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人間が恨みに満ちたエルフに変貌した経緯

これがこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。

大学の図書館。


 


午後の光が、静かに差し込んでいた。


 


人の気配はまばらで、空気はどこか重い。


 


キム・ヒヨンは入口をくぐると、迷いなくカウンターへ向かった。


 


そこには、一人の女性がいた。


 


落ち着いた雰囲気。


 


名札には——シン・ハリと書かれている。


 


 


「すみません」


 


ヒヨンが声をかける。


 


ハリは顔を上げ、穏やかに微笑んだ。


 


「はい、どうしましたか?」


 


 


ヒヨンは一枚の古びた論文を取り出した。


 


 


「この論文を書いた人を知っていますか?」


 


 


ハリの視線が、紙へと落ちる。


 


 


そして——


 


その表情が、わずかに曇った。


 


 


「……ええ」


 


 


小さく、うなずく。


 


 


「知っています」


 


 


短い沈黙。


 


 


ハリはゆっくりと口を開いた。


 


 


「とても……悲しい話です」


 


 


ヒヨンは黙って聞く。


 


 


「ソ・ジュンは、優秀な学生でした」


 


「将来を期待されていた、いわゆる“天才”です」


 


 


ハリの声は静かだった。


 


 


「でも——ある出来事が、すべてを変えました」


 


 


ヒヨンの指先が、わずかに動く。


 


 


「彼には、幼い頃からの親友がいました」


 


「ずっと一緒に育ってきた、大切な存在です」


 


 


一拍。


 


 


「その友人が……自殺したんです」


 


 


図書館の空気が、さらに重くなる。


 


 


「原因は、受験です」


 


 


「スヌン——大学入試」


 


 


「過度な競争とプレッシャーに、耐えられなかった」


 


 


ヒヨンは目を伏せた。


 


 


ハリは続ける。


 


 


「その後、ソ・ジュンは論文を書きました」


 


 


ヒヨンが手にしている、それ。


 


 


「超競争社会におけるストレスの深刻性」


 


 


「彼は、本気で社会を変えようとしていました」


 


 


声が少しだけ震える。


 


 


「でも——」


 


 


その一言で、すべてが伝わる。


 


 


「大学の教授たちは、その論文を否定しました」


 



 


 


ハリは苦く笑った。


 


 


「都合が悪かったんです」


 


 


「だから彼らは、ソ・ジュンを排除した」


 


 


ヒヨンは顔を上げた。


 


 


「……排除?」


 


 


ハリはうなずく。


 


 


「論文を却下しただけじゃない」


 


「評価を下げ、噂を流し、彼を孤立させた」


 


 


「そして——最終的に、退学に追い込みました」


 


 


沈黙。


 


 


「……ご両親は?」


 


ヒヨンが静かに尋ねる。


 


 


ハリの表情がさらに暗くなる。


 


 


「味方にはなりませんでした」


 


 


短い言葉。


 


 


「むしろ……失望していたようです」


 


 


ヒヨンは何も言わなかった。


 


 


本の匂い。


 


 


静寂。


 


 


「彼は、すべてを失いました」


 


 


ハリはゆっくりと言った。


 


 


「友人も」


 


「未来も」


 


「居場所も」


 


 


ヒヨンの手の中の論文が、わずかに重く感じられた。


 


 


そのとき。


 


 


ハリがふと顔を上げた。


 


 


「……あの」


 


 


ヒヨンを見る。


 


 


「何かあったんですか?」


 


 


ヒヨンは視線を返す。


 


 


「どういう意味ですか?」


 


 


ハリは少し迷ってから言った。


 


 


「実は——」


 


 


「昨日も、同じことを聞かれたんです」


 


 


ヒヨンの心臓が、わずかに強く打つ。


 


 


「……誰に?」


 


 


ハリは思い出すように目を細めた。


 


 


「若い子でした」


 


 


「十五歳くらい……だったと思います」


 


 


ヒヨンの呼吸が止まりかける。


 


 


「この論文を見せてきて」


 


「同じように、ソ・ジュンのことを——」


 


 


言葉が、途中で止まる。


 


 


ヒヨンはすでに理解していた。


 


 


(エジュン……)


 


 


ハリは少し不安そうに言った。


 


 


「何か……問題が起きているんですか?」


 


 


ヒヨンは答えなかった。


 


 


ただ、論文を強く握りしめた。


 


 


すべての点が、つながり始めている。


 


 


遅すぎたピース。


 


 


そして——


 


 


もう、引き返せないところまで来ていた。

このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。

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