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第四章前編 第16話

「なんとか終わったか……最初に比べると多少レベルは上がった感じするな。雅、とりあえず安全ゾーンだから少し休もう。それと……一回手離して……痺れる」

 

「ご……ごめんね」


 夏輝は解放された左手を動かしながら考え込む。


 (おかしい……アレだけナースや人体再構築のパーツを散りばめていた割には何もなかった……それに……ナースの言葉、アレが気になる。

 "あぁ……!我が愛しきドクターよ……!"

 今までの道中にドクターなんて出てこなかったぞ。しかも、今まで見てきたナースはおそらく同一個体じゃねぇ。

 ロビーでのI、冷凍庫でのII、オペ室でのIII。

肩のギリシャ数字が違う……おそらく三姉妹だな)


「夏輝君……?」


「ん……悪い……少し考え事してた……ほら」


 おずおずと夏輝が差し出した腕を抱え込む雅。僅かに頬に赤みが差していたが、今の環境じゃ夏輝にそんなところは見えなかった。


 「あの〜……」


 同じ組だった真面目そうな男性が声をかける。


 「はい」


 「申し訳ないんですが、我々はここまでみたいです。彼女が結構限界っぽくて」


「こっちもですね……正直、俺も限界です……」


 見れば、女性陣は2人ともかなりダメージを負っているようであった。

 

「あらま……それは仕方ないですよ」

 

「最後までお付き合いできず、すいません。制覇頑張ってください。応援しています」

 

「ありがとうございます」

 

夏輝と雅以外はリタイア出口から出ていった。

 

「さてと……最終関門だな。準備は?」

 

「だ……大丈夫……」


 雅は夏輝の腕にしがみつくとそう答える。

 かくして最も最恐と言われるセクション3

 "実験病棟"が幕をあけた。


 セクション3に入る前に2人は係員から止められる。フードを被り、いかにも怪しい風貌であった。

 

「ここから先はルールが変わります」

 

「ルール?」

 

「はい。この実験病棟は捜査の目から逃れる為入り組んだ設計となっております」

 

「迷宮タイプってことか」

 

「その通りでございます。そこでお二人にはこちらのタブレットとリストバンドを使用して攻略していただきます」

 

そう告げると係員は、一つのタブレットと二つのリストバンドを差し出す。


「このタブレットには、この病棟で起こった事件の証拠と地図が入っております。こちらを無事に出口までお持ちください」


「地図があるなら簡単かもな」


「こちらのリストバンドでは、お二人の心拍数を測らせていただきます。こちらは攻略には関係ありません。クリアした際の退院証明書にどの場面で1番心拍数が高かったからを測らせていただくモノです」


 係員はそれぞれ、夏輝の右手首と雅の左手首にリストバンドを装着した。画面にはハートマークの横に数字が書かれていた。


「それから探索においていくつか注意点がございます」


「注意点……ですか……?」


「はい。この病棟内には実験に取り憑かれた"マッド・ドクター"が徘徊しております。地図に表示される赤い点がそうです。彼に見つからない様にこの病棟から脱出し証拠を届けてください」


「さっきの"愛しきドクター"ってのはコイツのことか……」


「更に、お二人には正気度が設定されております」


「正気度?」


 2人がタブレットを覗き見るとそれぞれ名前の下にゲージと数字が書いてあった。現在のゲージは満タン。数字も100を表していた。

 

「はい。お二人の正気度が一定値を下回りますとドクターが"治療"の為に探知しやすくなります。正気度は時間経過と共に少しずつ減少します。その為、フィールド内のアイテムやセーフスポット、もしくは行商人からのアイテム購入で適宜回復を。制限時間は2時間です。制限時間を過ぎますと、スタッフがお迎えにあがりますのでその場で待機をお願いいたします。アイテムやスポットはタブレットに全て載っておりますゆえ。では、よろしくお願いいたします」


 2人がタブレットから顔を上げると係員は既にいなかった。

 

「マジか……どこに行ったんだ……気付かなかったぞ」

 

「!?!?」


 既に雅は半分パニックである。

 

「ここでビビってても何も変わらねぇ。行くしかないな」


 夏輝は強く雅の手を握ると告げる。

 

「覚悟しろよ戦慄病棟。必ず退院してやるからな!」


 ドアを潜り、実験病棟へ侵入した2人はタブレット片手に進んでゆく。もっぱらタブレットを見るのは夏輝、操作は雅となっていた。

 2人が曲がり角を曲がるとカラスのアニマトロニクスが鳴く。

 

「おぉ……ビックリした……リアルだな」

 

「夏輝君……タブレットを見て」


 見ればそこには注意点が書かれていた。

 

"カラスはプレイヤーやドクターが近くを通ると鳴き、居場所を知らせます。カラスの声に注意して!"

 

「つまり今ので俺達がこっちにいるってのがバレたのか」


 その証拠に赤い点がこちらに向かってくる。


「移動しよう」


「うん……」


 タブレットで地図を確認。すぐ近くにある仮眠室へ向かう。

 仮眠室へ向かうと入り口にパウチされた冊子があった。どうやら仮眠室の使用記録の様だった。

 

「どれどれ……?」


「仮眠室使用記録


Dr.A.U 0930in 1130out


Dr.Y.O 1200in 1400out


Dr.S.K 1500in


 使用記録を見た雅が青ざめた顔と震える声で聞く。


「ねぇ……これ……退出記録がないってことは……」

 

「中にいるぞ……たぶん……係員が言っていたアイテムをくれる行商人か既に狂った狂人か……はたまた既に死んだか……わからんが……本格的に怖ぇな」


 タブレットを見れば赤い点は先ほどよりも近づいている。

 

「迷っている暇はない。行くぞ」


 夏輝は雅の手を引き仮眠室の中に入っていった。

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