第四章前編 第22話
雅を抱いて出口を駆け抜けた夏輝。目の前には夕暮れ空と大きな門があった。
「おわっ……た……?」
夏輝の腕の中で雅が尋ねる。夏輝は首を振りながら答えた。
「まだだ」
夏輝は雅を降ろすと告げる。
「この門から出るまでがゲームだ」
夏輝は門に手をかけると雅に言う。
「行こうぜ。俺達は退院したって教えてやろう」
「うん!」
雅は夏輝の手に自分の手を重ねると同時に門を開き、外に出る。その瞬間、アナウンスが響いた。
「おめでとうございます!戦慄病棟!最初の退院患者が出ました!」
周りを見ればスタッフ全員が拍手していた。
「おぉ……!やったな!」
「うん……!」
「お2人!こちらへどうぞ!」
スタッフに呼ばれるまま着いていくと、そこには"祝!退院!"と書かれたプレートと共に戦慄病棟の全キャストがいた。
マッド・ドクター役のキャストが夏輝に話しかける。おそらく海外のスタントマンなのだろう。片言の日本語であった。夏輝はガッチリと握手しながら英語で答える。
「アナタ、トッテモハヤカッタです。ワタシ、オイツケナクテ、アセリました」
『それは嬉しい言葉だ。俺もアンタの様な素晴らしい役者に追われたことを光栄に思うよ』
「ねぇ……使う言語逆じゃない?」
雅の言葉でクスクスと笑いが起きる。夏輝とスタントマンも思わずニヤリと笑う。続けて出てきたのは三姉妹ナースだった。暗闇でよく見えなかったが3人ともかなり際どい格好であった。極端なミニスカートのナース服に踵の高いヒール。頭にはナースキャップを被っており、顔は包帯で巻かれていた。もちろん血塗れであった。
それぞれ頭の包帯を外すと告げる。
「いや〜……まさか私と鉢合わせしても声すらあげないとは……見上げた胆力よねぇ」
「そうですね……私も冷凍庫で驚かす度に出てくる位置がバレているとは思いませんでした……こちらが驚かしているはずだったんですけどね……毎回、キミが女の子を庇って立ってるからこっちが驚いちゃった」
「私も渾身のジャンプスケアのはずだったのに……"ビックリした"の一言で済まされた時は……流石に心にキタわね……」
それを聞いた夏輝は申し訳なさそうに3人に告げた。
「えっと……なんかスイマセンでした……」
「あぁ〜!ムカつくぅ〜!この気ぃ使われる感じ!次!覚悟しておきなさいよ!」
「まぁまぁ……姉さん……」
「落ち着いて……」
「え!?本当に姉妹だったんですか!?」
「そりゃ、背格好も動きも似てる訳だわ……肩のギリシャ数字なかったら分身してるって勘違いしてもおかしくねぇもんな……さすがプロ……」
「ふっふ〜ん!恐れ入ったかしら!」
三姉妹の長女が胸を張って得意げにそう告げる。夏輝はついでに気になることを聞いてみた。その疑問に答えたのは次女と三女だった。
「そういえば、セクション1の時、照明の点滅に合わせて消えてましたけど……アレってどうやってたんですか?」
「あぁ。アレはね、全部別のナースなの」
「別のナース……?ですか?」
「そうです。まず1番上の姉さんが現れて。照明が消えると同時に裏に戻るんです。それから次の点灯で2番目の姉さんが、別の場所に現れる。また照明が消えると同時に裏に戻って……最後に1番近くにいた私が驚かすという寸法です」
「へぇ〜……」
「あの一瞬でそんな複雑なことやってたのか……一瞬の暗転で現れる場所を変える……仕事でも使えるかもな……」
考え込む夏輝と感心する雅の元にカメラを持ったスタッフが来る。
「初制覇者としてお写真を撮ってもいいですか?」
「だってよ」
「いいじゃない。撮りましょう?」
「だな」
2人は"祝!退院患者第一号!"と書かれたプレート共に写真を撮る。その時の2人の顔は満面の笑みだった。
「ありがとうございます!じゃあ最後は皆さんで撮りましょう!集まってくださ〜い!」
夏輝と雅を中心とし、周りにスタッフやキャストが集まる。カメラマンは全体を見ながら告げる。
「全体的にもう少し詰めてくださ〜い!うう〜ん……真ん中の2人かなぁ……彼女さ〜ん!もっとくっついてください!」
「えっ……!?」
「ほ〜ら!もっと寄って寄って!」
戸惑う雅をナース長女が押す。思わずバランスを崩した雅を夏輝は受け止めると抱き寄せる。
「おっと……これで大丈夫だろ」
「あ……ありがとう……」
「これなら大丈夫ですね!撮りますね〜!3、2、1。祝!」
「「「退院〜!」」」
その言葉と共にシャッターが切られる。
「ありがとうございます!後日、公式のSNSに載せても構いませんか?」
「大丈夫です」
「ちなみに感想は?」
「嬉しいです。隣にいた彼女のおかげで頑張れました」
「彼女さんは?」
「えっ!?えっと……守ってくれたので安心感がありました……クリアできたのは凄く嬉しい……です」
心なしか顔が赤い雅。夏輝はそんな顔を見て何やら意味深な表情をするのだった。その時、夏輝の肩を叩く人物が。振り返ればドクター役のスタントマンがスマートフォンを持っていた。
「シャシン。OKデスカ?カゾクニミセタイデス」
「of course。もちろん」
「アリガトゴザイマス」
スタントマンは左腕で2人を引き寄せると、スマートフォンを右手で高く掲げ、セルフィーを撮る。それを見ていたナース三姉妹も来ると写真を撮りたいと言う。断る理由がないので次は6人で写真を撮る。それを見た広報担当が2人に言った。
「あの……図々しいお願いで申し訳ないのですが……お二人を宣伝写真のモデルにしたいのですが……」
「だってよ。どうする?」
「やろうよ」
「了解。大丈夫です」
「ありがとうございます!こちらへ!」
移動したのは最初のロータリー。既に陽が落ちている為、赤色灯がよく映える。広報担当はドクターを真ん中に。その後ろの3方向からナースを立たせる。夏輝はドクターと対峙するように配置し、雅を夏輝の背後へ庇うように立たせた。カメラマンは夏輝達の後ろへ。ちょうど後ろ姿を撮るようだ。
「じゃあ、いくわよ。スタート!」
その一言で4人の雰囲気が変わる。ドクターは棍棒を振り上げ、ナースは糸鋸を手に迫る。外なのにあの時の恐怖が湧き上がってくる。そんな空気をビリビリ感じながら夏輝は思う。
(流石プロ……雰囲気が違う……!)
後ろでは何度かシャッターを切る音が鳴る。やがて満足したのか終了の声がかかると、先ほどまでのプレッシャーは霧散した。
「ありがとうございました。こちら記念品です。それから最高心拍数を記録したカードもこちらになります」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
受け取ったのは2枚のハガキサイズのカード。一枚には退院者番号と自身の名前が書かれていた。もう一枚の最高心拍数を記録したカードはそれぞれ違った。
夏輝の最高心拍数はグレネードランチャーを手に取り、芽衣に恐怖したシーン。
雅の最高心拍数は夏輝と2人、ロッカーに閉じこもったシーンであった。
「なんか……俺達2人とも違う要因で心拍数高けぇな……」
「あはは……そうだね……」
ロータリーで夏輝と雅は誰ともなく呟くのだった。この時の宣伝写真と退院報告の写真は後日SNSで大きくバズり、2人が夏休み明けに問い詰められるのはまた後日の話である。
ちなみに、こんな雰囲気を出しているが2人にはまだ大きな難問が残っている。ダブルベッドによる"寝床どうするか"問題が……




