#7:しかめっ面をした騎士とその相棒(1)
人混みの中を歩く感覚にも、少しずつ慣れてきた頃だった。
「ほら、あれ面白いよ」
マイケルが適当な屋台を指さす。
また何か変なこと言い出すんだろうな、と思いながら視線を向けた、その瞬間――
「ロゼリア様」
ぴたり、と足が止まる。
聞き覚えのある声。
低くて、硬い。
一瞬で空気が変わる。
(……来た)
ゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは――
整った鎧に身を包んだ騎士。
背筋は真っ直ぐで、隙がない。
そして何より。
明らかに機嫌が悪そうな顔。
(しかめっ面ってレベルじゃないんだけど)
「ノア……」
名前が自然と出る。
ノア・フェアレンハート。
王国騎士団の中でも有名な存在。
そして――
(攻略対象の一人)
最悪のタイミングで出てきた。
その隣には、もう一人。
柔らかい雰囲気の少女が、少し困ったように立っている。
「ロゼリア様、こんなところでお会いするなんて……」
セリア・アプリコット。
彼のパートナー。
補佐役のような立ち位置だったはず。
(うわ、セットで来た)
逃げ場なし。
ノアは、まっすぐこちらを見ていた。
いや。
正確には..
「……説明していただけますか」
視線は私に向いているのに、その圧は周囲ごと押さえつけるみたいに重い。
「このような場所で、何をなさっているのか」
声は低い。
抑えているのが分かる分、余計に怖い。
(完全に怒ってる……)
「……散歩よ」
とりあえず答える。
できるだけ自然に。
でも。
「散歩、ですか」
ぴくり、と彼の眉が動く。
納得してない顔。
そりゃそう。
「貴族の令嬢が、護衛も付けずに街を歩くことを“散歩”と呼ぶのであれば」
一歩、近づいてくる。
圧が強い。
「私はその認識を改める必要がありそうです」
(嫌味きた……)
正論すぎて何も言い返せない。
その時。
「別にいいじゃん」
横から、軽い声。
完全に空気を無視したトーン。
マイケル。
(やめて、絶対ややこしくなる)
「危ないなら、俺がいるし」
あっさり言う。
ノアの視線が、すっとマイケルへ移る。
一瞬で温度が下がる。
「……あなたは」
明らかに警戒。
というか、敵認定。
マイケルはそれに気づいてるのかいないのか、軽く笑った。
「ただの通りすがり」
「名を」
即座に返される。
間髪入れず。
完全に尋問。
(うわ、相性最悪)
マイケルは少しだけ考える素振りをして、それから答えた。
「マイケル」
それだけ。
余計な肩書きも何もなし。
ノアの目がわずかに細くなる。
「……北から来た魔術師か」
情報は入ってるらしい。
さすが騎士。
「で?」
マイケルは首を傾げる。
「それが何?」
(火に油……!)
空気が一気に張り詰める。
さっきまでの街の喧騒が、遠くに感じるくらいに。
ノアの手が、わずかに剣の柄へと動く。
完全に警戒モード。
「ロゼリア様から離れていただきたい」
低く、はっきりとした声。
命令に近い。
でも。
「やだ」
即答。
一切の迷いなし。
(即答するな!!)
心の中で叫ぶ。
ノアの目が、さらに険しくなる。
「理由を伺っても?」
「ないよ」
マイケルはあっさり言う。
そして、ちらっと私を見る。
「この人、面白いし」
(やめてほんとに)
状況がどんどん悪化していく。
完全に対立構図。
騎士と魔術師。
しかもどっちも引く気ゼロ。
(……どうするのこれ)
逃げ場は、もうなかった..
「ノア、少し落ち着いて」
ぴりついた空気に、柔らかい声が割って入る。
セリアが一歩前に出た。
その動きだけで、ほんの少しだけ緊張が緩む。
「ここで騒ぎを起こすのは良くないわ」
周囲の視線をさりげなく示す。
確かに、さっきから人目は集まり始めていた。
(助かった……)
ノアは一瞬だけ目を閉じ、小さく息を吐く。
それから、ゆっくりと手を剣から離した。
「……失礼した」
そう言いつつも、視線の鋭さは消えていない。
完全には引いてない。
セリアはそんな彼を横目に見て、少しだけ困ったように笑った。
「ロゼリア様、本日は本当にお一人で?」
「……ええ」
一応、頷く。
マイケルのことは“カウントしない”方向で。
「そうですか」
柔らかい返事。
でもその目は、じっとこちらを見ていた。
観察するように。
(……この子)
ふと、違和感を覚える。
ノアみたいな圧はない。
でも。
(見られてる)
もっと静かに、深く。
「以前より、お元気そうですね」
ふわりとした言い方。
何気ない一言。
でも。
(それ、どういう意味?)
一瞬、言葉に詰まる。
前のロゼリアを知っている人間の発言。
そして、その“違い”に気づいているようなニュアンス。
「……そうかしら」
曖昧に返す。
セリアは少しだけ首を傾げた。
「ええ。雰囲気が……少し変わられたように見えます」
(やっぱり来た)
直接じゃない。
でも確実に踏み込んできている。
ノアほど攻撃的じゃない分、余計に厄介。
マイケルが、横で小さく笑った気がした。
(楽しむな)
「……気のせいよ」
短く言い切る。
それ以上は触れさせない。
セリアはそれ以上追及しなかった。
でも。
「そうかもしれませんね」
微笑みながら、ほんの少しだけ目を細める。
(絶対納得してない)
確信する。
この子、気づいてる。
少なくとも、“何かがおかしい”とは思ってる。
その時。
ノアが再び口を開いた。
「いずれにせよ」
まっすぐ、私を見る。
さっきよりも少しだけ抑えた声で。
「このような場所での単独行動はお控えください」
忠告。
でも、命令に近い。
「特に」
ちらっとマイケルを見る。
露骨に不信感。
「出自の不明な者と行動を共にするのは、危険です」
(完全にアウト判定されてる……)
マイケルは、あくびでもしそうな顔で聞いていた。
興味なさそうに。
「終わり?」
軽くそう言う。
(煽るな)
ノアの眉がぴくりと動く。
でも今度は、抑えた。
セリアがいるからだろう。
「……行くぞ、セリア」
短く告げる。
これ以上ここにいても無駄だと判断したらしい。
「はい」
セリアは頷いて、去り際にもう一度こちらを見る。
その視線は、やっぱりどこか探るようで。
「また、お話しできると嬉しいです」
にこり、と微笑む。
でも。
(あれ、完全に様子見の顔だ)
ただの挨拶じゃない。
観察継続宣言みたいなもの。
二人はそのまま人混みの中へ消えていった。
残された沈黙。
「……はあ」
思わず息が漏れる。
一気に疲れた。
「面白かったね」
横から、楽しそうな声。
「どこがよ……」
即答する。
本気で言ってるのかこの人。
マイケルはくすっと笑った。
「騎士、分かりやすいし」
「分かりやすいのはいいことじゃないの?」
「どうだろうね」
肩をすくめる。
それから、少しだけ視線を細めた。
「でもさ」
さっきより、ほんの少しだけ真面目なトーン。
「気をつけた方がいいよ」
(……え?)
「何を?」
思わず聞き返す。
マイケルは、軽く首を傾げた。
「さっきの子」
セリアのこと。
「勘いいから」
(……やっぱり)
ぞくり、とする。
「もう半分くらい気づいてるかもね」
さらっと、とんでもないことを言う。
(ちょっと待って)
「……何に」
聞くのが怖い。
でも聞かずにいられない。
マイケルは、少しだけ笑った。
「君が“違う”ってことに」
心臓が、嫌な音を立てた。
私は現在「91 DAYS」を視聴していますが、とても気に入っています。
「真夜中パンチ」、「けいおん!」を見始めようと思っています。
友人が髪を白く染めたいと言ったので、私は「おじいさんのコスプレでもするつもり?」と尋ねた。




