第四章前編 第12話
天高く太陽が照らす時刻。雅は少し疲れていた。
というのも非日常的場所で夏輝と一緒というのもあるが1番の原因は日差しであった。夏輝が歩くスピードを合わせてくれているとはいえ、暑さまではなんともできなかった。
「ふぅ……」
雅が少し息を付くと頭上に影ができる。見れば夏輝が折りたたみ式の日傘を差していた。
「暑いね……」
「そうだな。流石の俺でもキツいわ……気付かなくてごめんな」
「気にしないで。痩せ我慢してた私の方が悪いから……」
「とりあえず休みがてらメシにしようぜ。俺、腹減ってさ」
「そうだね。そうしようか」
雅と2人、日傘に入りながらどこか良さげなレストランを探す。和食、洋食、中華、カフェ……様々なレストランが存在する中、2人が見つけたのはガイドブックでも特にオススメされていたマルチレストランだった。
「いらっしゃいませ!何名様でしょうか」
「2人です」
「かしこまりました!こちらへどうぞ!」
フリーパスを見せると、店員に席へと案内される。テーブルの上に置かれていたプレートを店員が除けた際、"VIP"の文字が見えた気がしたが気にしないことにした。気にしたら負けだと言い聞かせたのだ。通された席は大きなガラス貼りであった。窓の向こうには噴水やバラの生垣など整えられた庭が見える。
「涼しいね」
「生き返る」
2人して文明の力に大いにあやかる。熱を持っていた体が冷やされていくのを感じた。2人がメニューを開くと様々な料理が載っていた。1つのメニュー表をアレコレ指差ししながら見ていく。
「何にすっかな」
「和食、洋食、中華……色々あるから悩むね」
「すげーな……夜はコース料理もやってんのか……」
「季節ごとにイベントもあるんだって。10月はオクトーバーフェストやってるって」
「侮りがたし……テーマパーク……!」
ペラペラとメニューを捲りながらも何を食べるか決まらない2人。すると夏輝が言った。
「とりあえず注文してシェアするか?」
「いいね。そうしよっか」
「了解。すいませ〜ん!」
店員を呼び夏輝と雅はそれぞれ注文した。
夏輝はハンバーグとステーキのセット、雅は冷製パスタと冷製スープ
それから2人で食べる為にシーザーサラダも注文した。
待つこと数分。届いた料理は素晴らしいの一言だった。
夏輝が注文したセットは大きな金属製のステーキ皿。そこには分厚いハンバーグとステーキが盛り付けられていた。対する雅の冷製パスタと冷製スープはガラス製食器に盛り付けられており見た目からして涼しげであった。
「「いただきます」」
フォークでハンバーグを切れば閉じ込められていた肉汁が溢れ出し鉄板を焼く。パスタを口に入れれば、酢橘の風味が爽やかさを倍増させていた。
「美味いな。コレ」
「美味しい……!」
「肉の臭みが少ねぇ……下処理……臭み消しが抜群に上手い……コレを手作りでやるのか……恐ろしいな……」
「風味がなんだか普通より濃い気がする……なんでだろう」
「たぶん細かくした酢橘の皮を麺に練り込んでるからだろうな。果汁もソースに混ざってるだろうからそれも相まって強く感じるんだろう」
「食べてないのによくわかるね」
「いや、ほぼ憶測。俺だったらこうするっていうだけの話」
サラリと流しながら食事を続ける夏輝。雅はただひたすらに感心することしかできなかった。そんな雅の視線に気づいた夏輝はごく自然にハンバーグをフォークに突き刺し差し出す。
「え……っと……?」
「いや、なんかジッと見られてたから食いてぇのかなって。いるか?」
"どうする?"とでも言いたげな表情の夏輝。一呼吸置いた後、雅は意を決してフォークを咥える。
「美味いよな」
「そ……そうだね」
ウソである。パニック状態で味などほとんどわかっていない。しかも夏輝が平然とそのフォークを使うのがさらに拍車をかける。しかしやられてばかりの雅ではない。負けじとパスタをフォークに巻き付けると夏輝に向ける。
「なら……私のも食べてみる……?」
一瞬固まる夏輝だが何事もないように言う。
「じゃ、遠慮なく」
夏輝は躊躇なく咥えるのであった。
「冷製パスタって初めて食べたけど意外と美味いな。今度作ってみるか……それにしても酢橘の皮を直接混ぜるのか……麺に練り込むとばかり思ってた……まだまだ見識が浅いぜ……」
夏輝がそう呟いている時、雅はフォークを見て固まることしかできなかった。心臓はまたもうるさく鼓動していた。
その光景を見ていた2人の店員が言う。
「若いっていいですね」
「若いっていいわね」
「でもアレでお付き合いしてないらしいですよ?」
「え!?あんなことして!?バグじゃない!?」
「ホントですよねー」
店員の会話は誰のものとなく流れていった。
食事を終えた2人はある場所にいた。まず目に入るのは窓が全て黒く塗りつぶされ、全体的に大きく薄汚れた大きな建物。ロータリーに乱雑に止まっているのは血の手形や煤の様なウェザリング塗装が施された救急車と開いたドアからは無線機がぶら下がり、トランクは開け放たれたままの薄汚れた塗装が施されたパトカー。どちらも赤色灯が光っている。至る所に立ち入り禁止のテープとバリケードの残骸が残っており、誰が見ても一目でここで何かがあったとわかる雰囲気であった。そして特筆すべきは音。至る所から悲鳴が聞こえる。雅は青ざめながら夏輝にひっついていた。
「ここが……」
「世界一怖いと言われている……」
「お化け屋敷……」
2人で顔を見合わせて言う。
「「戦慄病棟……」」
2人の前に聳え立つのは不気味な病院であった。夏輝は微かに震えるながら自身の腕にしがみつく雅に確認する。
「なぁ……マジで行くのか?雅、ホラー苦手だろ。やめとこうぜ?」
「い……嫌。せっかく来たんだから体験しておきたいもの。それにそんなこと言うなんて夏輝君らしくない。あ、もしかして怖いの?」
「あーあ。言ってはいけないこと言いやがった。もう雅が限界ってなってもリタイアしませーん」
「の……望むところよ……!」
そう言う雅の声は震えていた。入り口にあるプレートにはこう書かれていた。
"遊園地開業からの制覇者「0名」"




