#9:ロゼリアとヴィクトリア
扉の前で、一度だけ深く息を吸う。
ノックをする手が、ほんの少しだけ重い。
「……失礼いたします」
声を整えてから、ゆっくりと扉を開けた。
部屋の中は、静かだった。
外のざわめきが嘘みたいに、音がない。
大きな窓から差し込む光と、整えられた調度品。
その中心に..
「来たのね、ロゼリアちゃん。」
穏やかな声。
ヴィクトリア・フォン・アルブレヒト。
私の――母親。
優雅に座り、ティーカップを手にしている。
その仕草一つ一つが、無駄なく、美しい。
「お呼びと伺いましたので」
自然に見えるように、ゆっくりと頭を下げる。
視線は合わせすぎない。
でも、逸らしすぎない。
(……大丈夫)
そう自分に言い聞かせながら、一歩踏み出す。
「そこに座りなさい」
柔らかい声で促される。
逆らう理由なんて、ない。
指定された席に腰を下ろす。
カップが一つ、目の前に置かれる。
いつの間にか準備されていた紅茶。
香りが、やけに落ち着いている。
「ありがとう、母様」
口に出した瞬間、自分の声が少しだけ遠く感じた。
ヴィクトリアは微笑む。
「いいえ」
それだけ。
それ以上の言葉はない。
沈黙が、落ちる。
時計の音すら聞こえそうなほど、静か。
(……落ち着かない)
カップに手を伸ばす。
指先がほんの少しだけ冷たい。
一口、飲む。
味なんて、よく分からない。
視線を感じる。
ゆっくりと顔を上げると、母と目が合った。
逃げられない距離。
「最近」
静かに、口を開く。
「随分と落ち着いているのね」
(……来た)
表情は変えない。
変えないようにする。
「そうでしょうか」
あくまで自然に。
「以前より、周りを見る余裕ができたのかもしれません」
用意していたわけじゃないのに、言葉はすらりと出た。
でも。
(これでいいの?)
一瞬だけ、不安がよぎる。
ヴィクトリアは、ほんの少しだけ目を細めた。
観察するような、視線。
「そう」
短く頷く。
肯定とも否定とも取れない反応。
それが一番、怖い。
「いいことね」
優しく続ける。
「感情に振り回されるより、ずっといいわ」
(……それって)
前のロゼリアのこと?
それとも、今の私?
判断がつかない。
「ありがとうございます」
とりあえず、そう返す。
無難な答え。
安全な言葉。
でも。
「婚約の件も」
さらりと、続いた言葉に。
指先が、わずかに止まる。
「ずいぶんとあっさり受け入れたのね」
(……っ)
やっぱり、そこも来る。
当然といえば当然。
でも。
思っていたより、早い。
カップを静かに置く。
音を立てないように。
「無理に縋る理由もありませんでしたので」
淡々と答える。
感情を乗せない。
揺れないように。
「……そう」
また、その一言。
短い。
でも、重い。
ヴィクトリアは、こちらをじっと見ている。
まるで。
何かを測るみたいに。
(……見られてる)
ノアとは違う。
セリアとも違う。
もっと深い。
逃げ場のない、視線。
部屋の空気が、少しだけ重くなった気がした。
視線が、逸れない。
逃げ場がない。
ヴィクトリアは、カップを静かに置いた。
音一つ立てずに。
その動きすら、妙に印象に残る。
「……本当に」
ゆっくりとした声。
穏やかで、優しい響きのまま。
「変わったのね」
(……っ)
心臓が、一瞬だけ強く打つ。
顔には出さない。
出さないように、意識する。
「そうでしょうか」
さっきと同じ返し。
でも。
(浅い)
自分でも分かる。
ヴィクトリアは、ほんのわずかに首を傾げた。
「ええ」
微笑みながら。
「以前のあなたなら、もう少し――」
言葉を選ぶように、一瞬だけ間を置く。
「……感情的だったわ」
(……それは)
否定できない。
ゲームの中のロゼリア。
典型的な悪役令嬢。
プライドが高くて、すぐに怒る。
今の私は、違う。
違いすぎる。
「人は変わるものです」
少しだけ間を置いてから答える。
ありきたりな言葉。
でも、それしかない。
ヴィクトリアは、その言葉を聞いても表情を変えなかった。
ただ。
「そうね」
静かに頷く。
それだけ。
それなのに。
(全然、安心できない)
むしろ。
(試されてる)
確信に近い感覚。
沈黙が落ちる。
時間が、やけに長く感じる。
その沈黙を破ったのは、ヴィクトリアだった。
「ロゼリア」
名前を呼ばれる。
柔らかく。
でも、逃げられない響きで。
「あなたは」
一度、言葉を区切る。
その間が、やけに重い。
「……自分が誰か、分かっているわよね?」
(....)
頭が、一瞬、真っ白になる。
何を聞かれているのか。
分かる。
分かってしまう。
でも。
それを、そのまま受け取っていいのか分からない。
「……もちろんです」
なんとか、声を出す。
遅れないように。
不自然にならないように。
「私は、ロゼリア・フォン・アルブレヒトです」
言い切る。
少しも迷っていないように。
ヴィクトリアは、それをじっと見つめていた。
数秒。
それだけのはずなのに、やけに長い。
やがて。
ふっと、微笑んだ。
「ええ」
穏やかな声。
「そうね」
それ以上、何も言わない。
肯定。
でも。
(……本当に?)
信じているのか。
それとも。
(見逃しただけ?)
分からない。
分からないまま、会話は終わりに向かう。
ヴィクトリアは、再びカップを手に取った。
まるで、さっきまでの空気がなかったかのように。
「そういえば」
何気ない調子で言う。
その一言で。
また、空気が変わる。
「セリア・アプリコット」
(……っ)
その名前。
さっきまで頭にあったばかりの人物。
「近頃、評判がいいのよ」
穏やかに続ける。
「剣の腕も、ずいぶんと伸びているそうね」
軽くカップを傾けながら。
まるで、ただの世間話みたいに。
でも。
(なんで今、それを……)
偶然とは思えない。
「明日、訓練があるそうよ」
さらりと告げる。
「見学してみたらどうかしら」
提案。
でも。
(断れるの?これ)
答えは、分かっている。
「……そうですね」
小さく頷くしかない。
「機会があれば」
ヴィクトリアは、満足そうに微笑んだ。
その笑みが。
やけに、意味深に見えた。
中国のアニメ(ドンフア)をいくつか見てみたいのですが、今まで見ていて最後まで見続けているのは「シザーセブン」だけです。
友人が好きな果物について話していたのですが、汚れた精神のせいで、ボクは淫らなことを考え始めた。
果物をかじると「ミルク」が出てくる、あぁ、ww




