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第一章:PART 4 〜日常の疑問〜

「無駄な努力なんて何もない!」

とはいうが、努力が認められないことほど辛いこともない。

怒れるルームメイト、ジークを見てランスロットは、そのことを思い知らされるのであった。



PART 4 日々の疑問 〜A QUESTION〜




僕たちが生活するこの孤児院に名前はない。

民間のものと区別するため、国立の孤児院と呼ばれることがあっても、だ。


ここは、デルフィルム(正式には“神聖デルフィルム宗国”)南西に位置するリューベックという町にある。

国は、この町の半径五キロメートル四方を“特別保護区”と称し、孤児たちを収容する建物を建設していった。


順に、〇歳から四歳までを収容する第一棟館、五歳から九歳までを収容する第二棟館、十歳から十四歳までを収容する第三棟館、十五歳から十九歳までを収容する第四棟館が建てられている。


あとは、それなりに広い運動場がいくつかある。・・・・・以上だ。それ以外に何もない。

レストランも、劇場も、本当に何もない。



・・・そんな、たったそれだけの設備なのに、なぜ“特別区”みたいな大そうな名前が付いているのか?

当然疑問に思うだろう。



それはやはり、ここが特別だからである。

ここが、この国のどの地域とも隔絶しているからだ。

実は独立国家であるとか、自治を任されているとか、そんな大そうなことではない。

ただ、この特別区の周りには高い塀のようなものが張り巡らされ、僕たちを見張っているだけだ。

ここから逃げ出せないように・・・。


(まぁ実際、逃げ出そうとする奴なんていない。仮に逃げ出せたとしても、

乞食やって暮らすか、下手すりゃ奴隷として売られるのが関の山だから。)



先ほどいったように、この特別区には宿舎と教室を兼ねた棟と広場の他に何もない。

食事は宿舎の食堂でしか取れないし、着る物も、下着を含めてすべて支給品だ。


言葉を悪くすれば、ここは牢獄のような所と言っていいだろう。

実際に、僕のここでの生活を説明すると、


6:00  起床

6:30  朝食

7:00  班長会議第一回目

8:00  実技or座学(班長会議の際に決められる)

12:30 昼食

13:00 班長会議第二回目

13:30 実技or座学

18:30 夕食

19:30 全体ミーティング

20:00 班長会議第三回目

20:30 自由行動

23:00 班長会議第四回目

23:30 就寝



といった、規則正しい生活を求められる。

別にこれくらいだったらそんなきつくもないじゃないか、と思うかもしれないが・・・・・

そうなのかな?

それはまぁ人それぞれだとは思うけど、こんなガチガチの生活を毎日続けるのは、僕としては結構、いやかなりしんどいな。

毎日だよ?

娯楽なんか程遠い生活で、わずかな自由時間だって何ができるわけでもない。

せいぜい友達とくっちゃべったり(ただでさえ訓練とかで疲れているのに、これ以上疲れたくない)、この隔離区域内を散歩するとか(限られた時間でいける範囲は少ないし、ほとんど隅々まで歩き尽くしてしまった)、後は自主訓練とか、自主勉強とか。


はっきりいって、相当つまらない。

もっといろんなことをしたかった。

こんな決められた生活じゃなくて、自由に、自分の意思で人生を歩いていきたかった。

(だからといって特に、ああしたいこうしたいなんていう夢ももってないけど・・・。)


でも、ここに来てしまったらもう将来の選択すらできない。

十九歳になればこの隔離区からは出られることになる。

だがその後は強制的に軍に入隊させられ、僕らのような孤児たちは、前線で、死ぬまで戦わされることになるのだ。



何に希望が持てる?

何を目標にできる?

何が楽しい?



孤児院なんて大そうなこといってるが、実際の生活は囚人のようで、ただの兵士養成所じゃないか。



・・・そんな中、健気に彼女なんか作って、健気に生きている人たちも少なくない。

そりゃあ、好きな人がいると全然違うでしょう。毎日の同じ繰り返しも、また違ったものになるに違いない。

しかもそれがルームメイトだったりしたら四六時中一緒にいられるわけだ。

そうしたらもう、訓練だろうが座学だろうがなんだろうが楽しいに決まってる!

将来は子供たちに囲まれて幸せな家庭を築くのさ!

わぁ!最高じゃないか!ここの暮らしだってまんざら悪くないよ!!



・・・・・という気持ちになれるなら、僕がこんなに愚痴を溢すはずがない。

いや、むしろ僕はそんな人たちを尊敬すらできるよ。

ほんとに、よくもまぁこんな状況下でそんな気持ちになれるね。

ほんとおめでたい人たちだ。ああすごいすごい。是非幸せになってください。




・・・正直僕には、それらが現実逃避のようにしか思えない。


セックスでその場しのぎの快感を得て、それで満足か?

大人たちに利用されるだけの人生で、それで満足か?


くだらないな。まったくくだらない。



何で僕がこんな生活を送らなければいけないんだ。

普通でよかった。平凡でよかった。

伯母の家は居心地が悪かったけど、そのときは父さんがいて、自分の居場所があった。

自分で道を切り開いていくことができた。


それなのに!

それなのにどうして?


僕はもう、こんな“つくられた”生活なんて嫌だ!!






・・・と、そんな絶望じみたここでの生活、たった一つだけ、唯一の希望がある。


それは、ある試験を受けることだ。


卒業試験ともいわれるそのテストに受かれば、なんと、結構な餞別付きでここを出られることになるのだ。

しかも、合格した者には軍への入隊義務も免除される。つまり、僕が望む普通の生活が得られる、ということだ!


そんなものがあるなんて僕はすごく感激だ今すぐにでもそれを受けて合格してとっととこんな所出て行ってやる!


そう思うよ。


だがしかし、このテストには幾つか問題がある。


第一に、これは個人で受けることができないのだ。

つまり班ごと、四人で一緒に受けなければいけないということだ。


第二に、

「それじゃあ先生!僕たち受けます!」

「よしわかった!頑張ってこい!」

みたいなことには絶対ならないということだ。

つまりこのテスト、いくら僕たちが受けたいと思っても、受験すらできないのだ。


これは、日々の成績や素行がとても宜しい班が選ばれて、それでやっと受けることができるのである。


まぁそのテスト、実際受けて不合格になった班は今まで一組もないらしい。

だから、卒業試験とはあくまで儀礼的なもので、言い換えれば普段の毎日の生活がテストである、ということなのだろう。



確かに、選ばれる班は極わずかである。去年は、三棟館から一組、うちの四棟館から二組が選ばれただけだった。

けれどもここでは、それだけが希望の糸なのだ。


だから僕は班の成績を上げて、なんとかして選ばれて、合格して、そして、きっと僕が望む生活を手に入れてやる!


そのためにはまずチームワークが大切だから、班員と仲良くするべきだ。

だから僕は、相手が嫌な思いをしないように、自分がされて嫌なことは絶対しないようにしているし、

心地よい距離を保つために、人にあまり深く干渉しないようにもしている。


まぁつまり、いろいろと気を遣って毎日頑張ってるんだ。


・・・そうだよな。

僕、頑張ってるよな。


よくやってるほうだと思うよ。

うん、そうだ。僕はすごく頑張っている!!




そう僕は自分の思考に結論を出し、机に伏せていた顔を上げ、恐る恐るチラと後ろを振り返ってみた。

ギロと鋭い視線が僕に突き刺さり、僕はヒィと心の中で悲鳴を上げ、また前に向き直った。




・・・それなのに、どうして分からない?

どうしてお前とは上手くいかないんだ?


なぁ、教えてくれよ、ジークっ!!!




と心の中で、僕は後ろで殺気を放ちまくっているジークに問うた。


しかし彼はまた一本、自分の怒りを、鉛筆を叩き折ることで表現しただけだった。







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