火砕流
午前零時 玄関のドアをたたく音がする。
誰だろう こんな夜遅く。
僕がドアを開けると見知らぬ女の人が立っていた。
とても情熱的なまなざしに 僕はちょっと動揺した。
が、何か焦げくさいにおいがするのは気のせいだろうか。
「私、火砕流なの」
と、その女のひとはいった。
「私が火砕流なせいで、私が抱きしめた男の人は全員燃えてなくなってしまう…」
眉間にしわをよせてうつむくその悩ましげなしぐさ。僕はますます動揺した。
「あなたは 火砕流は嫌い?」
女のひとは僕をみつめた。瞳があやしく潤んでいる。
ふと、女の人の足元を見ると、玄関の床が煙をあげて焦げている。
おそらく、この人は、信じがたいことだが、火砕流なのだろう。
火砕流に巻き込まれて燃え尽きてしまいたい…
その感情を ぼくは押し殺した。
「冗談じゃねえ 火砕流なんて 燃えちまうだろが!」
僕がそういうと女の人は眉をひそめた。
「今何時だと思ってんだ!帰れ!!」
僕はさらにそう言い放った。女の人は鼻をならした。
「ふん あなたもその辺の男と一緒ってわけね お邪魔したわ さよなら」
女の人は帰って行った。
僕はしばらく玄関に立ちつくしていた。
END
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