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第一章:PART 1 〜NO ONE CAN GO BACK TO THE PAST〜

国立研究所アカデメイア薬品爆発事故から8年の月日が流れた。


16歳になったランスロットは幼い頃の夢を見た。

優しかった父親はもういない。彼は別れ際を後悔するのだが、現実は無情に過ぎていくのだった・・・・・



夢・・・・・?



そうか、これは夢か。

幼い頃の夢だ。

父親の夢だ。


ん?何か二人で言い争っている。


ああそうか、今日は久しぶりに休日になったから、遊んでもらえる約束になっていたんだ。

それが急な仕事でダメになって、それで僕は怒っているのか。



母親は、僕が生まれたときに死んだ。

そのため、仕事であまり家にいられない父親は、僕を義姉のところへ預けた。


そこは、あまり居心地がよくなかった。

伯母は、あからさまな嫌がらせすらしなかったけれども、

僕を迷惑だと思っているのは、幼いながらも理解できた。


だから、父親と一緒にいる時だけが楽しかった。




―――父さんはいつも嘘ばっかり!いつも仕事仕事って・・・・!


―――いったい何の仕事してるの?いつも教えてくれないじゃない!


―――世界を・・・・・救う?


―――嘘つき!だったらどうして僕には母さんがいないんだ!


―――父さんが・・・父さんが母さんを見捨てたんだろ?!


―――・・・・・もういいよ。父さんの、父さんの嘘つき!!




どうしてあんなこと言ったのだろう。今でも分からない。

父親は軍の偉い職に就いていて、部下からも慕われていた。

ときどき、僕のうちにも父の部下が遊びに来ていたから。

その人たちが、父さんを褒めていたのを聞いていたから。


そして僕は、そんなときたまらなく嬉しかった。

そんな父親を、僕は尊敬していた。


それなのに、どうしてあんなこと言ったのだろう。

父はその時、困ったような、悲しそうな顔をしていた。


そしてそれが、最後の別れになるなんて。



その日の夜、僕は父親の勤めていた研究所の事故を知った。

なんでも、研究に使っていた薬品が爆発したらしい。

それ以外の情報は何も入ってこなかった。

いや、あと一つ、研究所職員全員が死亡したという情報以外。




数日後、僕は国立の施設に入れられることになった。

伯母のうちに比べたらましかな・・・とも思ったけど、甘かった。


ここは・・・・・




いつの間にか、僕は目が覚めているのに気がついた。

窓からは、朝の光が入り込んでいる。

壁にかかっている時計を見ると、もうすぐ6時だった。

ルームメイトたちは、まだ熟睡している。

とはいえ、ここでは自分の意思で起きる必要などなかった。

6時になれば、あの忌々しい鐘が全館で鳴り響き、朝食の支度にかからねばならないのだ。

僕はもう一度時計に目をやる。目もはっきりしてきて、今度は正確な時間がよみとれた。

―5時55分

「もうひと眠りする時間でもないなぁ」

僕は体だけ起こし、大きなあくびと背伸びをした。


この部屋には4人が寝泊りしている。とはいえ、実際は3人、いや2人ほどの寝る場所しかない。

そんな狭い中、僕たちは横に並び、体を密着させて眠っているのだ。

冬はまだいいが、夏はひどい。

窓は小さい奴が一つだけなので、風通しも悪く、8年経った今も慣れる事はない。

はっきり言って、伯母の家の押入れの方が、もっと広かった気がする。・・・それは僕が小さかったからか?



突然、僕の隣の、その隣に眠る一人が、ガバッと布団から飛び起きた。

その反動で、僕の隣で寝ていた一人に腕が当たったが、そいつが起きる様子は無かった。


その飛び起きた彼女、マール・エイシアスは、肩で息をし、目には涙を浮かべていた。

金色の髪と体が小刻みに震えている。

何かつらい夢でも見たのだろうか。


本当なら、「大丈夫?」などと心配してあげるべきかもしれない。

でも僕は、いつもとなんら変わらないように言う。


「おはよう、マール。」


彼女は少しビクッとして僕を見ると、涙に濡れた目を指でこすりながら、笑顔で言った。


「おはよう、ランスロットくん。」


声は震えていたが、必死に平静さを取り保とうとしているのが分かった。

僕も笑顔を作ってそれに答え、それ以上何も言わなかった。



ここにいるみんなは、少なからず誰でも、触れられたくない過去をもっている。

そして、それに触れないことが、ここでの暗黙の了解となっていた。


つらいことから目を背けろ、と言っているわけではない。

ただ、ここに来る人たちの過去は、必ずしも正面から受け止めきれるものではないのだ。

だから誰も聞かない、話さない。それでよかった。



「あ、もうすぐ6時だね。」

マールは、僕がしたのと同じように時計を見、そう言った。

僕は、「そうだね」と軽くあいづちをうって窓の外を眺めた。


太陽が狭い窓から、これでもかというくらい光を送ってくる。

僕はそれを受け止め、もう一度大きな伸びをした。



とたん、6時を告げる鐘が鳴り響いた。



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