序章
〜序章〜
――父さんの嘘つき!!
仕事中も、息子の言葉が離れなかった。
・・・・・嘘つきか。確かにその通りだな。
あいつが生まれたときも、私はそばにいてやれなかった。
母さんを見捨てたと言われてもしかたがないか。
でもな、ランスロット、世界を救う仕事をしているっていうのは本当なんだ。
・・・・・救う、か。
こんなことをしているのに、“救う”だなんてよく言えたものだな。
罪の無い人の人生を奪っておいて、何が救うだ!
中央に、ただベッドが一つだけ置いてある小さな部屋を、
私と数人の部下たちは、ショーウインドのようなガラスを介してのぞいていた。
そのベッドの上には、
まだ10代半ばほどの少女が、腕と足とを鉄の鎖で固定され、横たわっている。
体をよじらせ苦悶の表情を浮かべながら。
「交配から、まだ一週間も経っていないではないか。」
私は、隣の部下に話しかけた。
「は、すみません。今回の件は、まったくの異常事態としかいいようがありません。」
部下は私に怒られたと思ったのか、姿勢を正し、少し驚いたように言った。
こんなことがなければ、今日は久しぶりに息子と遊んでやる予定だった。
そのせいか、私の口調にとげがあったのかもしれない。
「いや、よい。それより活性化は起こっているのか?」
「2時間ほど前に担当官が活性化を確認しています。
このペースだと、後数分で完了すると思われます。」
「2時間で活性化が完成するだと?!」
ありえない早さであった。確かに異常事態以外の何事でもない。
「セキュリティはどうな・・・!?」
私がそう言おうとした瞬間、
少女は、とても少女のモノとは思えない悲鳴を上げ、
固定してあった鉄の鎖を引きちぎった。
少女はゆっくりと立ち上がると、呆然と立ち尽くしていた私たちに、
優しく微笑みかけた。
私はかつて、それほど恐ろしい笑顔を見たことなど無い。
その笑みは、無邪気な子供の笑顔そのものである。
だがしかし、そんなことはありえなかった。
自分をこんな目にあわせた張本人たちに向かって、どうしてそんな笑顔を向けられるのだろうか。
私は背筋が凍りついたようだった。
「・・・至急、至急本部につなげ!!緊急事態だ!」
ようやく言葉を口にできたときは既に遅かった。
少女、いや“それ”が、目を瞑り精神を集中させると、
爆音とともに、部屋は一瞬にして紅蓮の炎に包まれたのだった。
その爆弾じみた炎は、強化ガラスさえ、いとも簡単に破壊した。
「うわぁ!」
ガラスの破片が私たちに降り注ぎ、部下の一人は重傷を負い、
私も腕に傷を負った。
「くっ・・・」
ようやく顔を上げたが、辺り一面は炎につつまれており、
“それ”の存在を確認することはできなかった。
「これが・・・魔力か?」
熱気が体を圧迫し、とても息苦しい。
「大佐、危険です!すぐに退避して・・・」
部下の言葉はそこで途切れた。
「どうした?・・・・・っ!?」
隣にいた部下は、頭から血を流して倒れた。
現状を把握しきれないまま、私は部下の亡骸を呆然と見つめていた。
ここの研究所にきてから、ずっと一緒にいた者だった。
「大佐!危ない!」
私をかばうため一歩前に出た部下の、最後の言葉になった。
目の前に現れた、元少女が、手首のスナップだけで部下の首を掻き切ったのであった。
鮮血が私の身にも降りかかった。
そして、あろうことか、彼女はまた笑っていた。
いや、私たちを嘲笑っているのだろうか?
それとも、何らかの加減でそう見えただけなのかもしれない。
とにかく私は、二人の部下を失いようやく正気を取り戻した。
「この場は放棄!総員退避だ、ひけっ!」
炎は、私たちを嘲笑うかのように揺れていた。
全然経験などない自分ですので、いろいろ感想などいただけたら幸いであります。