もしかしたら、将来は幸せが訪れるかもしれない。
これがこの物語の最新エピソードです。楽しんでいただけたら嬉しいです。
警察庁の会議室には、重い沈黙が流れていた。
机の上には、いくつもの資料が並んでいる。
被害者の写真。
事件の報告書。
そして、まだ解けていない疑問。
キム・ヒヨンは資料を見つめていた。
そのとき、ドアが開いた。
部屋に入ってきたのは、数人の職員と――
一人の女性だった。
落ち着いた雰囲気。
整ったスーツ。
静かな威厳。
「内務大臣のチ・ウです」
部屋にいた刑事たちは、一斉に立ち上がった。
ヒヨンもすぐに姿勢を正した。
「お忙しい中、ありがとうございます」
チ・ウは穏やかにうなずいた。
「事件の進捗を確認しに来ました」
その声は落ち着いていたが、どこか鋭さも感じられた。
しばらく、事件の説明が続いた。
ヒヨンは現在までの調査内容を報告する。
だが――
決定的な進展は、まだない。
説明が終わると、ヒヨンは静かに頭を下げた。
「申し訳ありません」
部屋が静まり返る。
「まだ、確かな結論にたどり着いていません」
ヒヨンの声は低かった。
そのとき。
チ・ウが、ふっと微笑んだ。
「謝る必要はありません」
ヒヨンは顔を上げた。
「私は、努力している人間を責めるつもりはありません」
チ・ウは落ち着いた声で続けた。
「あなたがこの事件に真剣に向き合っていることは、よく分かります」
ヒヨンは少し驚いた表情を見せた。
「……ありがとうございます」
チ・ウは少し考えるようにしてから言った。
「もしよければ」
「今夜、うちで食事でもどうですか?」
ヒヨンは目を瞬かせた。
「少し休むことも大切です」
チ・ウは穏やかに言った。
「頭を休めると、新しい視点が見えることもあります」
ヒヨンは少し迷ったが、やがて小さくうなずいた。
「……ありがとうございます」
その夜。
ヒヨンはチ・ウの家を訪れていた。
落ち着いた住宅街にある家だった。
豪華ではない。
だが、静かで温かい雰囲気があった。
リビングに案内されると、一人の少年がいた。
十五歳くらい。
少し緊張したような顔をしている。
「息子のエジュンです」
チ・ウが紹介した。
「は、はじめまして」
エジュンは少しぎこちなく頭を下げた。
「キム・ヒヨンです」
ヒヨンも微笑んで会釈した。
食事の準備が進む中、エジュンは少し落ち着かない様子だった。
やがて彼は、ためらいながら母親に紙を見せた。
「……あの」
「今日、テストの結果が出て」
チ・ウは紙を受け取った。
そこには、あまり良くない点数が書かれていた。
エジュンは小さく言った。
「ちゃんと勉強したんだけど……」
声は、どこか申し訳なさそうだった。
ヒヨンは、無意識に息を止めた。
次に何が起きるのか、想像できたからだ。
だが。
チ・ウは静かに息子を見つめた。
そして――
そっと、エジュンを抱きしめた。
「大丈夫」
優しい声だった。
「気にする必要はないわ」
エジュンは驚いたように顔を上げた。
チ・ウは微笑んだ。
「私は知っているもの」
「あなたが一生懸命勉強していたこと」
彼女はゆっくりと言った。
「結果よりも、努力のほうが大事よ」
「努力できる人は、いつか必ず成長する」
エジュンは少し安心したようにうなずいた。
ヒヨンは、その光景を静かに見ていた。
厳しい母親。
政府の大臣。
そんな印象を持っていた。
だが――
目の前にいるのは、ただの母親だった。
厳しさと、優しさを同時に持つ母親。
ヒヨンはふと、自分の過去を思い出した。
子供の頃。
試験で失敗したとき。
母親は、いつも結果だけを見ていた。
努力を聞かれることは、ほとんどなかった。
ヒヨンは小さく息を吐いた。
(こんな母親だったら……)
心の中で、静かに思った。
(よかったのに)
テーブルの上には、温かい料理が並んでいた。
笑い声も、少しずつ増えていく。
その夜だけは。
事件の重さが、少しだけ遠くに感じられた。
このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。




