#19 僕の雨は君のせいで降る
「——えっ、常盤サン休みなん?」
翌日、寒さに凍えながら何とか辿り着いた教室。
普通なら冬休みなのだが、今日は登校日である。……登校日の必要性を全く感じないのだが。
まぁそんなことは置いといて、今僕は田所の質問に内心焦っている。
言うべきか、言わないべきか。十秒位頭をフル回転させたところで、
「……ちょっと、あんまり体調が良くないらしくて」
言わないことにした。まぁ嘘は言っていない。
突然胸押さえて苦しんで倒れて今昏睡中=病気=体調は良くない。うん、嘘じゃない。
「えっ、よすちん体調悪いの?」
……よす、ちん?
咄嗟に振り向くと、そこには飯野爽、根元椎奈、岸井木香の三人衆がいた。
「え、あ、うん……」
「えーっ、大丈夫かなぁ」
「え、よすちん風邪?」
「え、えっと……それは、そこまでは僕も知らない」
とりあえず答えたは答えたが、呼び方が気になりすぎて話が耳から耳へと抜けて行く。
「ねぇ、お見舞い行きたいよねー」
「だね! 皇君、よすちんお見舞い行っていいかな?」
「それは駄目!」
思わず大きな声を出してしまい、無数の目がこちらを向く。う、と首を竦め、声を潜めてもう一度「それは、駄目だよ」と言った。
「僕も無理、だったから。移したら駄目だからって」
「う……そっかぁ……駄目かぁ……」
「あ……でも、手紙とかなら、」
「「「手紙?」」」
「……う、うん……」
予想以上に反応されたので、僕は目を白黒させながら頷く。
「「「……手紙……」」」
もう一度声を揃えてから、飯野さんたちは顔を見合わせ、
「「「書きたいっ!」」」
と言った。僕はふっと微かに笑みを零し、頷いた。
そして、全ての授業が終わった昼。今日は登校日なので、午前中で終わりである。やっぱり登校日いらないと思う。
ホームルームも終え、帰ろうと荷物をまとめていた時、飯野さんたちが来た。彼女たちはすっと可愛らしくもシンプルでお洒落な手紙を渡して来た。
「これっ、よすちんにお願い!」
僕はうん、と頷き、「了解」と笑った。
「えぇと、薄い水色で海のモチーフの手紙が飯野さん。紫色でお花のモチーフの手紙が根元さん。薄い黄色でレモンのモチーフの手紙が岸井さん……」
もう一度しっかりと、よすがの友人からの手紙を見る。三人に「皇君読んで確認しといてー!」と頼まれたのだ。
その手紙には純粋な心配と元気になってという激励の言葉が紡がれていた。三人には言っても良かったんじゃ、という懸念が頭を過ったが、これで良かったんだ、と振り払う。そして、よすがの病室に入った。
まだよすがは目を開けない。静かに、ずっと眠っている。
本当はよすがは起きていて、僕にドッキリを仕掛けているのではないか——そういう考えが頭の中に浮かんだこともある。
飯野さんたちから貰った手紙を丁寧に置き、よすがの傍に椅子を動かし座る。
「……よすが、」
すぅ、と指をよすがの白くて滑らかな頬に滑らせる。僕は顔を歪め呟いた。
「……起きてよ……、本当は起きてるんでしょ? 目開けてよ……」
そう言った途端、突如よすがの頬にぽつっと水滴が落ちた。え、雨? と驚いたが、知らぬ間に自分の頬にも水が伝るのを感じ、納得した。なるほど、雨だ。
涙は雨だ。
人が作り出し、人から出る雨。小雨なこともあれば、豪雨なこともある。自分では止められない、人工なのに天然な雨——
自然に流れ落ちる自分が作り出した雨を見ながら、僕は街に黄昏の光が落ちるまでよすがをじっと、ずっと見つめていた。
——僕が君の「よすが」になるから、だからどうか目を覚まして。
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