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第四章前編 第9話

栞達から生暖かい目で見送られた2人はホームに立っていた。アナウンスの後、新幹線が駅に滑り込む。乗り込もうとした時、2人はさらに驚くことになった。


「すげぇな……専属の乗務員がいるのか……」


「なんというか……世界が違う気がするね……」


「それな」


 2人は切符に表示された座席へと向かう。車内には絨毯が引かれ清潔の一言。左右二列ずつの座席はマッサージチェアを思わせる様な造りであった。座席の前面には小さめのモニターがあり、インターネットや映画を楽しむこともできる。各シート毎にスライド式の仕切りがあり、半個室、完全個室にすることも可能。ウェルカムドリンクまで用意されており、まさに至れり尽せりの最上級クラスであった。


「ここだな」


「だね」


「よっ……と。ホラ、スーツケース寄越せ」


「あ、ありがと」


 夏輝は荷物棚を軽く見た後、自分のスーツケースを荷物棚に載せると、そのまま雅のスーツケースも軽々と載せる。その後、座席の周囲も軽く見回した後、左手で座席へエスコートすると一言。


「お先にどうぞ」


「ありがとう……」


 雅が座ると夏輝も隣に腰を下ろした。窓の外で流れる景色を見ていた雅はちょっとした疑問をぶつけた。


「そういえば、なんでさっき座席の下を覗く様なフリをしてたの?」


「ん?あぁ〜……職業病みたいなモンだな……癖になってるんだよ。座席の下とか棚の上とかに不審物がないか確認するの」


「そっか……あ、今更だけど夏輝君窓側じゃなくて良かったの?交代しようか?」


「いーよいーよ。雅、乗り物酔いしやすいし、そっちの方が落ち着くだろ。それになんかあった時、俺の後ろにいるのが1番安全だしな」


「………」


「まぁ、そういうコトは滅多に起きるモンじゃないってのは分かってるんだけどな」


 車内弁当のメニュー表を眺めながらバツが悪そうに告げる夏輝に対し雅は"彼は一体どれだけ自分を気にかけてくれているのだろうか……"という疑問が尽きなかった。

 2人は昼食に車内弁当をオーダーした。雅は小さめのサンドイッチが入ったランチボックス。対する夏輝は大きめサイズであり肉中心の和食系統の弁当であった。

 弁当とドリンクを受け取った夏輝はランチボックスを渡しながら聞いた。


「通路側の仕切り閉じて個室にするか?」


「どっちでも……いいよ……?」


「ん〜……いざという時の動きを考えると開けておきたいが……今回は休みだし、閉めるか」


 夏輝は迷うことなく仕切りを閉じる。かくして夏輝と雅は擬似的な個室で2人きりとなった。しかしこの程度で雅は動じない。それもそのはず。普段から夏輝の部屋に入り浸っており"2人きり"自体に抵抗はない。また距離の近さにおいても普段からよく隣に座ることがあるので大した動揺はなかった。

 雅は夏輝を見ながら思わず呟く。


「よく食べるね……」


「まぁな。俺達は体が資本だし、いざというときにガス欠はしたくねぇからな。でも最近消費カロリーに対して摂取カロリーが追いついてねーから、すぐ腹が減る」


「私の少し食べる?」


「いや、やめとく。それは雅の分だろ」


「いいよ。私、あんまりたくさん食べると戻しちゃうから。どうせなら食べてよ」


「……わかった。ありがたくいただくよ……ただ、ちょっと手が離せねぇから口ん中放り込んでくれ」


「え!?」


 "あー"と口を開けながら、ボディーバッグを漁る夏輝。雅はサンドイッチを手に取ると震える手で夏輝の口に差し出した。


「はんひゅー(サンキュー)」


 夏輝はサンドイッチを加えると顔をボディーバッグに戻した。夏輝が咥えた際、微かに雅の指も触れていたがそれには気づいていない様だった。

 一方の雅は自分の指を眺める。先ほどの行動を思い出し顔が熱を持つのがわかった。バレない様に顔を外に向けると新幹線はトンネルへ。窓に映ったのは顔を赤くしている少女であった。


「雅」


「うぇっ!?な……何!?」


「そんな驚かんでも……はいコレ」


「コレは……?薬?」


「酔い止め。一応飲んどけ。その間にゴミ捨ててくる」


「あ、うん。ありがとう……」


 夏輝が席を外したタイミングで雅は自身の顔を仰ぐ。思い返してみれば、夏祭りの時もそうであった。自分が咥えた串をなんの迷いもなくまた咥える。良くも悪くも夏輝には"戸惑い"というものがないのだ。雅は再度自分の手を見つめると呟いた。


「私も同じことをすれば……何かわかるかな……」


 手を自身の唇に近づける。もう少しで触れ合うタイミングで"コンコン"と仕切りがノックされた。


「!?」


「雅。開けてもいいか?」


「う……うん。大丈夫……」


「ん……?なんか顔赤くね?熱でもあんのか?」


「大丈夫大丈夫!なんでもないよ。なんでも……」


「ならいいんだが……」


 夏輝がスマートフォンでニュースをチェックする傍ら、雅の心臓はバクバクと鼓動していた。

 ひとしきり落ち着いた時、雅はバッグからある冊子を取り出した。


「夏輝君見て」

 

「ん?」

 

「今から行く施設のガイドブック。買っちゃった……」

 

「おぉ。いいんじゃね?予習するには十分だろ」

 

2人でガイドブックを覗き込む。


「おぉ〜デケェ水族館に、うつ伏せに乗るタイプの新型ジェットコースターか……」

 

「世界最大級のウォータースライダーに、ウォータースポーツまでできるんだって。見て、フライボード体験もあるんだって」


「マジかよ。でもジェットスキーはもう勘弁な」

 

「アレは見てる私も生きた心地しなかったからやめてね」

 

「わかってる。よっぽどのことがない限り2度とやらん」


 新幹線の座席で頭を突き合わせてガイドブックを覗く光景はどこからどう見てもカップルである。その光景に気づいていないのは本人達だけであった……

 2人は新幹線を降りた後、駅からホテルへの直通バスでホテルへと向かった。チェックイン時に更なる衝撃に襲われるとはこの時、微塵も感じていなかった……

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