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第四章前編 第21話

「こうしてみると……やっぱアイツの見た目……異常だわ……特殊メイクもここまでくると芸術だな……」


 2人の視線の先には、遂に全貌を現したマッド・ドクターの姿。体長は2メートルほど。血塗れの白衣に棍棒、首からぶら下がる聴診器とIDカード。ツギハギだらけの手足に胸元の大きな傷。やや前傾の姿勢の筈なのに2人にはとてつもなく大きく見えた。常軌を逸した程に血走った目は確実に2人を捉えていた。ドクターの後ろからはヒールと笑い声が聞こえてくる。2人ができることは一つだけ。自分達の背後にある出口まで走ることだった。ドクターは一歩また一歩と近づいてくる。その時、スピーカーからノイズが鳴った後、アナウンスが流れた。


『ドクターの……院内回診の……お時間です……』


 そのアナウンスと共にドクターは2人目掛けて走ってくる。


「うおっ……ヤッベェ……デカブツだ……!雅!出口まで走るぞ!……雅?」


「うぅ………」


 見れば雅は腰が抜けたのかへたり込んでいた。夏輝はドクターと雅を交互に見ると、ため息を吐く。

 夏輝はタブレットとライトを雅に持たせると言う。

 

「しゃーねーな。文句は後で聞くぞ。ちゃんと捕まってろ!」


 その言葉と共に雅をお姫様抱っこすると全力で駆け出した。後ろからドクターが雄叫びをあげる。ストレッチャーを弾き飛ばし、棍棒で壁や床を叩き追ってくる。だが簡単に追いつかれる夏輝ではない。雅を抱えたまま、ポルターガイストの様に飛び出してくる障害物を避け、飛び越え、疾走する。お姫様抱っこというシチュエーションにより、夏輝の顔や息遣いに見惚れていた雅だが、手首につけたリストバンドの振動で我に返る。見れば残りの正気度は僅か10%程になっていた。


「どうして……!ここに来た時はまだ60%近くあったのに!」


「どうした!」


「正気度が異様な速さで減ってるの!このままじゃ間に合わない!」


「急ぐったって……前から次々と障害物が出てくるから……待てよ……」


 夏輝の脳内に入場した時のルールが思い浮かぶ。


 "足元を照らしながら走ってください。妨害はしません。そのまま出口に向かうように"


「コレか……!雅!足元照らせ!」


「えっ!?どういうこと!?」


「説明は後だ。早くしろ!」


 夏輝の言う通り足元を照らせば前方でポルターガイスト現象が起こることはなかった。更に正気度の異様な減りも鳴りを潜めた。


「思った通りだ。出口に向かって走る時はライトを足元に!リタイアのルールじゃなくて最終セクションの攻略方法だったんだ!」


「でも……!もう正気度がないよ!」


「クッソ……!気づくのが遅すぎた……!コレばっかりはどうにも……!」


 2人の正気度が0になったその瞬間。正気度が50まで回復した。突然なことに困惑する2人。そんな2人にタブレットから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


『ヒッヒッヒッ……取り引き成立だ……コインは貰っていくよ』


 雅がタブレットを見れば行商人から貰ったコインが割れて霧散するところだった。


「ライフが増えた……!サンキュー行商人!」


「これなら……!」


「あぁ……!行けるぞ!」


「ウガァァァァァ!タイイン……!ミトメナイ……!ビョウニン……!シンサツ……!」


 ドクターが吠える。


「あぁ……ダメ……!」

 

「行かないで……!私達の……」

 

「ドクターの……」

 

「「「"心臓"!」」」


 悲痛に泣き叫ぶ三姉妹ナース。

 そんな声を聞きながら夏輝は高らかに宣言する。


「じゃあな!テメェら!俺達は健康優良児だからな!"退院"させてもらうぜ!」


 夏輝は雅を抱えたまま出口のドアを蹴り開ける。

 かくして"最強の護衛"は"最恐のお化け屋敷"

を攻略した。


 夏輝VSセクション3

結果……夏輝 WIN!


 夏輝達が最終セクションを攻略している頃、とある部署が騒がしかった。その部署とは"戦慄病棟"の運営チーム。その日、彼らは微かな希望を抱いていた。開業から15年余り、世界一怖く、世界一高難易度なお化け屋敷として誕生したこのアトラクションはその名を欲しいままにしてきた。毎日、数多の人間が挑み、敗れ、逃げてきたこのアトラクションに今日は少し違う風が吹いていた。

 画面を見ていたシナリオ担当者が言う。

 

「この2人強いですね」

 

「あぁ、セクション3まで到達した者は数多くいたが、ここまでスムーズに進むペアは初めてだ」


 そう答えるのは運営主任。


 「男の子の観察眼や判断力が凄いです。1発で本物か偽物かを見抜いていますし、ずっと女の子を気にかけています」


 また別の女性が言う。

 

「それにペアの女の子が怖がりながらもフォローしているのはかなりグッとくるわね」

 

「最終局面に到達したみたいだ。後は出口まで走るだけだぞ……!」

 

「あぁ!女の子が……」

 

「おいおい……どうするんだ……まさか置いていくのか?」

 

「いや……この男の子担いで走るつもりだ……!」

 

「いけぇー!抱けぇー!」


 夏輝が雅を抱き上げた時には女性陣の黄色い歓声が飛び交った。

 

「後はギミックに気づくかですね……!」

 

「あぁ、最後の廊下は特殊環境だ。ライトで照らし続けないと正気度が1.5倍で下がり続ける。ここであえなくリタイアした者を何度も見た」


 ギミック担当者が唸る。

 

「頼む……!気づいてくれ……!」


 運営チームはクリアされることを望んでいた。この難攻不落の病院を突破してくれる患者を。

 

「気づきましたよ!ほら!女の子が照らしてます!」

 

「よしよしよし!そのまま行け!」


「でも正気度が!このままでは……!」


「クソ!やはり無理なのか!?」


 その時、正気度をモニターしていた職員が叫んだ。


「主任!正気度が回復しました!」


「なんだと!?」


「おそらく隠しアイテムの"行商人のコイン"が発動したと思われます!」


「これなら行けるぞ!行けぇー!走れぇー!」


 職員の応援が届いたかの様に加速する2人。夏輝が高らかに宣言した後、2人が出口を駆け抜ける。だが……

 

「まだだ……門を開き脱出するところまでがゲームなんだ……!気付け……!」


 運営主任が呟く。ある職員は両手を合わせて祈っていた。すると画面内に映る夏輝は雅を降ろし、少し話すと顔を見合わせる。そして……2人一緒に門を押し開き脱出した。

 その瞬間、運営チームは割れんばかりの大歓声をあげ、抱き合った。

 今日ここに初めての"退院者"が誕生した。

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