第四章前編 第13話
更新できずに申し訳ありません。推しのライブに行ったり、仕事が立て込んだりしておりまして……とりあえず5話ほど一気に公開いたします。
この"戦慄病棟"は普通と違い団体で進む。なんでも最初は1組ずつだったらしいのだが、パニックになったり、失神したりした際に周りに人がおらず危険と判断された為である。
今回のグループは夏輝と雅に加え真面目そうな男性と礼儀正しそうな女性のペアと、好青年とイマドキのギャル風な女性の6名。全員男女ペアであり、他の2組はカップルの様だった。
真面目そうな男性と礼儀正しそうな女性のペアから夏輝は声をかけられた。
「よろしくお願いします〜」
「こちらこそ」
「今日は初めてですか?」
「えぇ。幼馴染と」
「幼馴染さんなんですね。てっきり彼女さんかと……」
「ん〜……まぁ似て非なる様なものです」
「そうですか」
相手の男が苦笑いしつつ答えると、突如プロジェクターが動き映像が流れた。どうやら舞台説明とルールの様だ。舞台としてはよくある設定で、医療事故の恨みを持った亡霊や霊安室にいる死に損ないなどのありきたりなモノに加え、秘密裏に行われていた実験の犠牲者も彷徨っているらしい。
基本的なルールとしては
・懐中電灯は一組につき一本
・セクション終わりごとにリタイア出口がある
・道中、どうしても無理なら足元を照らしながら走ってください。妨害はしません。そのまま出口に向かうように
とのことだった。動画の後、係員からライトが手渡された。
「おぉ……なんか本格的だな。てかライトの火力弱……ほぼほぼ点灯してない様なもんじゃねぇか。今の時代LEDがマストだろ……雅、大丈夫か?」
ライトを点けたり消したり、動作確認しながら雅を見れば身を小さくしていた。心なしか少し震えている様だ。全てを察した夏輝は雅に告げる。
「ま、冷房効いてるからな。これ着とけ」
夏輝は自分が着ていた半袖のパーカーを雅に着せると抱き寄せる。
「とりあえず、俺の手に捕まって俺だけ見とけ。音とか光は……どうしようもないけど視覚はこれでなんとかなるだろ」
「うん……」
「どうせだし開業初の制覇者目指そうぜ」
夏輝が明るい声でそう告げると係員が言う。
「それでは皆さん……頑張って"生きて帰ってきて"くださいね……」
「なんで命を繋ぐ病院で生死の心配されなきゃなんねぇんだよ……」
夏輝のツッコミ虚しく"最強の護衛"対"最恐のお化け屋敷"の戦いの火蓋が切って落とされた。
夏輝達のグループは黙々と廊下を進む。廊下には置かれたままのストレッチャーや心停止を知らせるブザーがなりっぱなしの心電図機器などがあった。
6人のうち夏輝と雅は殿。雅は夏輝の左腕を抱き込みながら右手で夏輝の左手を握っていた。心臓はうるさいくらい早鐘を打っており手は汗ばんでいたが気にしている余裕もなかった。一方の夏輝は飄々としていた。他の男性がライトを腰あたりに構えているのに対し、1人だけライトを逆手持ちにし、顔付近に構えている。"脅威排除ガチ勢"である。
任務でこれくらいの暗さなら慣れているし、実際に夜に1人で大きな屋敷の見回りをすることもある為なんてことはなかった。夏輝曰く"幽霊なんかよりも生きてる人間の方がよっぽど怖ぇよ"とのこと。
「セクション1は……ロビーか……」
カルテが散らばった受付、乱雑に荒らされた待合室。壁に大きく残る爪痕など"何かあった"ことを彷彿とさせる。特に不気味なのは僅かに吹いている"風"。誰も通っていないのに誰かが通った様な肌触りであった。更に待ち合い用の椅子は退かされ大量の遺体安置袋が並んでいた。いくつかは不規則にバタバタと動いている。夏輝は思わず腰に手を当てるがそこで気づいた。
(あ……任務じゃねぇから銃も警棒も持ってねぇじゃん!忘れてたぁぁぁぁぁ!)
職業病である。
どこから何が来るのか。見えない恐怖の中ライトで辺りを照らす夏輝達。その時
"ジリリリリリリ……!"
「ひっ……!」
突如、受付にある内線が鳴った。他の皆が固まる中、夏輝はズカズカと進むとなんと内線を手に取り応答した。
「もしもしもしもし?どちらさま?アレ?おーい。なんだよ返事ねぇじゃん。無言電話かよ」
受話器を置き、他の組へ向き合うとそう告げる。一幕の静寂の後、ギャル風の女性が夏輝達の後ろを指差し、震える声で言った。雅の背筋に伝う嫌な汗。
「う……後ろ……」
「後ろ?」
夏輝と雅が振り向けば、そこには糸鋸を振り上げた血に濡れたナースが立っていた。
"ヴエァァァァァァ!"
「う……うわぁぁぁぁぁ!」
「キャァァァァァ!」
男女問わず悲鳴が上がる。雅も咄嗟に顔を夏輝の胸に埋めた。しかし当の夏輝というと
「おぉ……ビックリした」
なんとも淡白な反応であった。夏輝は雅の頭を撫でて告げる。
「な?別に見えなきゃ大したことないだろ?早く行こうぜ。他の方も進みましょう。止まってても意味ありませんから」
「そ……そうですね……凄いな、あの男の子」
「そうね……」
「ねぇ……ナースはどこに行ったの?
「まだここに……あれ?どっか行った……逃げるなぁぁぁ!卑怯者ぉぉぉぉぉ!」
夏輝は目線を戻し叫ぶがそこにナースの姿はなかった。移動する時は少なからず何か音がするはずだが、6人には何も聞こえなかった……
案内に書いてある矢印の通りに進んでいくと現れたのはナースステーション。ここも同じく大きな爪痕が残っていたが一つだけロビーと決定的に違う部分があった。それは死体が剥き出しだということ。夏輝はライトを手当たり次第に向けて分析する。
「患者に医者……看護師に警官まで死んでる……傷が激しい……何かに引き裂かれたか……?」
「なんでそんなに冷静でいられるんですか!?」
「コレしかねぇよなぁ……」
「話聞いてますか!?」
夏輝と好青年がライトを向けた先には巨大な爪痕が残っていた。その時、フロアの電灯がチカチカと点滅し始める。最初はゆっくりだったが次第に早くなっていく。一瞬、ナースの姿が見えた気がしたが次の点灯時には消えていた。各々、自分達のパートナーの傍にいると何が起きるのか備えた。やがてフロア全ての電気が消えた。演出用のライトも含めて全て。手持ちのライトで周囲を照らそうとすると"ザーーーーッ"という大きな音と共にナースステーションのPC画面が点灯し全て砂嵐に覆われた。しばらくすると砂嵐は消え、薄暗いながらも電灯が点く。その時、6人の目に入ったのはまたも血に濡れた糸鋸を持ったナースであった。
「うぉ……マジか……気付かなかったぞ……」
「ひっ………」
"フ……フフフ………キャハハハハハハハハ!"
「は……走れ!」
男性の掛け声で弾かれた様に走る6人。ナースはステーションから飛び出すと両手をダラリと下げ、笑いながら追いかけてくる。案内表示の矢印に従いコースを進む夏輝達の前に1つの大きな影が見える。シルエットに映る巨大な爪……滴る水滴の音……確実に人間でないことは確かであった。
"ウガァァァァァァァァァァァァ!"
咆哮を上げ、こちらに近づいてくる人ならざるモノ。そのビジュアルはお世辞にも良いモノとは言えなかった。右手には巨大な爪。口は十字に開き四つに分かれている。血塗れなのはもはやお約束であり、ところどころ内臓や骨が見えていた。そして何より動きが速い。
「アイツ……見た目の割に動きはえーな……」
「言ってる場合ですか!?」
「貴方、一体何者!?」
「平々凡々な高校生です」
「絶対ちがぁ〜う!」
最後の曲がり角を曲がり、夏輝と雅がゴールゾーンに到達したことを確認すると、男性がボタンを押した。ゲートが閉じ、セクションの封鎖が確認されると無機質なアナウンスが流れた。
『おめでとうございます。セクション1クリアとなります』
「嬉しくねー……雅、とりあえず第一ステージクリアだ。少し休んで次に行こうぜ」
「うん……」
実際、雅のダメージはかなり軽微であった。視覚という情報がないだけで記憶に残る確率はグンと下がるのだから。夏輝はそのまま告げる。
「次はどんなのだろうな。楽しみだわ」
「えぇ……」
「理解できないわね……」
「あの子、もしかしてどっかイカれてる?」
「俺もそう思っちまう……」
夏輝の言葉に対する他のペアの反応は良くなかった。
しかしまだセクション1。恐怖のレベルはまだまだこれからである。
夏輝VSセクション1
結果 夏輝WIN!




