第四章前編 第15話
赤ちゃんを振り切り、全員が耳鼻科ゾーンから出たところでイヤホンを回収する。
「とりあえず過半数は終わったな。ただ残ってるのが内科と外科ってのがめっっっっちゃ嫌な予感する……どうする?リタイアするか?」
それを雅はフルフルと首を横に振る。ここまで来たのだ、何がなんでも制覇したいとの思いがあった。それに進めば進むほど夏輝とのこの時間が伸びると言う下心も多少はあった。
雅の目に覚悟を感じた夏輝は軽い口調で言った。
「そっかー……まぁ最初に制覇するって決めたしな。"怖がりな姫様"の為にもうひと頑張りしますか」
そう軽口を叩くと、夏輝達は次のゾーンである"内科"へ進む。今度は全体的に部屋が赤く照らされていた。診察室には内臓のホルマリン漬けや、人体模型などが置かれている。夏輝達が人体模型を通り過ぎると後ろで"カタリ"と小さな音がした。夏輝が後ろにライトを照らすが何も変わりはない。そもそも夏輝以外に聞こえていなかったようだ。
「な……何か……あったの……?」
「いや……なんでも」
「うぅ……どうして……夏輝君は平気なの……」
「人は一回死にかけると大抵の事は怖くなくなるからなぁ……霊より人の方が怖ぇよ」
夏輝は右手で雅の頭を優しく撫でると、他のペアと共に奥へと進んだ。後ろで人体模型の首が"ギギギ……"と動き、夏輝達の姿を捉えていることには気づかなかった……
進めば進むほどに濃く匂う血の香り。思わず他の参加者は顔を顰める。
「キツいな……この匂い……」
「鉄分には困ってなさそうですね」
「なんで貴方はそんなに肝が据わってるの……?」
次に見えたのはX状の台に縛られた男だった。その前には例の糸鋸を持ったナースが立っていた。男はアパレルが四股を拘束されている為に動けない。男はナースに向かって叫ぶ。
「クソ……っ!おい待て……やめろ……やめてくれ……!ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!」
「フフフ………キャーハハハハハハ!」
ナースは男の腹に糸鋸を当てると一気に捌く。男の腹からは臓物が流れ、口から血を吐き出した。ナースは臓物を持ち上げると男の返り血を浴びながらウットリとした表情で臓物を見つめていた。
「うぅ……気持ち悪い……」
「コレは……中々にキツいぞ……」
またしても他の参加者が惨状に対して口々に言う中、夏輝は呟く。
「内臓系はなぁ……下処理と生臭さが面倒なんだよなぁ……あんなの食いモンじゃねぇよ……」
ナースの目を盗み、6人は内科最後のゾーンである長い廊下に到達した。
「これ終わってもまだ外科あるんだよなぁ……それに……」
夏輝は後ろにライトを照らす。
「ずっとコイツが着いてきてるんだよな」
照らされた先にいたのは、人体模型であった。背後から着いてくる足音に気付いてはいたものの雅を怖がらせまいと言い出せなかったのだ。
曲がり角から顔を出した人体模型は"ギギギ……"と顔を夏輝達に向ける。その目は赤く光っていた。カクカクとした動きで夏輝達に正対するとスターティングポーズをとる。
「これは……そういうことだよな……」
人体模型はジリジリと距離を詰めてくる。夏輝達も走るほどではないが、早歩き程度のペースで進んでいく。
時折後ろを照らせば、自分達が通り過ぎたドアが開き続々と人体模型が出てきていた。しかも僅かに速度が上がっている。
「マジかよ……コイツら増殖型ぁ?」
「急げ!コイツら増えてるぞ!」
「ハァハァ……もう無理だってー!どんだけ走らせるのよー!」
「頑張れ!もうすぐだから!」
夏輝達は内科ゾーンを抜けると同時に"押せ"と書かれているボタンを押す。するとゲートが閉じ、内科ゾーンは隔離される。だが人体模型達はゲートを掴みガシャガシャと鳴らす。しばらくすると諦めたのか人体模型達は帰って行った。
「怖かったわね……」
「そうだね……」
「学校の怪談に出てくるのもあんな感じなんですかね」
「なんだか俺はココよりもキミの方が怖いよ」
「アタシも……」
一息ついた後、夏輝は誰ともなく告げた。
「次がセクション2のラスボスだな」
最後の難関、外科ゾーン。入る前からサウンドとはいえ悲鳴が聞こえるあたり格が違う様だ。雅を見れば最初と変わらずしがみつき、顔を埋めた状態であった。ただ、最初より多少は震えは治っているようであった。夏輝は頭を撫でてやると意気揚々と進む。
「討ち入りじゃー!」
こんな環境で元気なのは夏輝だけであった。
進んだ6人の前に現れたのは、チェーンにぶら下がった大量の死体安置袋。冷凍庫という設定なのか照明は暗く落とされており、気温は低く、袋には霜が降りているような塗装が施されていた。流れる汗が冷やされ体温を奪う。"冷凍庫"という設定のはずなのに6人は体の芯まで冷えたようだった。安置袋を掻き分けながら進むが時折、袋が"ガチャガチャ"と暴れるのも尚更、恐怖を駆り立てる。最も怖いのはその安置袋の合間から不規則に飛び出してくるナース。出現場所、出現間隔、全てが不規則の為、6人は常に気を張っている状態であったが夏輝は違った。
僅かな衣擦れの音、風の流れから大まかな出現位置を予測すると雅を背後に動かしながら進んでいく。雅もまた、多少慣れてきたようで怖がりつつも周囲を見渡し、夏輝にしがみつきながらも自分の足で進んでいく。
「これは……?」
冷凍庫を抜けた一同に大きめの部屋に入る。そこで目に入ったのはまたも異様な光景であった。大量に並ぶベッド。その一つ一つに横たわる人影。特筆すべきはその人影。ある者は右腕を、ある者は左足を、またある者は頭部を取られており全員、体の一部が欠損していた。またここでもひどく匂うのは血の匂い。今までの数倍濃いようだ。男性陣はライトで各々照らしながら言う。
「この間を縫って進むのか……臭いがキツいな……」
「ちょっと気持ち悪くなってきた……絶対何かあるじゃん………」
「死因は……大量出血か、出血性ショックっぽいな……即死の方が少なそうだ……医者なら縫合ぐらいしろよな。血液って洗濯しても落ちにくいんだから……」
「キミ……一体どこ目線……?」
ギャル風の女性と青年が一つのベッドに近づく。そこには右腕が切断された女性の死体があった。ベッドを覗き込んだ瞬間、死体が叫びながら左手を伸ばした。
"私の!腕を返せぇぇぇぇぇ!"
「キャァァァァァァァ!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
思わず飛び退く女性と尻餅をつく青年。その死体の叫びがトリガーとなったのか、全てのベッドからうめき声や呪詛が聞こえてくる。どうやら穏便に進めそうにはなさそうだ。
ベッドから伸びる手、ベッドから出ようと這いずる患者を避けながら進むと次に到着したのはオペ室。割れたガラスの向こうにオペ室があり、夏輝達は見学室と思しき部屋にいた。ベッドに横たわるのは四股どころか身体中がボロボロの大柄な男。その周辺を動き回る例のナース。そして傍に置かれた台車には身体の部位が置かれていた。手、足のみならず、目、鼻、耳、そして内臓。
「なんなの……アレ……」
「わからないけど……怖いことだけは確かね……」
「まさか……人体の再構築手術……?」
各々が話した瞬間、ナースが振り向く。手にはやはり糸鋸が。奇声を上げこちらへ向かってくる。6人は部屋を脱出すると最後のゾーンへ到達した。
しかし、夏輝はナースを振り切る際に聞こえたあるフレーズが引っかかっていた……
現れたのは、左右の壁から手が生えている金網でできた廊下であった。上には手、足、頭部が吊るされており、水が滴っている。金網の下には無数の手が見え、さながら参加者を引き摺り込もうとしているようであった。道は狭く、到底2人並んで進むことはできない。先に進んだペアが悲鳴を上げる。左右の手が参加者に触れ、金網はうめき声や呪詛を撒き散らしながらランダムなタイミングで揺れる。揺れる際に大きな音が鳴るのも恐怖度を更に引き上げる。
夏輝は雅にフードを被せると抱き寄せて告げる。
「よし。行くか」
夏輝はライトでキャストと思しき手を照らし牽制する。
「コレはわかるんだが……」
すると足元の金網が激しく揺れる。聞こえるのは悲鳴と呪詛。
「コッチが不規則なのがなぁ……リピーターにはいいんだろうけど……」
金網が揺れる度に雅はキツく夏輝にしがみつく。なんとか渡り終えた2人を迎えたのは意外にもセクション2のゴールだった。
夏輝VSセクション2
結果……夏輝WIN!
NEXT BATTLE
夏輝VSセクション3
FIGHT!




