#18 よすがの「よすが」
「ただいまー」
姫が帰ってきた。
「お帰り。楽しかった?」
「うんっ! あ、これ戦利品」
「そっか、……え? 何か戦ったの?」
「えーと、何だっけあのその……ひ……ひゆ! 比喩だよ」
「そっか、戦ってはないんだ」
「うん、安心してよお兄ちゃん。安心安全なクリパだったよ」
「そっか、良かった」
「ねぇあのさ何か先刻からお兄ちゃんそっかばっか言ってね?」
「そっか、え?」
今姫が何か言ってるな。
ぼーっとしていると、姫がずいっと僕の顔を覗き込んだ。
「ぅわ、」
「ねーお兄ちゃんさ、先刻から何かおかしくない? ……よすがちゃんと何かあったの?」
その姫の純真無垢な宝石のような綺麗な瞳が眩しくて、思わず目を逸らしてしまう。
「……お兄ちゃん……?」
しかし、妹にも言って置かなきゃならないよなと思い直し、腹を括り言うことに決める。
「姫。よすがなんだけど、デート中に——」
「……え、」
話し終えると、姫は愕然と目を見開いた。「よすが、ちゃんが……死ぬ……?」
「……姫。でもね、絶対死ぬって決まった訳じゃない。可能性があるだけで……」
「でも、死んじゃうかもしれないんでしょ⁉」
「……姫」
僕は姫のその言葉に、視線を地面に落とす。
それは、そうだ。
僕だって先刻、病院の待合室で絶望したばっかりだ。
——でも、家に帰ってから。思い出したんだよ。
——よすがの、言葉を。
「ねぇ、姫。これは、デート中のことなんだけどね——」
「ねぇ王、王ってさ、自分の名前の由来知ってる?」
「……。知らない。でも皇王……王様なんて重いって思ったことはある」
「あはは、だよね。私も知らないの」
「え、……知らないの?」
あはは、とよすがは雪の上に咲いた奇跡の花みたいに笑う。いつものポニーテールが揺られ、さらりと音を立てた。
「知らないんだー。でも、よすがっていう言葉調べてみたんだよね。よすがって、『頼りとする人』のことを言うんだって」
「……へぇ」
「私ね、それ知った時真っ先に思ったんだ。——私、王の『よすが』になりたいって」
「えっ」
よすがは、はらりはらりと舞う雪の花びらの中、ふわりと柔らかく微笑んだ。
「——よすがは、僕の『よすが』になろうとしてくれて、実際充分すぎる程なってる。だから——僕も、思った。僕はよすがの『よすが』になりたいって。よすがが目覚めた時、この人とずっと一緒にいたいって、頼りたいって思われるような人になりたいって」
「……」
「だからね、姫」
ぴくりと姫が顔を上げる。それに僕は微笑んで、姫に言った。
「姫もさ、僕と一緒によすがの『よすが』になろうよ」
「……えっ?」
「頼りになる人が二人もいたら、よすがだって安心するでしょ?」
そう言うと、姫はぱっと花が開くように顔を上げた。その瞳はキラキラと煌めいていた。
「うんっ!」
その返事に僕はニッと笑い、姫もニッと笑い返した。
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