わたしの超惑星戦斗母艦(おうち)でプロレスすんなっ!
「迎撃態勢!」
彼が叫ぶ。
ああまただよこのお人好しぃ!?
わたしが事態を察してお茶を放り投げたのは意図してのものではないが、おうちが大きく揺れてガシャンガシャンと変形を始めたら多少の粗相は許していただきたい。
わたしのおうち、正確には彼とわたしのおうちたる『超惑星戦斗母艦・デッ=カイナー』は彼のコマンドに忠実に従い、各ブロックが緊急分離・再構成されていく。
当然、先程まで地球産のお茶とコンビニスイーツを愉しもうとしていたわたしは上も下も右も左も前も横もコロコロコロコロ。
一応重力装置があるが慣性による酔いは避けられない。
『迎撃態勢! 超惑星戦斗母艦デッ=カイナーガン!』
彼が銃型デバイスを握ると銃の形になったおうちが惑星破壊も起こしかねないビームを放つ。
怪獣一匹にオーバーキルすな。
富士山が平らになったらどうするの!?
どうも。
わたしの名前はアニマ・ナー・フロイト。
正確な発音でもないけど『この』地球ではそう名乗った方が通る。
彼の名前はアニムス・マー・ユング。
なんかガチャガチャした強化プロテクターを身にまとって剣にも銃にもなる万能ツールにしてわたしたちのおうちのコントローラーである『ボルテックスライドル』片手に大見得を切ってる。ばかなの?
地球のテレビ見ようと思ったらまた持ち出してるし。
「何度も言ったわよね! 『地球』のことに干渉しないでって! わたしのおうちでプロレスすんな!」
「そんなこと言っても」
お人好しに過ぎる彼はわたしの幼馴染である。
一応母星で生き残ったのはわたしと彼だけだから……これ以上は言わない。
「ムス! ……あのね。わたしのお父さんお母さんが遺してくれたおうちがなくなったら?」
「宇宙に出れなくなる」
よくわかっているじゃないの。
彼はぐちゃぐちゃになったコンビニスイーツを見た目気にせず平気で口に入れた。
もう。口のまわりにクリームついてる。
「それだけではないわ。わたしたちヒューマノイドタイプにとっての居住可能惑星、いわゆる『地球』は銀河連邦法によって保護される貴重な『資源』なのよ。わたしたちが勝手に私物化したり、現地生物たちに干渉するものじゃない」
彼はぺろべろと手についたクリームを舐めた。
ほっぺたを手で拭くからよ。
「『おー! ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だ完成度高ェなオイ』と現地の猿が大喜びだったけど」
「同じヒューマノイド! 凶暴な同族殺しだけど先祖は同じだからそれ!」
我々の先祖はさまざまな理由で保護された『地球』なる星を起源とする『珍しい猿』(※大雑把な分類だが)の一種であり、伝統的に私たちの居住可能惑星はまとめて『地球』と呼ぶ。
「それにわたしのおうち、そんな卑猥な形してない!」
「ハワイ? この間の海水浴は楽しかった」
宇宙生命の宿敵ブラックホール生命群に故郷を滅ぼされたわたしたちは大人たちの多大な犠牲、お父さんお母さんたちの奮闘によりわたしと彼だけがこのおうち……最終兵器だったはずの『超惑星戦斗母艦デッ=カイナー』に乗せられて脱出した。
……その気になれば敵を倒せたはずなのに。
「ところで現地生物たちは何故水泳時に半裸になるのだ。おまえも同じ格好をしていたがあれは」
「……!!?!」
父と母は子供二人に惑星の未来を託して散った。
だからといってわたしが彼を無理矢理黙らせたのを誰が咎めようか。デリカシーってものを学んでほしい。
「あの服装は良くない。現地の猿を欲情させて大変危険だと思う」
「コンバットスーツ着たまま海の泡になりたくないからよ」
本当は違う。
少しは褒めて欲しかった。
「なるほど、その節は助かった」
「ほんと気をつけてね。言っとくけど次に勝手に現地生物助けるためにおうち勝手に動かしたら入れてあげない」
彼はなぜか変な顔をする。
「それはこまる」
「困るでしょ。野宿なんて」
「いや、サファイアたち、特に彼女の父のアクアマリンと母のアメジストが是非家に来いと」
「……丁重に断りなさい」
生き延びた私たちは新たな『地球』を目指す間、長い眠りにつき、睡眠学習にて大人になった。
なのでか知らないが、彼はちょっと子供っぽいままだ。
彼はくんくんと指先を嗅いだ。
スイーツの香料が気になるらしい。
「でも、今日は『戦闘形態』にならなかったよ」
彼は唾のついた手を持て余している。
「それでもとりあえず当面ガンモードは禁止。管理権限頂戴。惑星壊しちゃったら重罪だもん」
わたしは仕方なくお手拭きになるデバイスを出した。彼はポンと手を叩く。
「ロボットモードであるアームズ限定になるならば得意の格闘戦しか」
「あのね。わたしの超惑星戦斗母艦でプロレスするなって何度も言ったわよね」
パンチにキック、ジャイアントスイングにスープレックス、挙句にブレーンブレーンバスター!
ワン! ツー! スリー!
ガンガンガンガン!
(※敵を殴打する音)
「(前記復唱)……なんて想定されていないような動きを『戦闘形態』でしないでほしいの」
「無敵装甲、自己修復、資材発見機能を使ったね。すまん」
すまんで銀河連邦法を破らないでほしい。
デッ=カイナーは戦闘形態『デッ=カイナーAS』を取ると彼の身体感覚と連動して驚異的な運動性能を見せる。
鈍重な見た目に反して地球上でトンボをきり、側転バク転なんでもありだ。もちろん街も山も大混乱。
特にこの『地球』はわたしたちヒューマノイドタイプの生まれた星だとされている。
「珍しい猿扱いだったわたしたちが銀河連邦内でそれなりの地位を築くまで何万年もかかっているのを習ったわよね?」
『スペシャルニュース! 辺境惑星『地球』wxxxyz114514に幻のネッシーを見た!』
こんな扱いを受けるど田舎出身種族が銀河のあちこちで繁栄できているのは奇跡のような汎用性の高さが原因とされる。
その汎用性が災いしてこの『地球』はわたしたちヒューマノイドにはとても過ごしやすく、公にはできないが中央で生きていけなくなった犯罪者や変わり者が住んでいるのだ。
大概は概ね無害だが、今回のようにこの惑星上で活動するには物理法則を無視するサイズである超時空連続体生命……いわゆる怪獣を操る連中もいる。
「たしか、今日戦った怪獣操ってた科学者は」
「あいつ捕まえたから銀河連邦警察から感謝状をいただいたわよ。あとめっちゃ船の持ち主の私が怒られた。ライドル使えるのあなたなのに」
「いやぁ、ビーム無効化されて焦ったから、この間アメジストたちに連れられていったレトロな遊戯施設で学習した『ふぁいなるあとみっく……ばすたぁ!!』なる技で」
「だからそれやるなあ!!」
この惑星の単純なものはさておき、この船ほど複雑なものはわたしくらいでないと直せない。
わたしがキレ散らかしていると「ビーオン! ビーオン!」と警告音。
またなのこの星! 住みやすいのはわかったわよ!?
「ブラックホール生命群だな」
「ヒューマノイドでもないのにこの地球に? 逃げなきゃ」
しかし彼は操縦桿を握ったわたしの肩を軽く抱いた。
「僕らは逃げれる。でも彼らは?」
「……野蛮な生き物は滅ぶだけ」
わたしだってほんとうはサファイアたちのことは好きだ。
あの子供が幼いながらムスに恋しているのとこの判断には関係ない。
同族同士で殺し合い排除し合う彼らは銀河連邦に加入し義務を果たすとともに保護下におかれるべき権利がない。
モニターに何か映った。
逃げ遅れた子供と彼を庇う母親。
「……!?!」
わたしの押したトリガーはブラックホール生命群の一体を撃ち抜いた。
反物質爆裂を防ぐためにこれは必要なことなのだ。他意などない。
わたしはフットペダルを踏む。
この惑星内で被害を出さない速度としては最速である。
同時にバリアエッジが発動し、敵ブラックホール生命群を縛り付ける。
彼はすでにその手にライドルを握り『王着!』コンバットスーツをまとう。
……『王着』。それは時空連続体を航行する超惑星戦斗母艦『デッ=カイナー』を操る王家のものだけが装着を許される特別なコンバットスーツ着装を指す!
時空連続体戦士デカイオンが王着を完了するまでわずか0.1ミリ秒!
ではその王着プロセスをもう一度超スローモーションで見てみよう!
「王着!」
『鼻をかみつつポテチつまんでコントローラーを手にしたままコーラのペットボトルを飲もうとして落とす』
かような日常でもコントローラーたるボルテックスライドルにてコマンドワードを放てば『王着』プロセスは開始される。
寝転がって屁を放ちそのガスが放出する前にデッ=カイナーの持つ転送システムが発動。
急所たる頭胴体から全身をプロテクターが覆い、全てのコントローラーにして王の証たるボルテックスライドルは速やかに剣に変化する。
ソファに穴が開くより早く、ペットボトルは彼の手のひらに。
そして放屁が内部で轟くも、外には聞こえないのだ!
「時空連続体戦士! デカイオン!」(ぷう)
「ナニ背後で謎のダメージ受けているのよ」
悶える彼を気配だけで把握して思わずツッコミを入れてしまう。
「ニマ! 出るぞ!」
「気をつけてね!」
ボルテックスライドルを持たない私は操縦システムを使わねば意思だけで超惑星戦斗母艦『デッ=カイナー』を操縦できない。
所詮わたしは開発者たるお父さんとお母さんの娘に過ぎないのだ。
ただの科学者の娘が王家の……いや、言うまい。
彼はわたしを姉とも妹とも親友とも言わないが相棒くらいにはおもってくれているだけで充分だ。
「街だな」
「足元気をつけて」
彼は口元に手をやりキビキビ見栄を切る。
そうしないと安全装置が作動しない。
「カタルシスウェイブ!」
本来は悪人に更生させるための洗脳、もとい特殊光線だが、避難誘導にも使えなくもない。
わたしたちのおうちから謎のビームを放つ金属スーツの変態が街を襲っているように見えるのは気のせいだ。
「よし!」
街を荒らす怪獣。
その巨大な脚が大地を揺らし衝撃波が窓ガラスを割り、口から吐く炎がインフラを破壊して煙や水や炎としていく。
「トラクタービーム!」
無理矢理怪獣をとらえて空へ。
「行くぞ! ニマ!」
「いいわよムス!!」
わたしがボタンを押し、彼がボルテックスライドルを起動する。
『承認』
「『変形を開始します。全乗員は安全姿勢を維持せよ』」
光り輝く『超惑星戦斗母艦デッ=カイナー』は本来存在しない部品を超時空連続体より生み出し形状を変えていく。
「行くぞ(行くわよ)! 『超惑星戦斗母艦デッ=カイナー・AS』!!」
空中で大見得を切るのはそうしないと安全装置が邪魔をするのだ。
「とぅ!」
ムスが叫ぶと強烈なGが重力装置の干渉以上になる。
鳥瞰モニターが、怪獣の尻尾を空中でさばき、その両足を持つとともに頭と肩でフックする『超惑星戦斗母艦デッ=カイナーAS』を映した。
「『謎肉バスター』!!」
掲げた頭上で敵の股を裂くとともに両足と尻で着地。
当然鋼鉄より重い怪獣を抱えて着地した『デッ=カイナー』全身のセンサーが警告を放つ。
彼は警告気にせずそのまま手を離して……ボディスラム!
王の機体は忠実にその動きを再現。
彼は見事なエアプロレスで怪獣を引っこ抜いて飛び上がる動きを見せた。
……あ、それもダメェ!?
「『謎肉ドライバー』!!」
ゆっくり倒れる怪獣にトドメを刺すようにストンピング。
お前はどこぞの赤いヤツか。「いまだ! キックだ目を狙え!」じゃねーぞ。
でも反撃受けたらもっと直すの大変だし。
「いまだ! パンチだ! 腹だ!」
「生き物虐待やめなさい」
怪獣を見事に回収、有機物再利用システムにて莫大なステーキ肉を確保した我々は。
「フィクサービーム!」
街を直して帰ることにした。
この世界の物質である単一時空体である街は直せるのにおうちを直すためには怪獣やおうちと同じ時空連続体スパナを握らねばならない。
ああ、今夜も徹夜だ。
時空とは小さな箱の連続であり、過去も未来も異世界もこの連続体の距離でしかない。
それを入れ替えることができるのが異世界だの魔法だのと呼ばれる技術体系になるが委細は省く。
「この異星人ども! 二度とくんな!」
罵声を浴びながらわたしたちは衛星軌道に戻っていく。
この地球の生物が使ういかなるセンサーからも逃れられるし目視も不可能な位置を確保。
やっと終わった。
いや、これから修理しないと。
気づいたら愚痴を放っている。
こんなこと言ったら嫌われちゃうと思うのに大切なお父さんとお母さんが遺した船だから。
「だから言ってるでしょ。
わたしたちは彼らにとっては星を荒らす異星人にすぎないの。彼らが一番この星を荒らすのにね」
わたしがいつもの悪態をつくと、彼はわたしを優しげにみた。
「……だな。でもさ。君も戦ってくれた」
まぁ目覚めが悪いしそれに。
「それに?」
後半、口に出していたらしい。
なんか居心地わるい。こいつのほうが居候なのに。
「相棒、だしね。わたし」
「相棒でいいわけ?」
えっ。
彼は窓に顔を向けたまま、こちらを見ていなかった。ひょっとしたら見せたくないのかもしれない。
駆け寄るのをなんとか我慢できた。
彼の、いやわたしたちが見る窓のその下には青と大地の美しい星がある。
わたしたちヒューマノイドタイプの発祥の地とされる星がある。
わたしは、わたしたちはなぜかお互いの顔を見ることが出来ず憮然とそれを見ていた。短い、短い時間なのに、長い、永い瞬間。
そっと指先に、彼の指が触れる。
「……! そ、それはそうと」
わたしは頬と耳をなぜか熱くするなにかを誤魔化すかのように呟き彼の手を握る。今度は逃さない。
「家賃払え! 修理手伝え! わたしの、超惑星戦斗母艦でプロレスするなぁー!!」
ブラックホール生命群の首魁を倒して一連の騒ぎが解決し、わたしにとっての彼の呼称が『居候』でなくなるまで、『わたしたちの新しい』地球時間で一年を必要とする。
(おしまい)




