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#2: 夜間の思考、つまり不眠症。

次の章はもっと短くなるので、約束します。

眠れない。


目を閉じても、すぐにあの光景が浮かんでくる。


きらびやかなシャンデリア。静まり返った大広間。突き刺さるような視線。


そして


「君との婚約を破棄する」


……やめて。思い出したくない。


思わず布団を頭までかぶる。


けど、意味なんてない。暗くなっただけで、脳内上映は止まらない。


(いやほんとに、なんであんなことになったの……)


ベッドの上でごろりと寝返りを打つ。


ふかふかすぎる。落ち着かない。なんかもう全部が現実味ない。


天蓋付きのベッドとか、普通に人生で初めてなんだけど。


……いや、そこじゃない。


問題はそこじゃない。


(婚約破棄されたんだよね、私)


改めて考えると、じわじわ来る。


というか、状況が重すぎる。


普通に生きてて「婚約破棄」なんてワード出てこないでしょ。


しかもあんな大勢の前で。


公開処刑みたいなもんじゃん。


「……うわあ」


思わず声が漏れる。


恥ずかしい。今さらだけどめちゃくちゃ恥ずかしい。


いやでも、それより。


(いやいやいや、ちょっと待って)


布団から顔を出して、天井を見上げる。


白くて綺麗で、やたら高い天井。


現実逃避したいけど、できない。


(なんで私、あんなこと言ったの?)


脳内でもう一度、自分のセリフが再生される。


「殿下のお言葉、謹んでお受けいたしますわ」


……いや誰?


誰その完璧なお嬢様。


私そんなキャラじゃないんだけど。


(いやまあ、ロゼリアなんだけどさ……)


でも中身、渡辺ミチルなんですけど。


もっとこう、慌てるとか、泣くとか、普通あるでしょ。


なのに。


(めちゃくちゃ冷静だったよね私……)


むしろちょっとかっこよかったまである。


いやいやいや、何言ってんの。


そんな自己評価してる場合じゃない。


また寝返りを打つ。


枕が柔らかすぎて逆にフィットしない。落ち着かない。


(でもさ……)


ふと、考える。


あの場で、もしゲーム通りに動いていたら。


ヒロインに食ってかかって。


王子に言い返して。


さらに印象を悪くして。


(……終わってたよね、完全に)


間違いなく。


破滅一直線コース。


それだけははっきりしている。


「……いや、うん」


小さく呟く。


少なくとも、あれは間違いじゃなかったはず。


たぶん。


きっと。


(……だよね?)


自信はない。


全然ない。


でも。


あれ以外の選択肢があったとも思えない。


再び、あの静まり返った空間が頭に浮かぶ。


全員が固まってた顔。


王子のあの微妙な表情。


ヒロインの驚いた目。


……そして。


(あの空気)


明らかに、何かがおかしかった。


ゲームで何度も見たはずのシーンなのに。


同じはずなのに。


どこか、ズレていた。


「……はぁ」


深く息を吐く。


考えれば考えるほど、分からなくなる。


そもそも。


(なんで私、こんなとこにいるのよ……)


つい数時間前まで、普通に自分の部屋にいたはずなのに。


スマホいじって、ゲームして、だらだらして。


それがいきなり、悪役令嬢。


落差が激しすぎる。


「……寝たい」


ぽつりと呟く。


ほんとに。


現実逃避でもいいから、一回寝たい。


でも。


目を閉じれば、またあのシーンが再生されるのは分かってる。


(無理だこれ……)


完全に目が冴えてる。


体は疲れてるはずなのに、頭だけ無駄に回ってる。


最悪なやつ。


布団の中で、もう一度小さく丸くなる。


静かな夜。


時計の音も、外の気配もほとんどない。


なのに。


頭の中だけが、うるさい。


(……どうしよう、これから)


さっき浮かんだその言葉が、頭の中でぐるぐる回る。


寝るどころじゃない。


むしろここからが本番な気がしてきた。


(落ち着け。整理しよう)


布団の中で目を開けたまま、思考を無理やり整える。


まず、現状。


私はロゼリアとして、婚約破棄を受け入れた。


これはゲームにはない行動。


つまり――


(フラグは、たぶん折れた)


……たぶん。


問題はそこから先。


ロゼリアの結末は一つじゃない。


頭の中で、見たことのあるエンドが順番に浮かぶ。


追放エンド。


社交界から完全に干されて、実家も没落コース。


これはまあ、まだマシ。


生きてはいる。


(いや、マシじゃないけど)


次。


破滅エンド。


家が完全に潰れて、人生終了。


これもキツい。


かなりキツい。


そして――


(処刑エンド……)


思わず顔をしかめる。


これだけは絶対に無理。


ゲームだから見れたけど、実際にやるとか意味分からない。


「……却下」


小さく呟く。


全部却下だけど。


でも現実問題、どれかに行く可能性はある。


むしろ今の状況、どこに転ぶか分からなすぎる。


(婚約破棄は受け入れた)


ここまではいい。


でも、その後は?


ゲームだと、この後どんどん評価が下がっていって――


(あれ?)


ふと、思考が止まる。


評価が下がる。


それって、どういう流れだったっけ。


ヒロインへの嫌がらせが積み重なって。


周囲からの印象が最悪になって。


最終的に断罪。


……そうだ。


(原因、それじゃん)


今までのロゼリアの行動。


それが全部、積み重なってる。


つまり。


(今の私は、すでに嫌われてる状態……?)


うわ、地味にきつい。


スタート地点がマイナス。


しかもかなりのマイナス。


「……詰んでない?」


いや、まだだ。


まだ考えろ。


ここで諦めたら本当に終わる。


(でも、あの場の反応……)


思い出す。


ざわめき。


驚き。


そして、あの妙な沈黙。


明らかに、想定と違う反応だった。


本来なら、あそこで完全に「悪役確定」になるはずなのに。


今回は...


(様子見、みたいな空気だった)


断罪というより、保留。


そんな感じ。


「……なんで?」


小さく呟く。


理由が分からない。


いや、分かる部分もある。


私がゲームと違う行動をしたから。


それはそう。


でも、それだけであんなに空気変わる?


(……いや、それより)


もっと引っかかってることがある。


エリナの視線。


あの一瞬。


ただ怯えてるだけじゃなかった。


何かを見極めるみたいな、あの目。


(あんなの、ゲームで見たことない)


ヒロインはもっとこう、守られる側の存在だったはず。


あんな風に、相手を観察するようなキャラじゃない。


「……気のせい?」


いや。


違う気がする。


そして。


(あの笑い声)


最後に聞こえた、あの小さな笑い。


誰だったのか分からない。


でも、確実にそこにあった。


ゲームの記憶をいくら探っても、そんな演出はない。


つまり。


(知らない要素がある)


ぞくり、と背筋が冷える。


これはただの再現じゃない。


同じ世界のはずなのに。


微妙に、確実に、ズレてる。


「……最悪」


ぽつりと漏れる。


知識チートのはずが、通用しないかもしれないとか。


笑えない。


ほんとに。


ゆっくりと体を起こす。


眠れないなら、もういい。


布団から出て、床に足をつける。


ひんやりとした感触が、少しだけ頭を冷やした。


そのまま、部屋の隅にある大きな鏡の前へ歩く。


そして。


立ち止まる。


「……これが、私」


映っているのは、見慣れない少女。


整いすぎた顔立ち。


長い髪。


どこからどう見ても、お嬢様。


ロゼリア・フォン・アルブレヒト。


ゲームで何度も見たキャラクター。


でも。


(中身は、私なんだよね)


違和感がすごい。


自分の顔なのに、自分じゃない。


でも、もうこれが自分。


逃げ場はない。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


(渡辺ミチルは、もういない)


少なくとも、この世界には。


だったら。


やるしかない。


この身体で。


この立場で。


生き残るしかない。


鏡の中の自分を、まっすぐ見る。


さっきまでの迷いを、少しだけ押し込めて。


「……まずは」


ゆっくりと口を開く。


「余計なことはしない」


基本中の基本。


ヒロインに関わらない。


イベントを起こさない。


目立たない。


(……いや)


そこで、思考が止まる。


本当にそれでいい?


今回みたいに、もうズレてるなら。


ただ避けるだけで、どうにかなる?


「……なら」


小さく、呟く。


答えは一つ。


逃げるだけじゃ足りない。


「ちゃんと動くしかない、か」


情報を集める。


人間関係を把握する。


そして


(評価を、下げないようにする)


いや、できれば上げる。


無理でも、せめてマイナスを減らす。


それが一番現実的。


「……うん」


軽く頷く。


完全じゃない。


でも、何もないよりはいい。


とりあえずの方針は決まった。


少しだけ、頭がすっきりする。


……ほんの少しだけだけど。


「……寝れる気しないけど」


苦笑が漏れる。


まあいい。


だったら


(明日から動く)


それだけ決めて。


私はもう一度、鏡から目を離した。


しまった…模擬試験は月曜日だ。

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