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第四章前編 第20話

調剤を終え、追跡者から隠れながら移動すること幾星霜……2人は手記にあった栽培室に到着した。夏輝達がいるのはプラント管理室の様で正面の巨大なガラスの向こうには植物が生い茂っていた。


 「ここが栽培室……ここをぶっちぎらなきゃならんのか……」

 

 「あ、夏輝君……アレ……」


 雅が指差す先には端末があった。2人で端末を覗き込む。少し操作するとまたもとある研究員の記録があった。

 

『実験プラントが暴走した!育成スピードが異常だ!枯死薬を撒かないと!しかも種子を"人間"に植え付け始めた!ここはもうダメだ!一刻も早く逃げなければ……全員"果実"にされてしまう!』


 雅は先程、女性から託された枯死薬をタブレットに表示する。

 

「コレだな……!」


 タブレットを端末と同期させ、アイテム欄から枯死薬を選択。するとアナウンスが鳴った。

 

『現在強力な薬物を散布中……散布完了。プラントの枯死を確認しました』


「これで進めるな」


「うん……でも、今の音でバレたよね……」


「たぶんな……」

 

耳をすませばヒールの音と甲高い笑い声、それからドクターと思しき重い足音が一斉に近づいていた。

 

「マズイな……急ごう」

 

「うん」


 2人は栽培室の中に飛び込むと、金庫のある部屋を目指して移動する。2人は部屋に入るとすぐさまダイヤル式の金庫を見つけた。


「コレか……!クッソ……暗証番号がわかんねぇ……」


「暗証番号……患者……カルテ……もしかして!」


 雅は先程、女性が調合配列を書き記したカルテを取り出す。


「さっきの女の人が言ってた!"このカルテは情報を隠した医師の筆頭患者"だって」


「なら……このカルテの番号が鍵か!」


「たぶん」


「正気度消費0の賑やかしアイテムだと思っていたが……コイツが1番重要だったとはな……」


 ダイヤル式金庫を開けると中にはフロッピーディスクが入っていた。おそらくクラウド上に保存するとデータを破壊される恐れがあったからだろう。ディスクを回収し、後はゴールへ駆け抜けるだけと思った2人に無慈悲なヒールの音が差し迫っていた。

 タブレットを見れば、モーションセンサーは今までで1番大きく染まっていた。


「マズい……3人同時に来てる……」


「ウソ……」


「ここから出ると鉢合わせだ。隠れるぞ」


「隠れるったってどこに!」


 2人で部屋を見回すが隠れられそうな場所は少ない。


 (机の裏……ダメだ。すぐにバレる。トイレかシャワールームなら……いや、外が見えないのはキツい。なら後は……コレしかあるまい!)


 その時、夏輝の目に止まったのはロッカー。2人で密着すればなんとか入れそうだ。夏輝は雅の手を取ると一目散にロッカーに閉じこもった。ロッカーを閉じたと同時に部屋のドアが開く。やはり3人とも来ていたようだ。部屋をウロウロと徘徊する。1人のナースがこちらに近づくと通気用の穴から覗き込む。2人は思わず息を飲んだ。


「ね……ねぇ……夏輝君……」


「静かに……話すとバレる……ニアミスだったな……」


 冷静に外を伺う夏輝とは裏腹に雅の内心は大騒ぎであった。ロッカー、密室、ゼロ距離。心臓はうるさく、夏輝にバレていないかヒヤヒヤであった。見上げると不意に夏輝と目が合った。顔が熱くなるのを感じる。それを隠すように雅は夏輝に抱きつくと、顔を胸に埋め、隠してしまった。ちなみに雅はこの日の最高心拍数を記録した。

 やがてナース達はお目当てのものがなかったのか部屋を去る。ドアが閉まり、モーションセンサーによる感知が消えたのを確認すると、ゆっくりとロッカーから出る。


「危なかったな……流石に覗かれた時は終わったと思った……」


「………」


「雅、行こう。雅?」


「え!?あっ!うん!行こっか!」


「……大丈夫か?」


「あはは……大丈夫大丈夫……」


「ならいいが……」


 夏輝は雅の手を取ると栽培室を後にする。栽培室を抜けた2人はあるモノを見つける。

 

「これって……?」

 

「グレネードランチャーだ。なんでこんなのが」


 ランチャーの近くには紙が落ちており、夏輝が拾い上げて読み上げた。


「手遅れだ。皆"果実"にされた。無限に増えるヤツらを倒す方法は1つだけ。"燃やせ。何もかも灰になるまで"……か……」


 裏面にはランチャーの使い方が書いてあった。ターゲットに照準を合わせてトリガーを引く。上手く当たれば燃焼音と共に相手が崩れ落ちるらしい。

 

「そういうことか……この先出てくる植物人間を燃やすのか……アトラクションとはいえ人をこの手で殺めたのボスが知れば……想像したくねぇな……」


 夏輝はこの戦慄病棟で初めて恐怖による身震いをした。尚、恐怖の対象はアトラクションではなく芽衣であったが。

 夏輝はランチャーを肩にかけ、雅に言う。

 

「ランチャーの残弾は10。10発で切り抜けなければならない」

 

「ドクターやナースにも効くと思う?」

 

「たぶん無理。弾が足りねぇ。でも……行くしかない」

 

「うん。行こう」


 夏輝と雅は手を繋いだまま進む。廊下の天井、壁、ドアなどあらゆる場所に蔦が生い茂っていた。目の前に倒れていた人型の"ナニか"がうめき声をあげゆっくりと起き上がる。思わず夏輝の服を強く握る雅。夏輝は雅を背後に庇うとランチャーを構え、照準を合わせトリガーを引いた。"ポンッ"というサウンドエフェクトの後、燃焼音。赤いライトで照らされた植物人間はその場で倒れた。


「普段の仕事の数倍は楽だな……行くぞ」


「うん」


 道中、敵はいない様なモノだった。普段から銃を使う夏輝が外すワケがない。前、横、後ろ、はたまた上から。全ての方向を捌き切る。しかも必ず雅を背にしてだ。

 

「ちょうど10発で全員倒せる様に計算されてるのか。外すと終わりだったな……」


 夏輝はランチャーを捨てると暗く長い廊下の先を見る。先には緑の文字で「EXIT」と書かれていた。

 

「もう少しだ。頑張ろうぜ」

 

「うん!」


 出口に進もうとした時、後ろからドアの開く音がする。見れば1人の男が血まみれで出てきた。

 

「生存者か!?た……助けてくれ!ヤツがすぐそこに……!俺も連れて……!ぐぁっ……!」


「マジかよ……」


「ひっ……!」


 セリフを全て言う前に男は倒れた。なぜならマッド・ドクターが男を殴り殺したからだ。マッド・ドクターは血が滴る棍棒を手に叩きながら2人を見ると叫ぶ。


「カンジャ……ミツケタ……!シンサツ……!ジッケン……!」


 かくして2人の最後の退院手続きが始まった。

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