#6:アイウの街へ行こう
庭に出たのは、ただ少し静かになりたかったからだった。
昨日の出来事が、まだ頭の中でぐるぐるしている。
(最悪な出会いだった……)
思い出すだけで、軽くため息が出る。
“変だね”なんて第一声で言ってくる人、普通いない。
……いや、この世界ならいるのかもしれないけど。
少なくとも、関わりたくないタイプなのは間違いない。
「何が最悪なの?」
「全部よ」
反射で答えてから、ぴたりと動きが止まる。
(……え?)
ゆっくりと振り向く。
そこにいたのは..
「おはよう」
当たり前みたいな顔で立っている、例の男。
(なんでいるの!?)
「マイケル様……」
名前を呼びながらも、内心は全然落ち着いていない。
気配、全然感じなかったんだけど。
「様はいらないよ」
軽く手を振ってくる。
距離感が近い。
というか、近すぎる。
「それより」
一歩、近づいてくる。
自然すぎて、反応が遅れる。
「街、行こう」
(は?)
あまりにも唐突すぎて、思考が止まる。
「……街?」
「うん」
当たり前みたいに頷く。
説明ゼロ。
「なんで?」
素で聞いてしまう。
マイケルは少しだけ考える素振りをして、それから肩をすくめた。
「暇だから」
(理由それ!?)
さすがに言葉を失う。
「あと」
ちらっとこちらを見る。
「君も暇そうだったし」
「……失礼ね」
即座に返す。
でも否定はできないのが悔しい。
「それに、ずっとここにいると腐るよ」
さらっととんでもないことを言う。
「貴族って、外に出ないでしょ」
(まあ、そうだけど)
でも。
それをこんな風に言われると、ちょっと引っかかる。
「……だからって、私が行く理由にはならないわ」
一応、抵抗しておく。
ここで簡単に乗るのもどうかと思うし。
マイケルは、少しだけ目を細めた。
「興味ない?」
「ないわ」
即答。
……のつもりだった。
でも。
「へえ」
一歩、距離を詰められる。
また近い。
「じゃあさ」
軽く首を傾げながら。
「この世界のこと、知りたくない?」
(……っ)
一瞬、言葉が詰まる。
今の。
完全に。
核心だった。
「……何のことかしら」
とりあえず、しらばっくれる。
反射的に。
でもマイケルは、それ以上は踏み込んでこなかった。
ただ、少しだけ笑う。
「別に」
軽い調子に戻る。
「難しく考えなくていいよ」
くるりと背を向ける。
そして。
「来るなら来ればいいし、来ないならそれでもいい」
歩き出しながら、ひらひらと手を振る。
「先に行ってるから」
(え、ちょっと待って)
止める間もなく、そのまま去っていく。
本当に、自由すぎる。
……しばらく、その場に立ち尽くす。
(何あれ)
意味が分からない。
ペースが全部狂う。
関わりたくないって思ったばかりなのに。
なのに。
「……はあ」
小さく息を吐く。
頭の中に、さっきの言葉が残っている。
この世界のこと、知りたくない?
「……ずるいでしょ、それ」
ぽつりと呟く。
気づけば。
足が、動いていた。
門を抜けた瞬間、空気が変わった。
(……近いのに、全然違う)
石畳の道。行き交う人々。重なる声。
笑い声、呼び込み、物を売る声。
全部が混ざって、ざわざわとした熱になっている。
思わず足を止めた。
こんな距離に、こんな場所があったなんて。
「遅かったね」
前から声が飛んでくる。
顔を上げると、マイケルが人混みの中に紛れるみたいに立っていた。
(よくあの格好で目立たないな……)
いや、目立ってる。
でも気にしてないだけだ。
「……先に行くって言ったくせに」
少しだけ不満を込めて言う。
「来たじゃん」
あっさり返される。
「来ないと思ってたわ」
「半々かな」
軽く笑う。
本当に読めない。
「で?」
彼はくるりと向きを変えて、歩き出す。
「何から見る?」
(何からって……)
そんなこと聞かれても困る。
というか。
「案内する気ないの?」
「あるよ」
即答。
でも。
「適当に」
(ないじゃんそれ)
思わず小さくため息をつく。
でも、ついていくしかない。
ここで一人になるのも不安だし。
人混みの中を歩く。
すれ違う人たちの会話が、断片的に耳に入る。
値段交渉。
世間話。
くだらない笑い話。
(……本当に普通の人たちだ)
背景じゃない。
ちゃんと生活してる。
そんな当たり前のことに、妙に実感が追いつかない。
「止まって」
不意に、マイケルが私の腕を軽く引いた。
「え」
ぐい、と引かれて、一歩よろける。
そのまま立ち止まらされる。
すぐ横を、大きな荷車が通り過ぎた。
「……危ないでしょ」
何事もなかったみたいに言う。
(いや、言うの遅くない?)
でも、確かに。
さっきのままだったらぶつかってたかもしれない。
「ちゃんと見て歩いてよ」
「見てたわよ」
「見てない」
即否定。
むっとする。
「見てたってば」
言い返すと、マイケルは少しだけ目を細めた。
「いや、見てないね」
断言。
そのまま、ちらっと周囲を指す。
「景色ばっかり見てた」
(……っ)
図星。
言い返せない。
「……悪かったわね」
小さくそっぽを向く。
すると。
「別にいいけど」
あっさりした声。
でも、続けて。
「そういうとこ」
少しだけ、楽しそうに。
「やっぱり変だよね、君」
(またそれ!?)
思わず睨む。
でも、マイケルは全然気にしていない。
むしろ面白がってる。
「普通の貴族なら、もっと違うとこ気にするよ」
「例えば?」
「服が汚れるとか、周りの視線とか」
少しだけ肩をすくめる。
「でも君、全然気にしてない」
言われて、はっとする。
……確かに。
「……そういうものなの?」
「そういうもの」
即答。
迷いがない。
「だから変」
(失礼すぎるでしょほんとに)
でも。
否定できない。
できないのが、ちょっと悔しい。
マイケルはそのまま、また歩き出す。
「ほら、行くよ」
振り返りもせずに言う。
(ほんと勝手……)
小さく息を吐いて、それでも後を追う。
人混みの中。
さっきよりも少しだけ近い距離で。
(……この人といると)
ペースが狂う。
考える余裕がなくなる。
なのに。
(……ちょっとだけ、楽しいのが嫌なんだけど)
そんなことを思ってしまった自分に、少しだけ呆れながら。
私はそのまま歩き続けた。
ああ、残念だ。「真夜中ハートチューン」が終わってしまった…
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