて貰ったけど、住居兼研究所って感じだな」
「おー! それで何かお宝はあった?」
「あのボスに持ち出しは禁止されたし、お宝って物はなかったなぁ」
トキの存在と手記は俺にとってはお宝って言葉で言えるレベルではない。
あの手記は日本語で書かれていた。他にも戸田の手記とかが残されていて、解読がされているなら読めてしまうだろう。
戸田が他の世界――日本から来た事と、帰るために召喚獣を創っていたこと。それは驚くべき情報だろう。
皆に知らせていいのだろうか? それとも内緒にしておくべきだろうか……。
……俺が判断するような事じゃないけど、俺達はトキに認めて貰ってあの研究所に入る事が出来た。勝手に言いふらしていいとは思えない。
「それで……何やってたんだ?」
「ちょっとね……」
てっきりみんなで休憩してまったりしているのかと思ったら、何故かちょっと運動したみたいな様子だ。
仮にもダンジョンだし、魔物でも現れたのかとも思ったけど、ここは一応ボスの間だし魔物は入ってこないと思う。
シグネ団長は、いい運動したぜ! という感じで、ヴィータネンの他のメンバーは疲れたのか座り込んでいる。
対して、カタリーナとヴァルマはまったりムードだ。
ここまで暇をしていたから、運動というか鍛錬でもしていたのだろうか?
「とりあえず、用事は済んだから戻りたいけど……」
「あ、そうだね! よし、皆戻るよー」
……ミネットとかは疲れ切っているようにも見えるけど、大丈夫なんだろうか……。
ボス――トキとの戦いもなく、消耗が全然なかったため帰路も俺達が先を歩き、ダンジョンから無事に街へと戻る事が出来た。
実際はトキとは五回戦っているはずなんだけど、その記憶も記録も俺達には無い。
そもそもダンジョンに行った理由ってなんだっけか?
ヴィータネンの宿に戻った所で、そのままシグネ団長に招集された。
「さてと……。色々と説明したい事されたい事もあるけど、まずは結果から言うね。ミネットちゃんの脱退とアキヒトちゃん達のパーティへの加入を認めます」
あー……そういえばそういう話だった。
ミネットを賭けての腕試しという名目で、ダンジョンに挑んだんだった。
も、もちろん忘れていた訳じゃないぞ? 色々あったせいだからだ。
しかし、ボスで腕試しをするという話だったはずだ。それが出来ていないはずなんだけどな……。
それとも、カタリーナ達が説明をしたのだろうか?
「えっと、ボスと戦っていないんだけど、いいのか?」
「基本的な実力は道中で分かっていたんだけどね。決め手になったのはヴァルマちゃんだね」
「あの実力は規定外です……」
「魔法が当たらないばかりか、当たっても聞いてなかったです……」
おや? ヴァルマは道中戦っていないはずなんだけどな。どうしてヴィータネンの人達がヴァルマの実力を知っているんだ?
規定外なのはそうだし、並みの魔法じゃ効かないだろうしなぁ……。
「実はね。アキヒトちゃん達を待っていた時に、暇だったからヴァルマちゃんと手合わせをしたんだよ」
その結果、シグネ団長を始めヴィータネンの人達全員で挑んでも、手も足も出なかったという訳らしい。
だから皆疲れ切っていたのか……。
「ヴァルマちゃんは強い。私達よりも強い。だからミネットちゃんの事も安心かなって思った訳! むしろヴァルマちゃんを勧誘したいくらいなんだけどね」
「実際勧誘もしてましたしね、団長……」
「でも断られちゃった!」
それでその場にいたヴィータネンの人達で相談した結果、ヴァルマの実力――つまりは俺達のパーティの実力を認めたという訳らしい。
「しかし、一応ヴィータネンの人達にも通達はします。異議は出るかもしれませんが、ヴァルマさんがシグネ団長よりも強いとなれば納得もするでしょう」
「という訳ね。まぁ今までも脱退する人はいたしね」
「それじゃ今日からパーティに参加って事になるんですか?」
パーティは冒険者ギルドに申請しないといけないんだけど、クランのその辺ってどうだったっけか。
「えっと、細かい事はノーラちゃんお願い」
やっぱ事務仕事は副長のノーラさんか。
「いいえ。クランもこの国では認められている制度です。ミネットの脱退の件を報告し、他の方に周知させないと混乱が起こりますね。特にアキヒトさんの身に危険が迫ります」
「……どういう事ですか?」
「それはミネットがヴィータネンに所属していて、アキヒトさんが男性という点ですね」
ノーラさんの説明によると、ミネットはヴィータネン所属という事で、この国で活動をしてきた。
ミネットのクラン脱退と俺達のパーティへの加入は、ヴィータネンと俺達は了承している。
でも、他のクランや冒険者はそれが分からない。
ミネットの脱退と、次の加入先が俺のパーティであるという事。これは両社が正式認めた内容である事を周知させないといけない。
そうしないと、俺とミネットが一緒にパーティとして活動をしていると、他の人に難癖を付けられるようだ。
確かその女の子は、他のクランの子じゃないか? なんで男のパーティと一緒なんだ? もしかして誘拐? 男を捕まえろ! クランに通報しろ! みたいな騒動になるらしい。
「なので、数日は待って貰う必要があります」
「そういう事なら……。仕方ないか。ミネットもいきなりみんなとお別れってなると寂しいだろうしな」
「ありがとうございます」
「あ、あの……アキヒトさん。不束者ですが、これからよろしくお願いします」
「その挨拶はなんか……。いや、こちらこそよろしくな、ミネット」
こうしてミネットが俺達のパーティに加入した。
これで、俺にマリア。アルル、カタリーナにヴァルマとミネットで六人か。パーティとしてはこれで満員だな。
宿で世話になっている時から女性同士で交流はしているみたいだし、仲も良さそうだ。
しかし、気付いたら男は俺だけだな。この国だとハーレムと勘違いされそうだ。
ミネットの歓送迎会はヴィータネンの人達全員がいる時にしようということになり、その場は解散となった。
といっても、女性の輪に入るのは疲れそうなので、ちょっと部屋で休みたいと理由を付けて、会議室を後にした。
実際に疲れてはいたし、これからどうしようか考えたかったのだ。
「さて……。トキ、出てきてくれないか?」
「お呼びですか、サブマスター」
呼び掛ける、即座にトキが……?
「あれ、トキだよな? なんでお前小さいんだ?」
トキにそっくりな子供サイズの何かが目の前に現れた。
「ここにいるのは私の分身のようなものです。本体は研究所の守護をしないといけませんので。この姿でも力は行使できますのでご安心下さい」
あぁそうか。呼び出している間、あのダンジョンではどうなるのかと思っていたけど
「それで……ここは部屋のようですけど、何の御用でしょうか?」
「あぁ、聞きたい事があったんだ。他の研究所の場所は分からないけど、近くにいけば検知出来るって言っていたけど、どのくらいの範囲で検知できるんだ?」
「それは決まっていません。私が検知するのは、トダ様の魔力の匂いのようなものです。それが強ければ遠くでも検知できますし、弱ければその場所まで行かなければ分かりません」
魔力に匂いなんてあるのか?
「匂いというのは正確ではありません。気配、のようなものです」
戸田の研究所そのものを検知するのではなく、どちらかと言うと、その研究所付近に行った人に付いた戸田の魔力の気配を読むという事らしい。
今日の研究所で言うと、あそこは腕試しで人気のダンジョンで、その守護をしているのは戸田の召喚獣のトキだ。
トキと戦った人には戸田の魔力の匂いが付く。
トキがその人の近くに行けば、戸田の魔力に気づくという事らしい。
その人が大勢いたり、匂いが強かったりすれば、近くに戸田の研究所があると推測されるという図式だ。
「じゃあ、この街なら検知できるのか」
「はい。この街には多くの気配を感じ取れますから、近くにマスターの研究所があると思われます」
まるで警察犬みたいだ。
気配があっても、弱かったりすれば、遠くの場所にあるか、もしくはひとがあまり立ち入らない場所にあるという事になる。
色々と歩き回ったり、聞き込みをしないと発見は出来ないだろうな。
探すのは難しそう、か。
ここの研究所すら公式には見つかっていない訳だし……。
簡単に見つかるなら、戸田の行方を知りたかったんだけど……。
探して、みるか?
ご意見ご感想があれば嬉しいです。
が、豆腐メンタルなのでお手柔らかに……




