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第四章前編 第19話

夏輝はマップ上を徘徊する赤い点を指差す。それとは別にマップの一部が赤くなった。


「おそらく、こっちのセンサーに引っかかってるのがナース……」


「他にも光ってるね……」


「全部で3人いるからな……ただ、コレでずっと気を張らなくて済む」


「"生存者へ"……何かあるかも……」


「見てみるか……」


 ファイルをタップすると伝言書のようなモノが現れる。雅はそれを読み上げる。


「"生存者へ……コレを見ている頃、私はもういないだろう。私があのドクターと姉妹が行った愚かな医療行為の真実を書き綴った書類を私の部屋の金庫の中に隠してある。解除番号は私の患者のカルテ番号だ。ただ……私の部屋へ向かうには実験プラントをなんとかしなければ……栽培室の研究者を見つけろ。枯死剤の作り方を知っているはずだ……必ず試験薬用ボトルを持っていくように……全てを白日の元に晒し、悪夢を貴方の手で終わらせて欲しい……って」


「予想通りと言ったところか……アイテム屋にある一見今はいらないモノって後々、使う可能性が高いからな……とりあえず進もう。目下の目標は栽培実験室だ」


「わかった……」


 夏輝と雅は再び手を繋ぐと更衣室を後にする。暗闇の中を進む2人。角を曲がろうとした瞬間、夏輝の目線の先にはナースがいた。知らぬ間に移動していたようだ。


「ヤベッ……!」


「どうしたの……?キャッ!」


「シッ……!静かに……!予想以上に動きが早い……!」


 夏輝は雅の口を抑え、壁に張り付く。ヒールの音は段々と近づいてくる。そして曲がり角からナースが現れる。夏輝は息を殺し、雅はもはや泣きそうであった。万事休すか……そう思われたが何かおかしい。ナースは一向に動きを見せない。確実に目が合っているのにだ。どれだけの時が流れただろうか。突如、ナースの背後からカラスの鳴き声が聞こえた。ドクターかはたまた別のナースか、もしくは生存者か……少なくとも誰かが通ったことは確かであった。

 するとナースは急速反転。カラスの鳴き声がした方に歩いていく。ナースが消えたのを確認すると夏輝は雅の口から手を離した。


「こ……怖かった……」


「俺も今のは流石に終わったと思った……」


「どうして……襲ってこなかったんだろう……」


「説明は中でする。見ろ。栽培実験室だ。しかも青色。セーフゾーンだ」


 栽培実験室に入った夏輝は、雅に聞く。


「雅、ドクターの手紙と行商人の忠告を覚えているか?」


「手紙……」


「あぁ。ドクターの手紙にはこうあった"声に反応する"と……そして行商人は言った"音に気をつけろ"とここからわかることは……」


「ナースは目が見えない代わりに聴覚が発達している……!」


「その通りだ……動きの制限が大きくなるな……静かに動けば時間の消費が、大きく動けば見つかるリスクが。全く……よく考えられてるぜ……」


 実験室内の調合室へ入ると、そこには白衣を着た1人の女性がいた。2人に気づいた女性は向き合い告げる。だが彼女の腹には大きな血の痕が付いていた。どうやら何かに刺されたらしい。


「あ……貴方達は……?」


「探索者だ。生存者か?」


「さぁ……ウッ……!どうかしら……死に損ないよ」


「あ……あの!私達、枯死剤が欲しいんです」


「そう……枯死剤ならあるわ……でもタダで渡すことはできないの……私の夫を見つけて欲しい」


「旦那を?」


「えぇ」


 女性は椅子から立ち上がると壁に背をつけ座り込む。壁には血痕がベッタリと糸を引いていた。


「私の夫はこの病院を制圧する為に派遣された軍人なの……ハァハァ……最期にもう一度会いたいの……もし生きていなくても……彼の形見を……」


「………形見……」


 雅は道中の惨状を思い出す。血塗れの廊下、散乱した屍。徘徊するドクターとナース……軍人ということは銃を持っている。もちろん発砲すると音がする。ナースは音に敏感……そんな状況で発砲すれば……その先は考えたくなかった。

 対する夏輝は顎に手を当て考え込む。どこかで見たような顔である。どこだ……?どこで見た……?記憶の中を探るが思い出せそうで思い出せない。

 そんな夏輝を見る雅のズボンのポケットでナニかが"ジャラリ"と音を立てる。雅がポケットから取り出したのはドッグタグとロケットだった。それを見た夏輝は雅の手を掴むと言った。


「それだ」


「えっ……?」


「ロケットの中だ」


 雅が"カチリ"と血で汚れたロケットを開くと中にある女性の写真は鈍く光を反射していた。雅は女性の前に跪くとドッグタグとロケットを差し出した。


「行商人から購入しました……おそらく貴方の夫の物だと思います……」


「えっ……?」


「ドッグタグもロケットも血に汚れているが……おそらくアンタの旦那は最後までコイツを握ってたんだろうな……誰にも渡すつもりもなく……な」


「そう……先に逝ったのね……」


 女性はタグとロケットを胸の前で握ると咳き込みながら2人に告げる。


「調合配列を教えるから……書くモノをちょうだい……」


「はい……」


 女性にペンとカルテの裏面を渡すとスラスラと調合配列を書き上げていく。どうやら全てこの部屋にあるモノで作成できるらしい。書き上げた後、息も絶え絶えの女性が言った。


「貴方達……栽培室を抜けていくのね……このカルテ……情報を隠した医師の筆頭患者よ……覚えておきなさい……」


「わかった」


「ありがとうございます……」


「貴方に幸運を……」


 それだけ告げると女性は動かなくなった。しかし右手にはしっかりとタグとロケットが握りしめられていた。二度と失うことのないように……

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