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第四章前編 第11話

ホテルからシャトルバスに乗り遊園地のメインゲート前で降車。

 チケット受付で芽衣から渡されたチケットを提示すると2人は係員から少し待つように言われた。それを聞いた夏輝の顔が引き攣る。


「なぁんか嫌な予感……」

 

「奇遇ね。私も……」


 戻ってきた係員に渡されたのは緑色のプラスチック製リストバンドだった。2人がしげしげと眺めていると係員が説明する。


「こちらのリストバンドは、遊園地、プール、水族館全てでご使用いただくことができるVIPフリーパスとなります。人気のアトラクションも、もちろん待ち時間なしで何度でもご利用いただけます。また、ショップ、レストラン、カフェ等の利用料金は全て20%OFFでご利用可能です。アトラクションの係員にお伝えいただくとラウンジもご利用できますので、是非ご利用ください。では、楽しい時間をお楽しみください」


「は……はぁ……」


「わかりました………」


 余りのスケールの大きさに頭が追いつかない2人。入場後、夏輝はポツリと呟く。


「ボスさぁ……やりすぎだろ……」


 対する雅は少しウズウズしているようで夏輝の服の裾を引くと言った。


「早く行きましょ」

 

「そうだな……貰ったもんはしょうがねぇ。使い倒させてもらうぞ。ボス」


 意気揚々と出発した2人だが園内は広い。まずはどこに行こうかとスマートフォンを覗きながら歩く。


「どこから周るか……」


「夏輝君は?コレは譲れないってモノはある?」


「う〜ん……?とりあえず新型のジェットコースターは行きてぇな。雅は?」


「私はまだ思いつかないかな……とりあえずそのジェットコースターから行きましょうか」


「了解」


 歩くこと数分。2人はジェットコースターのエントランス前にいた。2人が見上げるとちょうど真上をコースターが登っていく。うつ伏せで乗るゲストが手を振っていた。夏輝も雅も手を振り返すとエントランスへ向かう。ジェットコースターの通常待ち列に並ばず、エクスプレスパス専用レーンからアトラクションに並んだ。

 

「確かうつ伏せで乗るんだっけ」

 

「そうそう。頭から落ちるんだよなー」

 

「ちょっと怖いかも」

 

「大丈夫だろ。俺も雅も絶叫マシン耐性高いし」


 4人掛けシートに雅と並んで座る。どうやら隣はカップルの様だった。雅は隣のカップルを横目で見ると思う。

 "私達もあんな風に見えてるのかな……"

 やがて安全バーが下げられロックされる。夏輝も雅も内心ワクワクしていたがその気分も合図と共に座った状態からうつ伏せになると霧散した。うつ伏せの状態の夏輝がポツリと言う。


「これ乗ったの間違いかもな」

 

「私も後悔してきた……」


 しかし始まったものは止められない。そのままコースターは上り坂をぐんぐん登る。登るにつれ小さくなっていく人々。


「おぉ思ったよりたけぇー!見ろよ。人がゴミの様だ!なんてな」


「………」


 夏輝は無邪気に下に手を振っているが、雅は恐怖が勝っていた。それを見た夏輝は雅の手を取ると告げる。


「はぁ……コレなら怖くねぇだろ。どうせだし楽しもうぜ?ホラ、落ちるぞ!」


「え……?キャァァァァァ!」


「ウォォォォォォォ!速ぇぇぇぇぇ!」


 夏輝のその一言と共に、ふわりとした感覚の後、重力に引かれコースターは真っ逆さまに落ちていった。ファーストドロップ、バレルロールにシャトルループ、コークスクリューなど縦横無尽に動くコースター。しかし雅も夏輝もお互いの手を離すことはなかった。

 コースター終了後、夏輝は雅の手を取ったままコースターからの降車を手伝う。

 

「楽しかったな」

 

「う……うん」

 

「よし。じゃ、次行こうぜ」

 

2人手を繋いだまま次へと向かう。日陰で雅のスマートフォンに映るマップを頭を突き合わせて見ながら夏輝が溢した。


「なんか、アレだな。"目的達成したからもういい。帰るか"みたいな気分になる時ねぇか?」


「ちょっとわかるかも……達成感で"もういいや"ってなる時あるよね」


「なー」


 日陰を出て移動する最中、雅の目にあるモノが映った。この遊園地にいるクマのマスコットのぬいぐるみの様だ。どうやらゲームに成功すると貰えるらしい。それに気づいた夏輝が問う。


「ぬいぐるみか……欲しいのか?」

 

「え?あ、うん。だけど今持ってても邪魔になるから後でいいかな」

 

「はぁ?なら今取るべきだろ。任せとけ。楽勝だ」


 夏輝はフリーパスを提示すると挑戦する。ルールは簡単。ボールを3球投げ、台の上にある5本のピンを全て落とせば成功である。


「こんなのでいいのか。チョロいな」


「さぁ〜、新しい挑戦者です!頑張ってください!」


 クルーが応援する中、夏輝は渡されたボールをポンポンと2、3回軽く上に投げると構える。一拍置いた後、大きく振りかぶると、右腕を振り抜き思い切りボールを投げた。投げられたボールは全てのピンを弾き飛ばし、台の上をいとも容易く更地にした。


「ふむ……呆気なかったな」


「おめでとうございま〜す!1発で成功です!」


 クルーがかき鳴らすベルの音に祝福されながら景品を受け取る夏輝。それを雅に投げると告げる。

 

「な?楽勝だったろ。プレゼントだ」


「あ……ありがとう……」


「よぉし!次行こうぜ、次!」


 意気揚々とその場を離れる夏輝を雅はぬいぐるみを抱きしめて見つめる。そんな雅にクルーが声をかけてきた。


「優しい彼氏さんですね」

 

「かっ……!そんなんじゃなくて……ただの幼馴染です……!まだ………」


「ふ〜ん………」


 リンゴの様に赤くなった顔とぬいぐるみを力強く抱きしめる動きで全てを察したクルーは、隣に立つと雅に一言添える。


「頑張ってくださいね。貴方達お二人はお似合いだと思います」

 

「えっと……その……ありがとう……ございます……」


「お〜い!何してんだ。早く行こーぜ!」


 夏輝の呼ぶ声に弾かれたように雅は夏輝の元に向かおうとする。そんな雅を引き留めるとクルーは耳打ちした。


「もし告白するんでしたら、水族館の大水槽前がオススメです。あそこで想いを告げた2人は幸せになれるというジンクスがあります。頑張ってください」


 雅は顔を赤くしながらもクルーに一礼し、夏輝の元へ駆けて行った。二言、三言話した後、手を取り合って並んで歩いていく夏輝と雅を見た店員は、誰ともなく呟いた。


 「いやはや……青春してるねぇ」

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