少年はエルフの仮面に小さなひびが入っていることを知っている
これがこの物語の最新エピソードです。楽しんでいただけたら嬉しいです。
警察署。
キム・ヒヨンはデスクの前に立っていた。
また一日が始まる。
終わりの見えない捜査。
資料の山。
矛盾だらけの証言。
繋がらない点と点。
「……」
ヒヨンは静かに目を閉じた。
そのとき。
電話が鳴った。
内線ではない。
外部からの直通回線。
ヒヨンはすぐに受話器を取った。
「キム・ヒヨンです」
相手は、震えた声で名乗った。
「チ・ウ大臣の秘書です」
ヒヨンの表情が変わる。
「どうしましたか?」
一瞬の沈黙。
そして——
「大臣が……誘拐されました」
空気が凍りついた。
「……詳しく」
ヒヨンの声は低く、鋭い。
秘書は息を整えながら続けた。
「一時間ほど前です」
「大臣は記者会見に向かう途中でした」
「護衛も一緒に……」
言葉が詰まる。
「車が発見されたんです」
「大臣は……中にいませんでした」
ヒヨンは無言で聞き続ける。
「車内には争った形跡がありました」
「それと……」
「護衛の方々は、全員……死亡しています」
ヒヨンはゆっくりと受話器を置いた。
数秒、動かなかった。
(……繋がっている)
彼女は確信した。
これまでの連続殺人。
標的は、五十歳以上の人間。
社会の中枢に関わる人々。
チ・ウも——その条件に当てはまる。
それだけではない。
政府の中枢。
影響力。
象徴性。
(無関係なはずがない)
ヒヨンは顔を上げた。
「全員、出動準備!」
二人の警官がすぐに反応した。
ヒヨンは歩き出す。
その目には迷いがなかった。
(これはテロだ)
(だが——)
なぜ、声明がない?
何を求めている?
なぜ沈黙している?
警察署の外。
ヒヨンと二人の警官が車へ向かう。
そのとき——
「キム・ヒヨン!!」
叫び声。
三人が振り向く。
そこにいたのは、エジュンだった。
息を切らし、顔は青ざめている。
明らかに全力で走ってきた様子だった。
「どうしたの!?」
ヒヨンが駆け寄る。
エジュンは叫んだ。
「分かったんです!!」
「全部……全部分かりました!!」
息を吸う。
「犯人は……!!」
その瞬間。
空気が裂けた。
——パンッ!!
銃声。
エジュンの体が大きく揺れた。
肩から血が噴き出す。
「っ——!!」
ヒヨンの目が見開かれる。
三人の男が現れた。
黒いフード。
顔は見えない。
「止まれ!!」
警官の一人が叫ぶ。
ヒヨンともう一人の警官がすぐに走り出した。
「追え!!」
残った一人の警官はエジュンの元へ。
「しっかりしろ!!」
血が止まらない。
警官は震える手で無線を取る。
「救急を要請!!少年が撃たれた!!」
一方——
ヒヨンたちは路地へと飛び込んだ。
逃げるフードの男たち。
その一人が振り返り、発砲する。
銃撃戦。
「くっ……!」
同行していた警官が前に出る。
「行け!!」
ヒヨンはさらに奥へ。
次の瞬間——
銃声が重なった。
一人、倒れる。
さらにもう一人。
だが——
警官もまた、崩れ落ちた。
血が広がる。
ヒヨンは歯を食いしばった。
最後の一人。
ヒヨンは距離を詰める。
男が振り向く。
一瞬の隙。
ヒヨンはその腕を叩き落とし、地面に押さえつけた。
銃が転がる。
「終わりよ」
男はもがく。
ヒヨンはフードに手をかけた。
そして——引き剥がす。
「……っ」
言葉を失った。
そこにいたのは——
見覚えのある顔。
あの時、事情聴取をした若者。
最初の被害者の息子。
偽りの記憶を持っていた、あの青年。
「……どうして」
ヒヨンの声は震えていた。
「どうしてこんなことをしたの!?」
「エジュンは……ただの子供よ!!」
青年は何も答えない。
ただ——
自分の舌を、強く噛んだ。
「やめ——」
遅かった。
口から血が溢れる。
そのまま意識を失った。
サイレンの音。
救急車が到着する。
ヒヨンは走って戻った。
エジュンは担架に乗せられている。
顔は青白いが——
まだ息がある。
「助かるの?」
ヒヨンの問いに、救急隊員が短く答えた。
「現時点では生存しています」
「すぐに搬送します」
ヒヨンはわずかに息をついた。
そのとき。
別の救急隊員が言った。
「ところで……」
ヒヨンを見る。
「この少年、ポケットに妙なものを持っていました」
古びた紙の束を差し出す。
ヒヨンはそれを受け取った。
埃の匂い。
古い——論文。
タイトルが目に入る。
『超競争社会におけるストレスの深刻性』
著者名。
——ソ・ジュン。
ヒヨンの思考が、止まった。
そして次の瞬間——
全てが、繋がり始めた。
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