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十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。  作者: あいみ
スカーレットを殺した者達の場合

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2

 生きるに値しない?誰のことを言っているのか。


 閻魔の視線の先にいるのは四人だけ。振り向いてみても、人の影すらない。


 「お、俺達が人間失格だと!?」

 「自覚がなかったのか」


 わざとらしく驚いて見せる閻魔の後ろには、四人を地獄に連れてきた鬼が静かに現れた。


 「無知な貴様らに教えておいてやろう。こやつらの目の色が違う理由を」


 地獄に落ちる者は結晶石を他者に押し付け、定められた運命の死から逃れた者が落ちる。


 正確には地獄の使者、鬼が迎えに行った者が落とされる場所。


 鬼と呼ばれる異形の者は色分けされていて、結晶石を押し付けられた者が、押し付けた者に抱いている感情で迎えに行く鬼が決まる。


 赤は愛しみ(かなしみ)。青は悲痛。黒は空虚。


 閻魔はそのことに関してのみ、本気で驚いていた。


 地獄に落ちてくる者は少なくはないが、誰もが無色の瞳、色なし鬼に連れられて来る。


 色なし鬼が迎えに行くということは、断ち切ることの出来ない絶望と、消えることのない殺意がその魂に宿っている証だった。


 だからこそ、色鬼である三体が迎えに行くことは極めて珍しく、四人の手によってこの世を去った者がどれほど優しく、どれほど慈悲深かったかを物語る。


 どんな酷い仕打ちを受けようとも、最期の瞬間まで殺意や憎しみを抱くことはなかったのだ。


 スカーレットは慈しみを抱いていた。ルビアに対し、憎しみではなく哀しみを。


 リックフォードには悲痛を抱いていた。その心は深い悲しみで満たされていたが、それは決して憎悪ではない。


 ラージーとミュルには空虚。スカーレットの心には何も残らなかった。だが、それは死への恐怖でも怒りでもない、ただ純粋な空虚。自分という存在が生まれてしまったことへの。


 「さて、話は終わりだ」


 ここまで語ったのに、四人には何も響いていない。むしろ、恨まれる覚えはないと開き直る始末。


 何百何千年と地獄の管理者として見てきた者の中で、落ちてきた人間を見てきたが、ここまで話の通じない者は初めて。


 三百年ほど前にも、一人だけ似たような人間がいたが、それを遥かに超える。


 「妾は優しいからな。選ばせてやろう。貴様らはまず、どの罰を受けたい?」

 「罰だと?ふざけるのも大概にしろ!!」

 「む。あれらではお気に召さんということか」

 「麗しの閻魔よ。烙印者の相手は私の仕事のはずだ」

 「サタンか。貴様が遅いから妾が相手をしてやったまでのこと。感謝せい」


 そう。閻魔の仕事はあくまでも地獄の管理。秩序を守るための存在。


 烙印者と呼ばれる、地獄に落ちてきた人間の相手をするのはサタンの役目である。


 サタンと呼ばれた男は、リックフォードよりも遥かに美しい顔立ちをしていた。


 閻魔よりも濃い灰色の髪。緑の瞳は閻魔だけを映す。二本の角を生やし黒い翼と尻尾を持ち、更には黒いマントを羽織る。


 「まぁいい。妾の考案した罰はお気に召さんらしい。貴様の罰を与えてやれ」


 ずっとずっと遠い、東の国にある拷問を参考に作ってみたが、なかなか受け入れられない。本来ある罰よりも、優しいはずなのに。


 東の国の人間にも受け入れられた記憶はないが。


 サタンが指を鳴らすと、四人の立っていた地面は大きな湖へと変わる。


 突然のことに慌てて水面へと顔を出す。水分を含んだ服は重たくなるが、泳げないほどではない。何とか陸地まで上がり、乱れた呼吸を整える。


 「な、何をするのよ!!」


 濡れた髪を掻き上げながらミュルが睨むも、反応を示すことなく、その手を踏みつける。人間以上の力は、いとも簡単に骨を砕いた。その音は他の三人にも聞こえていて、思わず顔をしかめる。


 「罪人が気安く話しかけるな」

 「私は罪人ではないわ!!」

 「お前達が落ちた湖は、罪人は皆、浮くようになっている。誰一人として沈まなかったのは罪人である証だ」


 沈む者は死を免れず、浮く者は罪に染まった者。理不尽な論理に誰もが言葉を失う。


 罪の意識など微塵もない。しかし、反抗は彼らの身をただ危険に晒すだけだった。無理に認めて謝ることが、今は賢明。


 何に対しての謝罪をしているのかがわからないほど、適当な言葉を並べるばかり。


 だが、サタンはそんな戯れ言に興味はなかった。


 地中から独創的な棺桶が浮かび上がる。通常の棺桶と違うのは、扉の内側に針がびっしりと仕込まれている。その冷たい鉄の棘が、見る者の心を凍らせた。


 怯えて逃げ出す前に、四人の体は宙に浮き棺桶の中へと無理やり押し込まれた。


 「ぅっ……」


 幸いにも、棺桶内部には針は仕込まれていなかったが、押し込まれる際に背中を強打し、痛みに呻いた。


 ゆっくりと扉が閉まる。


 「や、やめろ。おい、聞いているのか!!赤毛!!」


 妙なことを口走るのはリックフォードだけではない。


 「お姉様!!やめて!!お願い!!」

 「この親不孝者が!!実の父親に何をしようとするのだ!!」

 「血の繋がらない醜いあんたを、ルビアの姉として屋敷に留まらせてあげたのは誰だと思っているの!!」


 他の三人も口々に、まるでそこにスカーレットがいるかのように叫んだ。


 だが、現実にスカーレットはここにはいない。彼女は既に亡くなった。用意された毒を飲み、迎えに来た死神の手で魂は天に還った。

 生者ではないスカーレットが地獄にいるはずがない。


 サタンはただ引き出しただけ。彼らの記憶にいる、殺した者の存在を。そうして、幻と現実を交錯させていたのだ。


 必死に棺桶から出ようと試みるも、体は縛られたように動かない。視界が暗闇に変わっていく。


 棺桶の中で視界が真っ暗になるにつれて、鋭く長い針が頭のてっぺんから足の指まで次々と突き刺さった。体中に広がる激しい痛みとともに、意識は遠のいていく。


 狭い密室の中に充満する血の匂いと、棺桶の隙間から流れ出る赤い血液が、彼らの命の灯火が消えゆくことを告げていた……。

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