#12 姫の誕生日
「うぅ~……つい最近までは暑かったのに、直ぐ寒くなるぅ……くしゅんっ!」
「大丈夫?」
嚏をしたよすがに、僕はティッシュを渡した。よすがは、それを「有難う~」とお礼を言いながら受け取り、洟をかんだ。
「あぁ……寒いぃ~……」
「……もう……寒いって言ってると余計に寒くなるから、暖かいって言った方がいいんだよ?」
「うぅ……だって寒いんだもん……って、飯野さんじゃん! それに、根元さんも、岸井さんまで!」
「え、あ、常盤さん⁉」
「皇君もいるじゃん……」
クラスメイトの飯野爽、根元椎奈、岸井木香の三人に出会ったので、よすががよくもまあそんなに舌が回るなと思うほどにペラペラ喋りまくっている。
……はぁ、笑顔なのはいいんだけど、人の迷惑も考えてよ……。
「……よすが」
「あ、王! どした?」
よすがは、僕の問いかけに素で不思議そうにこてん、と首を傾げる。
「え……っ、もしかして二人カレカノ⁉」
「『王』と『よすが』だってぇ、ラブラブじゃん~♡」
「お幸せにねっ、常盤さん、皇君~♡」
三人とも別に気づかなくて良いものに気づいていた。
そんな四人にはぁ、と溜め息を吐いてから、僕はよすがに言う。
「よすが、寒いんだしこんな外に立ち止まってたら危ないよ? 僕たちだって急いでるんだし、飯野さんたちに悪いでしょ」
「はぁ~い」
唇をぴゅっと尖らせ、そうよすがが返事する。ちゃんと反省していると分かっているので、咎めたりはしない。そんなことより、よすがのその顔可愛い。
「じゃあ行こっか、よすが。飯野さん、根元さん、岸井さん、また学校で」
僕は三人にお辞儀し、よすがの手を引いて歩き出した。
「わっ、ねぇ見て王! これ可愛い~!」
「あのねよすが、これは遊びに来たんじゃないからね」
「ふぁ~い」
ここは、あるショッピングモールの一角。何故ショッピングモールに来ているのかと言うと。
「でも私、姫ちゃんの好みなんか知らないよ」
そう、王の妹、皇姫ちゃんの誕生日が今日だから、そのプレゼントを買いに来てるの。
「大丈夫。ほら、これに姫の好みと嫌いな奴書いて来たから」
うっわ頼もしすぎだわ私の彼氏。
「すっごぉ……有難、王!」
「うん」
そして、私はプレゼント探しを始めた。
「えっとぉ……姫ちゃんは、ミニオンのボブとティムや、インサイド・ヘッドのリンボー、トトロの『まっくろくろすけ』が大好き……まっくろくろすけって何ぞ?」
姫ちゃんは、私が王の家に行った時、口合戦をした因縁の相手だ。が……何とも変……えーと、マイナーなキャラが好きなんですね。
「あ……ふふんっ、いいの見つけたぁ♪」
そして私は、ある物を見つけ、レジに行った。
んー……。
「全然見つかんないな……。本当、兄の僕から見ても変な趣味だと思うよ」
深く溜め息を吐きながら、僕はそう独り言ちる。
「えぇっと、ミニオンのボブ&ティム、インサイド・ヘッドのリンボー、トトロのまっくろくろすけ……うーん、自分で書いた物なのにキャラが全く分からん。ボブは分かるけど……ティムとは。ヨロコビは分かる。辛うじて。ヨロコビだったら分かるのに……リンボ―とは? そして一番謎なのがまっくろくろすけ。トトロとかメイとかサツキだったら分かるのに……っ。モブキャラ中のモブキャラじゃないかっ」
そう、一人姫に向かって愚痴を零す僕。傍から見れば立派な危ない人だと思う。
「うぅ~ん、……あれ? これ……確か、姫が好きって言ってた……うわ、書くの忘れてた……けど、まぁこれで被ることはないし。まぁいっか」
そして僕は、ある物を見つけ、レジに行った。
「ん~、まだかな王……」
私は、一足先にプレゼントを買い、王を待っていた。
「あっ、王~!」
王を見つけたので大声を上げ……たが、人々の視線が集まり肩を窄める。……うぅ……。
「よすが声大きいよ……っ、こっちまで恥ずかしい……」
向かってきた王も、首を竦める。あ、肩じゃなく首ね。窄めるじゃなく竦めるね。どうでもいいけど。
「王、王は何買ったの?」
「僕? 僕は……っと。これ」
王が出したのは、千と千尋の神隠しの青蛙だった。……は?
「えっ、え、ねぇ王? いや、何で青蛙? リストには載ってなかったけど……?」
そう私が問うと、王はさらっと爆弾発言をした。
「あぁ……それはごめん。リストに書くの忘れてて、選んでるときに思い出したんだよね。まぁ絶対被らないだろうしって思ってさ」
「ぅ……まぁ、それはまぁ……そう、だけど……」
うぅ、言い負かされてしまった……。別に勝負してないけど。
「んじゃ、家行って姫の誕生日パーティーしよっか」
私は、王の言葉にこくりと頷き、王の後をついて行った。
「あ、お兄ちゃん。お帰りー」
「うん、ただいま」
「お邪魔しまぁーす。姫ちゃんこんちは~」
「こ……こん、ちわ? って、何で常盤さんがいるの⁉」
「よすがでいいよ~」
「え、よすが、ちゃん? ……違うっ、何でいるのって聞いてるの!」
「ふふ……姫、誕生日おめでとう」
「えへ、有難……じゃなくて‼」
姫がむきーっと地団駄を踏む。僕とよすがは、笑いながら「ごめんごめん」と姫に謝った。
ちなみに母さんは今日も仕事で忙しく、来られない。我が家の大黒柱は母さんである。
「ちょっと待っててね姫。何か飾っといて」
「え、え? 飾り、って……」
姫の困惑したような声に、僕とよすがはニッと笑みを浮かべ、「決まってるじゃん。姫 (ちゃん)の誕生日パーティーだよ」と言った。
「はい、姫が食べたがってた手巻き寿司」
「「わぁ~っ!」」
「美味しそう……滅茶苦茶美味しそうだよ、お兄ちゃん‼」
「でしょ?」
興奮する姫に、僕はエプロンを外しながら微笑む。そして、誕生日席の姫を囲むように、よすがと座った。
「では! 姫ちゃんの誕生日を祝って!」
「「おめでとう(~!)」」
「有難うっ!」
僕たちは三人でバースデーソングを歌い、姫が蝋燭の火を消した。
「んっ、美味しい! お兄ちゃん、これ美味しいよ!」
「ふふ、良かった」
そして、一通り食べ終え、ケーキも食べ終わった頃。
「……プレゼント。渡すよよすが」
「う、うん」
僕はよすがに声を掛け、姫にも声を掛けた。
「姫」
「ん? なぁに?」
「ふふ、プレゼント」
「……え? あっ……青蛙のキーホルダー⁉ キャーッ、可愛い、めっちゃ嬉しい! 有難うっ、お兄ちゃん!」
……青蛙って可愛いか……?
「んで、私からも!」
「わぁっ……『ジブリとディズニー奇跡の合体! モブキャラ大集合!』(実際にあるかどうかは知りません)……⁉ モブキャラって言われてるのは何かあれだけど、わたしが好きなキャラがいっぱい……! 本当に有難うっ、よすがちゃん、お兄ちゃん!」
「「どういたしまして」」
無邪気に喜んでいる姫を見て、僕たちの頬が緩む。
しかし、次によすがが放った爆弾発言で、瞬く間に引き締まった。
「そう言えば、王と姫ちゃんのお父さんって……」
「「……っ……」」
「えっ、あっ……ご、ごめん、不躾なこと、聞いちゃった……よ、ね」
「……」
僕は、よすがの発言を受け、姫にアイコンタクトを送る。
『父さんのこと、喋っていい?』
『……いいよ』
『有難う。もしかしたら姫にとって辛い話かもしれないから、辛いと思ったら無理せず言ってね』
『うん。分かった』
「あ、あの……の、ん? ひ、ひめ、ちゃん?」
「……よすが。うん、彼女、だもんね。僕のこと、いっぱい知って貰った方が、いい……よ、ね」
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