表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第一章:PART 2 〜朝、食堂にて〜

マールの様子がおかしいと詰め寄るジーク。

ランスロットは、そんな彼をうるさく思っていたが・・・・・

第一章:PART 2

〜DAILY LIFE〜


「・・・・・・・員います!」

「12班4名、全員います!」

「13班4名、全員います!」

「14班4名、全員います!」

「15班4名・・・・・・・」

淡々と、一人一人班長が報告していった。

6時30分。僕たちはとても大きな食堂に集合する。あまり大きいので、体育館といった感じだ。

そして全員は、白米と、一掴みの塩が置かれたテーブルの前に直立不動の状態で立っている。


「18班4名、全員います!」

僕も、長方形のテーブルの向かいに二人、左隣に一人いることを確認した後そう言った。

もし、一人でも、一分でも遅れたら、たったこれだけの朝食は班員全員が抜きになる。

たかが一食と思うかもしれないが、朝昼晩を合わせても圧倒的に少ない食事のため、

一食といえども飢え死にの可能性を否定できない。


「27班3名、全員います!」

最後の班長がそう言うと、食堂の真ん中に立っていた先生が叫ぶ。

「全107名確認。食事開始。」


がらがらと椅子を引く音が聞こえて、みなが一斉に座る。

そしてシンと静まり返っていた食堂は一変し、ざわざわとみな騒ぎ出す。

食事の時間と、休息時間だけは私語も許されていた。

だが、それ以外の時間に一言でもしゃべるようなものなら、先生のありがたい鉄拳をいただけることになる。


あ、言い忘れていたが、実は僕は、この班の班長なのだ。

別に人望があったとか、そういったわけではない。なんとなく成り行きでなってしまった感がある。


はっきりいって、これが結構大変だったりもするのだ。

朝食の後、昼食の後、夕食の後、寝る前の4回、班長会議というものがあるし、

何か班に問題があれば、とりあえず班長が責任を取ることになる。

まぁ、これはもう習慣になったからそう苦でもなくなったのだが(部屋の狭さに比べたら・・・・・)。

今考えると、食堂の広さをもう少し部屋にも割り当てるべきではないのか?と思う。



(それにしても今日もこれだけか。)



僕は目の前の朝食を見てため息をついた。

この国、デルフィルムは、決して裕福なわけではない。

ここは山と森とに囲まれていて、かなり閉鎖的な地形である。

唯一、国の東端には、デルフィルム平原を介して、ロンバルディアという国に面している。

(この平原の名称は、こちら側でつけられたもので、ロンバルディアではロンバルディア平原と呼ばれているらしい。)

しかし、唯一の隣国ロンバルディアとも、宗教上の対立で何十年も前から国交断絶状態である。


そして、その囲まれた山と森からは、常に魔獣の侵攻に怯えていなければならないのだ。

国では魔獣の侵攻に対し、城壁を国の周りに建設し、特別な軍を編成して警備にあたらせたが、

圧倒的に強力な魔獣のために、国はすっかり疲弊してしまっているのだ。


それでも国の中心を流れるロワール川の恵みのため農業だけは発達し、深刻な食糧不足には至っていない。

だから、こんな孤児院でもしっかりと食事がだされるのだが、

食べ盛りの16歳に、たった一膳と塩では、あきらかに少ないのが分かるだろう。



(・・・・・それでも食事ができるだけましか。)



内陸国であるため、塩も相当貴重ではあるが、こうやって食卓についているし、

国全体からみれば、いい生活ができているのかもしれない。



「なぁ」

僕が塩をご飯にふりかけていると、隣に座る男の子が小声で話しかけてきた。

彼はジーク・アクィナス。僕と同い年でルームメイトの一人だ。

銀色のかたそうな短い髪と、顔の割には大きい目、肌は少し褐色がかかっている。

髪の色と肌とのコントラストが印象的だ。


「なぁ、マールの奴、目が真っ赤だぜ?」

彼はチラと向かいに座る彼女を見て言った。

僕は彼女を一瞥し、またハァとため息をつき箸をとった。

黙々と食事を始める僕を見つめながら、ジークは塩の入っていた(空の)小皿を延々と振っている。

「なぁ」

彼はもう一度言った。


「だから、」

僕は口にご飯を押し込めたまま、うんざりしたように言った。

「そういうのは気にするなって言ってるだろ?」

僕の言葉に明らかに不満を覚えた彼は、ようやく自分の左手の無意味な行動を悟り、憤然と食事に取り掛かった。


「あいかわらずだな。」

彼は口をモゴモゴさせながら言った。

「お前、ルームメイトだろ?少し冷たくないか?」

いっきに食事を終え、彼はまた僕に向き直った。

食事時間は6時半から7時までであるが、たったこれだけの食事では時間も相当あまる。

どうやら僕は、彼と話し合うことになるらしい。

「それで、何がいいたいのさ。」

ゆっくりと食事を終えた僕は観念し、今日初めて彼の顔を正面から見た。


「だから!お前はもう少しルームメイトに気を使ったらどうなんだ?

班長だろ?お前にはそういう責任ってものがあるんじゃないのか?」


(だれも好きで班長になったんじゃないよ。)


心の中ではそんなことを思ったが、ここでの反論には不適切に思えた。

かといって黙秘を続けても、こいつが納得する様には思えない。仕方がなく僕は重い口を開いた。

「そうかもね。でも、そっとしておいて欲しいときだってあるんじゃないの?

ただでさえ寝返りもうてないような狭い部屋でいて、プライベートなんて程遠い暮らししてるんだ。

それなのに、心の内まで他人にあかそうなんて、思うのかい?」


(あ、しまった。)


僕は今の発言が失言だということに気がついた。

そしてそれに気がつかない彼でないことも、僕は十重に承知している。

案の定、


「他人??」


彼は、褐色の肌を青ざめさせて言った。

何年も一緒に生活しているから分かる。これは彼の怒りが頂点に達したときの表情だ。

「お前なぁ!!」

ガタっと椅子を倒して立ち上がった彼のために、食事中の視線が一斉にこちらに集まる。

ああ、勘弁してくれ、怒られるのはまた僕なんだけどなぁ・・・・・


「ジーク君!どうしたの??」

突然の彼の咆哮に、僕の正面に座る女の子が驚いて声をかけた。

彼女はレイア・シルトラン、僕の班員の4人目だ。

茶がかかった黒い髪と漆黒の瞳。小さな目、鼻、口がとても端整に配置されている。




そう、何故かこの孤児院での班は、同じ年の男の子2人、女の子2人、計4人が通常の構成となっている。

27班だけは人数の都合で女2人、男1人となっているが、他は全部こうだ。

女子と同じ部屋なんて、とっても得した気持ちになると思うだろうが、実際はそんなに甘くない。


僕の班は、(まぁ問題もあるが)かなりうまくいっている方だと思う。

それは、このメンバー構成が比較的早い時期からのものだった、ということも大きく影響しているように思える。

事実、僕とレイアは8歳のとき、9歳のときにジーク、少し時期がずれるが、同じく9歳のときにマールが来た。

幼かった僕は、男と女の区別なんてわからなかったし、そんなことより、そのときは父が死んだことで頭が一杯だった。


ともあれ、僕は班長になり、まぁ比較的仲良くやってこれた。(僕が班長だからうまくいっているということではない。)


しかし、ある程度年をとってから編成されるとなると、これまたやっかいなことが起こる。

ただでさえ狭い部屋に境界線を作ったり、常に口論が絶えなかったり、はたまた暴力事件にまで発展することがある。

それでも、うまくやっていかなければそれなりの制裁が加えられるので、結局表面上はうまくいくことになるのだが。


それにしてもいったい、ここの先生たちは何を考えているのだろうか?

子供でも作れといっているのか?・・・・・また失言だ。




しかし仲良くと言っても、それも周りに比べたらの話で、例えば今日のようにジークとはよくケンカになる。


考え方の相違なのだろうか?それとも価値観?

とにかく共同生活を営むということは、ぶつかり合いが少なからず起こるということだ。

これは別にここに限ったことではないのかもしれない。

この国にスポットをあてれば、宗教という違いで隣国と対立しているし、身分の違いによっての対立もある。

この国では、宗教からくる厳しい身分制度が根強く蔓延っているから、内政すら安定しないのだ。


本当はそんなこと言っている場合じゃないのにね。

魔獣という危機が目の前に迫っているのに、人は自分らの価値観のほうが大事なんだろうか。

たぶん、結局自分らのことが一番、ということなんだろうな。



「ねぇ、どうしたの?二人とも」

動揺を隠せない僕を余所にレイアがもう一度聞いた。

そして、当初の議題の発端となったマールはといえば怯えた目つきで僕たちを見ている。

実際、わなわなと左手を震わせて魔獣のような(本物、みたことないけど)形相で僕を睨んでいるジークは、僕も相当怖かった。

殴られることも覚悟しておかなければ・・・・・。



しかし、そんなマールを見たジークは、チッと舌打ちをすると自分の席に戻った。

どうやらこの場は収まったようだが、彼の怒りが収まっていないのは自明であった。

僕だってちょっと言い過ぎたとは思ってるんだから、許してくれよ・・・・・。



僕は肩をすくめて、大きなため息をついた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ