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第四章前編 第14話

セクション2は、眼科、耳鼻科、内科、外科のエリアであった。

 

「モデルは五感か……凝ってるな」


「流石、世界一怖いお化け屋敷とでも言いましょうか……」


「ですね」


 淡々と答える夏輝の隣。しがみつく雅を見て礼儀正しそうな女性が言う。


「えっと……その子、大丈夫そう?」


「ん?えぇ、まだ大丈夫そうですね。流石に腰抜けたらリタイアしますけど。立ってられるならまだまだ余裕です」


「貴方、よく周りからスパルタ気質って言われない?」


「そんなことないですけど……」


「そろそろ行きませんか?」


 好青年の呼びかけにより6人は最初のステージへ進んだ。

 最初は眼科である。診察室には壊れた視力検査機や荒らされた診察台があった。異様なのは人間の頭部のホルマリン漬け。入っているのは人形だが苦渋に満ちた顔をしていた。更にそれが複数個あるのも不気味さに拍車をかける。そして感じるのは"誰かから見られている"と錯覚する、まとわりつく様な視線。この部屋には確実に6人しかいないのに周りに無数の目があるように感じていた。


「うわぁ………」


「視覚というだけあって、目にクるものが多いな……見ると記憶に残るだろうから、顔埋めとけ」


 その一言で雅は夏輝の手を更に強く握ると顔を埋め、目線を切る。

 一行が最後に着いたのはモニターの前である。画面にはこの病院の眼科の紹介映像が流れている。

 

「変なとこで気合い入れてんだな……」


「世界観ですからね……」


 しかし、突如空気が一変この病院の裏の顔である実験の側面が写し出される。

 椅子に縛られている1人の女性。白衣の男が何やら装置を女性につける。女性の抵抗も虚しく目元2本のチューブが取り付けられてる。男が機械スイッチを入れると掃除機の様な吸引音がした。後は想像の通りである。


「ウワァ………」

 

「ウッ………」


 他の参加者が絶句していると、電灯が消える。次に点灯した際に現れたのは、モニター背後の棚に置かれた大量の瓶。少なく見積もっても100余り。全ての瓶の中には"目玉"が入っていた。どの瓶を見ても必ず目が合う。目線を逸らしても追いかけられる。そんな気持ち悪さがあった。


「何コレ……」


「気色悪い……」


 ドン引きする参加者を他所に夏輝は1人呟く。


 「医療保険は適用されねーんだろうな……コレ……視力検査にしてはやりすぎだ……」


 無数の視線を背中に受けながら次に到達したのは耳鼻科。聴覚と嗅覚に特化しているだけあって中に光源は一切ない。かろうじて手元のライトの反射による道順表示の矢印が見える程度である。

 夏輝はここで一つのことに気づいた。


 (この音……子供の泣き声か……こういうのって女性にド直球で届くからなぁ……精神的ダメージは男の比にならねぇし……どーすっかな……)


 少し考えたのち夏輝はイヤホンを取り出すと雅に告げる。

 

「この先ちょっと聞かない方がいいかもしれないからとりあえず少しの間イヤホン付けてくれ。エスコートは任せてくれ」


 雅は夏輝の目を見てコクコクと頷く。

 ワイヤレスイヤホンを取り付け、選択した曲はモーツァルト作曲のクラシック。恐怖心やパニックを抑える周波数の曲が多いのが特徴である。

 

「ちょっと反則かもしれんが……見逃してほしいね」


 誰ともなく呟くと夏輝と雅を先頭に6人は部屋へと入っていく。

 入った6人にまず襲いかかるのは強烈な消毒臭と血の匂い。思わず6人とも顔を顰める。


「かなり暗いな……」


「ねぇ……なんか聞こえるんだけど……」


「コレは……子供の泣き声か……?」


 部屋は完全なる闇。聞こえてくるのは子供の泣き声。精神的な揺さぶりが大きい仕掛けであった。青年とギャル風の女性、真面目そうな男性が話す中、夏輝は1人溢す。

 

「趣味悪ぅ……考えたヤツ友達いねぇだろ」


 6人が闇の中を進む中、礼儀正しそうな女性が反応した。


「ひっ……!今、足元を何かが通った……!」


「足元?」


 男性が足元を照らすとそこには手形と何かを引きずった様な跡。それからペタペタと音が鳴っている。その音は移動しており、ベッドの下までいくと音は止んだ。それを見た夏輝は言う。


「赤ん坊が這いずり回ってるのか……思った以上に気持ち悪いな……それに……笑ってやがる……」


 パニックになる6人を見て、まるで遊んでもらっているかの様な笑い声が聞こえた。夏輝はベッドの下を照らそうとするが、雅に腕を引きながらフルフルと首を振るのを見て諦めた。本人としては好奇心ありきの行動だったが雅はお気に召さなかった様だ。

 尚も進む6人だったが、ペタペタという音は確実に"着いてきていた"カルガモの親子に見られる様に自分達を親と認識しているのか……真偽は定かではないが気持ち悪いことに変わりはなかった。

 新生児室を進むにつれ、次第に泣き声の中に笑い声が、怨みの言葉が入ってくる。心なしか赤ちゃん特有の甘い匂いと出産による血の香りも漂っていた。


「水子の霊か……?こういうのは簡単に扱っていいモンじゃねぇ気がするが……そういうのはちゃんとお祓いとか供養とかしてんだろうな……」


 元々、余り子供が得意ではない夏輝。理由は簡単で"目を離すととどこいくかわかんねぇし……行動が読めねぇ……守りにくいったらありゃしねぇからな"とのことである。効率重視の夏輝らしい理由だった。

 すると後ろで何かが動く気配があった。聞こえてくるのはやはりペタペタという音。それから笑い声。カーテンの奥から徐々に近づいてきていた。

 3人がカーテンにライトを照らすと、カーテンを潜って現れたのは軽自動車ほどの大きさの奇形の赤ちゃんがいた。


「なんだ……コイツ……!」


「気持ち悪い……!」


 その赤ちゃんは夏輝達を笑いながら四つん這いで追ってくる。まるでおもちゃで遊んでいるかの様に時折、手を伸ばし、周りのベッドや機械を倒して進んでくる。


「無理無理無理!来ないでー!」

 

「逃げろ!」


 全員が阿鼻叫喚しながら出口に向かう最中、夏輝は言葉を吐き捨てた。

 

「元気なクソガキだな」

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