07 ノンハプニングと受注
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「アキ、ねぇ起きてよ、アキ」
「んー、後五分」
「だから起きなさいって!」
せっかく楽しい夢を見ていたのに。あれ、どんな夢だっけ。思い出せないな。儚い夢だったな。
「起きた? もう朝よ」
女の子の声がする。あれ、朝起こしてくれる女の子なんかいたっけなぁ。
「昨日はあのまま寝ちゃったみたいね。ワタシもだけど」
うん? 段々目覚めてきたぞ。頭が働いてきた。
そうだ、俺は異世界にいるんだった。そこでマリアという召喚獣と出会って。ってあぁ、マリアが起こしてくれたのか。
昨日は、召喚獣を四つ契約して、そのまま寝ちゃったんだった。何時間寝てたんだろうか。さすがに寝過ぎたか。
「おはようマリア。今何時くらいなんだ?」
「おはようアキ。まだ薄暗いから、六時くらいかしら」
六時って早いな。朝練のある運動部じゃあるまいし、こんなに早く起きたのは久々だ。
昨日の夜飯も食べてないし、お腹減ったな。まだ朝飯には早いだろうか? とりあえず顔も洗いたいし、風呂にも入っていないので、女将さんに聞いてみよう。
ちょっと様子を見てくるとマリアに言い、一人で部屋を出た。
女将さんは既に起きていたし、食堂には何人かいた。朝早いな、みんな。
顔を洗いたいのと風呂をどうすればいいかを女将さんに聞いた所、顔や洗濯は外にある井戸で、風呂はさすがに無くて銅貨一枚でお湯とタオルを貰えるようだ。
やっぱ風呂無いのか。別に風呂好きって訳じゃないんだが、日本の生活環境と違いすぎて少しショックだ。お湯で拭けるだけ良しとするか。
早速井戸で顔を洗う。井戸って奴は使った事はないが、使い方は分かる。結構力がいるが、なんとか水を汲めた。
冷たくて気持ちいい。やっと目が覚めたって感じだ。タオルが無いのを忘れていたので、服で拭く。着替えとか生活品も買わないとダメだな、これは。
一旦部屋に戻りマリアと合流して、朝飯を食べた。
昨日と同じだ。スープの味と野菜の種類が違うが、しかし基本は同じだ。うん、昼は他で食べよう。
朝飯を食べ終えた後、お湯とタオルを貰ってきた。銅貨を払っているので、買ったが正解だが。
「ちょっとトイレで体拭いてくるから、冒険者ギルドで貰った冊子でも読んでてくれ」
体を拭くということは、裸になる必要がある。女の子の前で裸になるなんていう変態行為はしたくないし、マリアに気を使わせるのもあれなので、俺がトイレに行った方がいいだろう。
「あら、別にここでもワタシは気にしないのに」
「いやいや、俺が気にするんだよ」
なんて女の子だ。恥じらいってものがないのかね。親の顔が見てみたいわ。
親は……あの爺さんか。いったい何を考えてマリアを創ったのかね。
しかし、マリアみたいな召喚獣を創れるってことは、あの爺さんは結構すごい召喚士だったんじゃないのかな。その割には装備がしょぼかったが。
あの森にいたってことは、家は近いのだろうか。この街か? もしかしたら、すごい装備とか本とかあるかもしれないな。家を見つけた所で入れる訳でもないけど。
何のパプニングも無く、体は拭き終わった。まぁ普通はマリアが体を拭いていて、俺が誤って覗いてしまうってパターンが王道だろう。今回は逆だったしな。
しかし、風呂とまではいかんが、シャワーくらいは浴びたいなぁ。暑い日なら水でも浴びるかな。
「ふぅ、気持ちよかった。マリアは本当にいいのか?」
「えぇ、召喚獣は人間と違って汗とかかかないし、大丈夫よ」
そういうものなのか。便利なものだなー。そういえば召喚解除したときに、マリアの装備がどうなるか試してなかったな。昨日は寝ちゃったしな。
「そういや、マリアの装備も召喚解除でどうなるか試してなかったな。試してみるか」
「そうだったわね。装備するからちょっと待ってね」
マリアが装備するのを待ってから召喚解除を行った。結果は、昨日買ったマリアの装備もマリアと一緒に消えた。
ふーむ? どういう事だ? マリアを再度召喚する。装備はそのままだった。
「マリアと一緒に消えたし、装備したままだな。マリアの一部と認識されたのか?」
「そうみたい? でも便利ね」
よく分からんが、便利な事には違いないな。装備ねぇ。
「思ったんだが、マリアの装備を俺が創ることは出来ないのか?」
召喚術の本には、騎士風だったり魔導師風だったりの召喚獣もいると書いてあった。
さすがに姿までは載っていなかったが、でもゲームの世界にも剣とか鎧を装備している召喚獣はいた。
なら、武器防具を持っているマリアを創るって感じにすれば、マリアに装備させることも出来るんじゃないのか? そう思ったのだ。
変身みたいなものだ。マリア戦闘モードとか、マリア日常モードとかで装備のオンオフができたら楽だろう。目立つだろうけど。
そうすれば、わざわざ買わなくてもいいし、もっといい装備にする事も出来るはずだ。
「うーん、創り足すって事になるのかしら。召喚術的には出来ると思うけど、でも創る事には変わりないから難しいと思うわよ? それにその分だけ魔力も喰うだろうし」
うーん、難しいか。創るってことは最悪死ぬかもしれないしなぁ。まぁ現状は買った装備でいいかな。今のでも便利って事には変わりないし。
装備の創造はいいとして、意外に簡単に他の召喚獣も契約できたし、早速冒険者業もやってみる事にした。
俺も冊子を読んで、分からない部分とかはマリアとすり合わせを行った。
冒険者ランクFのクエストは、薬草などの素材納品が主で、討伐や戦闘をするクエストは少ないらしい。様子を見ながらだが、それなら出来そうだ。
まずは必要な物を買う事にした。装備は昨日買ったのでいいが、体力や魔力、状態異常などを治すポーションを持つのが基本だ。それに泊まり込みになる場合もあるので、テントや食料といったものも必要にある。
まぁFランククエストじゃ日帰りで出来るようなものだし、その辺はまだ必要なさそうだ。
とりあえず街を回り、生活雑貨を買った。タオルとか水筒みたいのとかだ。
ポーション類は冒険者ギルド内の店に売っているようだ。しかし、生活雑貨をずっと持ち歩く訳にもいかないなぁ。
「やっぱ、魔法の袋買うか?」
冊子に書いてあったが、この世界には魔法の袋と呼ばれる魔法道具が存在する。見た目は小さいカバンみたいのだが、魔法でものすごい広い空間が内部に広がっているカバンで、冒険者や商人たちに愛用されている品だ。
承認登録された人にしか出し入れ出来ないので、セキュリティもバッチリだ。
魔法の袋にもランクというか広さがいくつかあり、一番小さい物でも大きめのタンスくらいの容量が入るらしい。もちろん魔法道具なので、それでもそれなりの値段はするらしい。
「そうね、無駄にはならないと思うし、買ったほうがいいと思うわ」
マリアに提案したが、合意が取れたので冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドはまだ朝の時間だと言うのに、そこそこ人がいた。朝からクエストをやる人も多いのだろう。日帰りだとそっちのが楽だしな。ひとまず店に向かう。
魔法の袋は一番安くて小さいので銀貨一枚だった。その上のだと、ちょっとした物置くらいの容量で銀貨三枚。一番人気はこの銀貨三枚らしい。一番小さいのだと、さすがにすぐ容量に限界が来てしまうので、主にご婦人の荷物整理用に使われるらしい。
銀貨三枚は痛いが、確かにタンス程度だとちょっと厳しいかな。店員の勧めもあり銀貨三枚の魔法の袋を購入した。
ちなみにマリアにもと思ったが、一つあれば十分でしょと言われ、それもそうかと思ったので、俺が持つことにした。
その他にポーション類を買った。ポーションにもランクがあったが、回復量が違うらしい。とりあえずHPとMP回復ポーションの一番低いランク、初級ポーションを三つずつ。魔法の袋も合わせて、全部で銀貨三に銅貨九枚だった。
どうみても腰に付けるような小さなカバンみたいにしか見えないが、ポーション類に加えて生活用品も入った。なんだろう、どこぞの未来から来たロボットが持っている便利なポケットみたいだ。
荷物整理も終わったので、クエストが貼ってある掲示板に向かう。Fランク向けのクエストもいくつかあるみたいだ。
クエストの種類は二種類がある。納品と討伐だ。納品は、自然に生えている植物だったり、魔物の素材などの指定されたアイテムを納品するクエストだ。討伐は、指定された魔物を倒すクエストだ。
それぞれクリアすれば報奨金とクエストポイントが貰える。討伐しつつ、素材を集める事も出来るし、素材は冒険者ギルドに売ることも出来る。
さらに、クエストは単独指定とパーティ指定に分類される。単独は一人で、パーティは最大六人で行うものだ。
例えば近くの薬草を納品するような簡単なクエストは単独指定、つまり基本一人でやれって事だ。基本というのは別にパーティで行ってもいいが、ポイントは一人分しか得られないので分配されてしまう。
対してパーティ指定は、魔物の討伐や、戦闘が避けられないような素材の納品で、魔物の卵や街から遠い箇所にある植物などの納品だ。これらは難易度が高いが、クリアすれば一人ひとりにポイントが付与される。
なのでランクをさくっと上げたい場合は、パーティ指定のクエストをどんどん行えばいいが、時間が掛かる事も多いし、事前準備なども必要なので、ポイント効率を考えると悩ましい。
まぁ俺達はまだまだヒヨッコ冒険者なので、単独指定の薬草納品とかで慣れていくのがいいだろう。
ちなみにパーティは、冒険証を使って勧誘加入脱退などが出来る。同じパーティならパーティメンバー同士の会話や、大体の位置が分かる機能付きだ。ネトゲみたいだ。冒険証ってハイテクすぎるな。
俺とマリアも二人パーティを組んでいる。なので単独クエストだと、割が悪いが仕方ない。
一番ポイントが低いクエスト、薬草納品を受注する事にした。
受付のお姉さん、昨日登録をしてくれた猫耳さんのカウンタに行き、受注した。同じお姉さんなのはたまたまだ。
薬草は、東の森に自生している。見た目や特徴を教えて貰った。
冊子や猫耳お姉さんの情報によれば、この街は初級者から中級者に人気の街らしい。東の森では薬草などの植物や弱い魔物が、西にはダンジョンがあって、Dランクまでのクエストが豊富だそうだ。
これ以上難しいクエストは、遠出をすることになるか、他の街に行ったほうがいいらしい。
異世界に来て最初の街が、おあつらえ向きの街だったって訳だ。
猫耳お姉さんにお礼を言い、冒険証に受注しているクエストが表示されている事を確認した俺達は、早速東の森に向かう事にした。
「行くか、マリア。しかし東の森か……」
「行きましょ、アキ」
異世界に召喚された森だし、マリアと出会った森だ。感慨深い。あの時は、そんな薬草が生えているとか気にする余裕も無かったな。
ともあれ、初クエストになる。気合を入れていくか!
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