第一章:PART 3 〜怒りの矛先〜
長年付き合ってきた"仲間"だと思うからこそ、ランスロットの言葉になっとくのいかないジークだった。
PART 3 激怒 〜I AM RED WITH ANGER !〜
ボキッ。
ボキッ。
教官の講義する声と、この不吉な音が入り混じる。
“怒り狂う”
この言葉は今の俺を如実に表している。
怒り狂うとは、怒りのあまり手を付けられない状態を言うが、俺はまさにそんな状態だからだ。
人間の喜怒哀楽は、理性によって抑えられるものではあるが、
今の俺の“怒”の感情は、とても自分ではコントロールできそうもない。
だからといって、この授業中に、俺の目の前に座るこの男に殴りかかるわけにもいかない。
だから俺はしかたがなく、下を俯き、哀れなるこの鉛筆どもに怒りをぶつけているわけだ。
ランスロット・ハミルトン、16歳(俺と同じ年だ)。
キリリとした“ヘ”の字形の眉。真っ黒なサラサラとした髪と優しそうな目。
眉目秀麗という表現が適切か。小さな口と鼻のバランスも悪くない。
男の俺が見ても、なかなかよくできた顔だと思う。
一応俺たちの班をまとめるリーダーで、成績も上の方だし、運動能力も、悔しいが俺より高いだろう。
実技、っていう授業があるんだけど、ランスロットのおかげでうちの班はいつも上位に入っているからな。
・・・ってそんなこと言ってると、俺が怒っていることを忘れそうだ。
とにかくこいつは、かわいい顔をしていて、まったくかわいくないのだ。
つまり性格がよろしくない、というわけ。
すべてを悟りきったような言動。
何に対しても無関心。
人を見下したような態度。
本当にいつも腹が立つ。
とはいっても別に俺は、そんな誰に対しても腹を立てるような男じゃない。
むしろ寛大で、めったに感情を露わになんてしない。
だがしかし!
こいつだけは許せんのだ!
今日だってそうだ。
朝起きると、マールが目を真っ赤に腫らして泣いているではないか!
いつもの愛らしい笑顔を作ってはいたが、涙の痕もはっきりと残っていた。
多分、怖い夢かなんかでも見たのだろう。
・・・・・まぁ、この年になって夢くらいで泣くのか??
とは思うが、そこは女の子だし、マールはどちらかというと気が弱いほうだからな。
ありえないことではないだろう。
だからそんなとき、普通は何か声でもかけてやるべきではないのか?
同じ班員として、仲間として。
しかも俺たちは男だぞ。可愛い女の子を放っておいていいのか?
少なくても俺はそう思うぞ。
それなのにこいつときたら・・・・・
まぁ鈍感だから、(そんなことにも気がつかないのだろうこのボケは。)
と思って、わざわざそのコトを教えてやったのに、あいつときたら何といったと思う?
「別に気にすることじゃないだろ?」
だとよ・・・・・え、なんだと?
ふざけんな!
どっかの知らない野郎でもあるまいし、同じ班員だろ!?
しかもお前、班長だろ!?
それなのに!
あいつは懲りることも無く、“他人”とまでも言い放った。
なーに考えてるんだ?
一日や二日じゃあるまい。
何年も一緒に暮らしてきた仲間に向かって、他人だと!?!?
・・・・・はぁ。
俺はもう、怒りを通り越して、・・・悲しいよ。
なんでわかんねぇんだ。
おかしいよ。
おかしいだろ?