第四章前編 第7話
逃げる男子を見送ると5人はメンズのファッションショップへ。雅と変わらず夏輝も栞達に着せ替え人形にされていた。
「俺は着られればなんでもいいんだが……」
「ダメ。アンタはセンスないじゃん」
「事実故に否定できない……」
「とりあえず兄様は上背あるのでシンプルなのでまとめたほうが無難かと。Tシャツとジーンズなどでも十分だと思います」
「えーっと……コレとコレと……」
「玲ちゃん、コレなんかもいいんじゃない?」
「かもね。モノは試しだし……どうせ着替えるのはコイツだもんね」
「雅……お前ずっとこんなのに振り回されてたのか……?」
「あはは……まぁね……」
「よし……こんなもんだろ」
玲はカゴに幾つか放り込むと夏輝に渡す。
「じゃ、一回着てこい」
カゴを押しつけられた夏輝は渋々と言った様子で更衣室に消えた。数分後、更衣室から夏輝が出てきた。
「これどうなの?」
夏輝は、白いワンポイントTシャツにブルーのジーンズというシンプルな服装であった。だが鍛えられた体と身長でやけに絵になる。
「いいわね」
「やっぱ似合うじゃん。アタシの言った通りだ。ホラ次!」
「えぇ……まだあんの?」
その後も夏輝は様々な服を着せられた。白いワイシャツにブラックジーンズを合わせたコーデや紺のTシャツにホワイトジーンズを合わせたコーデなど着せ替えは30分以上続いた。
「よし!こんなモンね。もういつもの服に戻っていいわよ」
「つ……疲れた……」
そう呟くと夏輝は試着室に引っ込んだ。その隙に3人は少し離れ、雅に聞く。
「雅義姉様はどれが1番良かったですか?」
「え?」
「どれも似合うものねぇ〜。カッコイイもの。選べないわよね〜」
「え?え?」
「まぁここでの印象と向こうでの印象はまた違うと思うから仕方ないか……ちゃんと感想聞かせてね」
「え?あ、はい……」
雅の脳が処理し切る前にこの会話は終わった。
入店から退店までの時間85分。夏輝にとっては過去最長の買い物であった。
ショッピングモールを後にし、家へ向かう帰りの車内で、栞が聞く。
「後は帰って荷造りするだけね〜。出発は?」
「明日の朝」
「そ。ならお姉ちゃんが駅まで送って行ってあげるわ」
「サンキュー」
前方の座席で話す夏輝達を尻目に後部座席では玲と華恋、雅が話していた。
「いい?今日買った"切り札"切りどころ間違えないようにね」
「は……はい……」
「事を焦っては失敗しますからね。機を見て仕掛けるのです」
「う……うん……」
今日、購入した"武器"が入った袋を抱え、そう答える雅は耳まで赤かった。赤信号で停車したタイミングで夏輝が告げる。
「あ、栞姉。俺バイト先に寄ってから帰る」
「あら、そうなの?何かあった?」
「新幹線のチケット貰いに行く」
「わかったわ」
そう答えると栞は事務所の前で車を止めた。助手席側の窓を開けると夏輝に注意する。
「いい?明日は朝早いから早く帰ってこないとダメよ?」
「わかってる。すぐ帰るよ」
「ならよろしい。先に帰ってるわね」
「了解」
走り去る車を見送り夏輝は事務所に入る。そこには自分のデスクで事務作業を片付けている芽衣とシルヴァに勉強を教えている累と沙羅がいた。夏輝に気づいた芽衣が問う。
「夏輝か。どうした?」
「なぁ、簡易任務キット持ってっちゃダメか?」
簡易任務キットとは、小さいポーチの中にピッキングツールやハッキングガジェット、ちょっとした工具類一式が入っている物のことである。それを聞いた芽衣はキッパリと切り捨てる。
「ダメだ」
「なんでだよ」
「今回は任務ではない休みだ」
「なら銃は?」
「ダメだ」
「警棒も?」
「ダメだ。応急処置キットなら構わん」
芽衣のその答えに思わず夏輝は噛み付く。
「じゃあ、この前のリゾート占領事件みたいになった時どうすんだよ」
「そんなことは早々ない」
「そんなのわかんねぇだろ?ボスはいつも最悪に備えろって言ってるじゃねぇか」
「もし仮にそうなった時はお前の体と頭と口で切り抜けるか私達に連絡しろ」
芽衣は徐に立ち上がると、夏輝の頭に手を置き告げる。
「私はお前に"よく食べ、よく学び、よく動き、よく休め"と伝えたはずだ。今回は1番最後。よく休め。十分な休息を得てこそ最高のパフォーマンスを発揮できる。わかったか。我が"弟子"よ」
「………はい、"お師様"」
「"ボス"と呼べ」
芽衣に説得された夏輝が応急処置キットと新幹線のチケットを受け取った時、ふと沙羅が聞いた。
「夏輝君は雅さんのこと……好きなの……?」
もちろん恋愛感情的な意味で聞いたのだが……夏輝の返答としては……
「え?まぁそりゃ(人として)好きじゃなかったら一緒にいませんよ」
「それを聞いて安心しましたわ。具体的にはどの様なところがお好きなのですか?」
累としては雅の性格や内面的な部分が出てくると思っていたのだが……夏輝はそう捉えなかった様だ。
「顔と髪ですね」
聞かれたことに正直に答えた夏輝であったが周りからは非難轟々であった。
「サイテー」
「女の敵ですわね……」
「黒髪のお姉さんが可哀想です……」
「お前、一回死んだ方がいいぞ。他人の心には目敏い癖に、たった1人の感情には気づけないとはな……」
「言い過ぎでは?俺泣くぞ?」
厳しい視線に晒されながらも夏輝は続けた。
「でも実際問題、人は見た目より内面ってのはよくいいますけど、そもそも見た目が受け付けなかったら内面を知ろうとすらしないと思うんですよ」
「確かにね……いくらいい人と言われても身だしなみが良くないと……不け……汚……印象悪いもんね」
「沙羅先輩、めっっっっちゃ言葉選びましたね、今。まぁ、だからと言って見た目の外面がいい人の内面がいいかと言えばそういうわけでもないんですけど」
「ギャップで済めばいいが……世の中にはクズも多い」
「ボスは躊躇いねーなぁ……シルヴァの前なのにそんな言葉遣いしていいのか……?まぁ俺が何わ言いたいかっていうと外面も内面も完璧なアイツ凄いなって話ですよ。努力の賜物ですよ」
「それ……言葉にしてる……?」
「ちゃんと雅さんに伝えてあげた方がいいですわよ?」
「そうですよ。沙羅お姉さんが言っていました。"言いたいことは言える時に言うべきだ"って」
「………善処します……」
「善処?実行しろ」
「ウス……」
女性陣4人から詰められた夏輝にもはや立つ瀬はなかったのだった……




