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第四章前編 第6話

あらゆる下着を試着させられること幾星霜。

 結局普段より少しレースの多い攻めた下着を白と黒のワンセットずつ購入することとなった。ちなみに支払いは栞がした。雅は固辞したが栞が押し切ったのだ。理由としては"義妹の晴れ舞台でしょ?手助けしなくてどーすんの"とのことだった。

 入店から退店までの時間約60分。まさに作戦会議であった。


 夏輝と合流し、メンズのファッションショップへ向かう最中、ふと華恋が立ち止まった。視線の先には和装の店が。


「行きたいのか?」


「えっ!いいえ!今日は雅義姉様と兄様の買い物ですので……また今度にします」


「いいんじゃない?行っても。夏祭りの時私達の浴衣選べなかったものね。あの時の約束。今、果たしましょう」


「いいのですか!?」


「おう。可愛い妹の願いだしな。栞姉も姉貴もいいだろ?」


 夏輝が聞けば大きく頷く2人。かくして一向は和服店へと寄り道した。和服店では前回の約束の通り、華恋が他の4人の着物を選んでいた。


「やはり兄様は上背がありますので和装も似合いますね!」

 

「悪くはないが……なんだか落ちつかねぇな」


 夏輝が試着しているのは袴。背が高くガタイもそれなりにあるのでよく似合っていた。


「栞姉様も玲姉様も、スタイルが整っているので良くお似合いです!」

 

「華恋が嬉しそうなのはいいけど……アタシには可愛すぎないか?」

 

「どうどう!?お姉ちゃん似合ってる?」


「はい!お二人ともバッチリです!後は雅義姉様だけなのですが……このお店には無さそうですね」


 キョロキョロと店内を見回す華恋は少し残念そうな声で告げる。


「華恋。何を探してんの?夏輝が好きなモダン和装?」


「いえ……というか兄様モダン和装が好きなんですか?」


「おう。和洋折衷の服装がな。言語化するのはむずいけどなんか刺さる」


「初めて知りました」


「初めて言ったからな」


 華恋は店員を見つけると二言、三言、話すと戻ってくる。その足取りは重かった。思わず雅は華恋に尋ねた。それがとんでもない答えになるとも知らずに。


「華恋ちゃんは私に何を着せるつもりだったの?」

 

「決まってるではありませんか。白無垢ですよ」

 

「!?」


「ブッ……!」


「ほぉ〜……やるじゃん、華恋」


「キャーーー!いいわねー!」


「ここにはありませんがいつか必ず着させますね」


「華恋……お前は何を言ってるんだ……」


 華恋による爆弾発言に4者4様の反応であった。


「もちろん。その時隣にいるのは兄様ですよ」


「尚更、何言ってるかわからん。これから先、俺と雅がずっと隣にいるわけねぇだろ。必ずどこかで道は分かれるんだぞ」


「断言します。絶対に分かれませんよ」


「俺はもうお前の執念が怖ぇよ……」


 夏輝の呟きを他所に赤面したまま雅はしばしフリーズしていた。

 和服店を後にした5人。メンズのファッションショップに向かう最中、雅の脳内には先ほどの言葉が反芻していた。

 (白無垢って……それって結婚式ってことよね……!?つまり私が夏輝君のお嫁さん……無理無理無理!考えただけで恥ずか死ねる……それに……夏輝君言ってたよね。いつか分かれることになるって……華恋ちゃんはそうならないって断言していたけど、この先何があるかわからないものね……今回の旅行で夏輝君をしっかり捕まえなきゃ!)


 雅を見た夏輝が3人に聞く。


「雅は何を百面相してんだ?」


「女の子には色々あるのよ」


「負けられない戦いってヤツ」


「その通りです」


「訳わかんねぇんだけど……あ、俺トイレ行ってきていいか?」


「買い物を始めてから結構経ってるわね……少し休憩にしましょうか。私、飲み物買ってくるわね」


「そうだね。アタシもちょっとお手洗いに」


「あ、私も行きます。ちょっと落ち着きたいので……華恋ちゃんは?」


「私はここで待っています。ちょうど読みかけの本があるので」


「了解。じゃ、また後で」


 夏輝の声と共にそれぞれ別れる。

 数分後、戻ってきた夏輝が見たのは数人の高校生と思しき男子に囲まれている華恋であった。夏輝は背後から近づくと男達に告げる。


「アンタらその子に手ぇ出さない方がいいぞ」


「あぁ?なんだ?テメェ?」


「その子の知り合いだ。とりあえず怪我したくなかったら今すぐここから立ち去れ」


「は?何言ってんの?俺達とやるっての?」


「いやいや……本気だから。な?悪いことは言わないからもう帰れ」


 珍しく夏輝にしては本気の心配さがあった。それもそのはず。彼らがナンパしているのは和の道を極め、武術にも精通している妹。そして真に怖いのが姉2人。そんなこともつゆ知らず男達が去る気配がない。

 

「ホントに帰れよ!命が惜しくないのか!?アンタら下手すりゃ死ぬぞ!?」


 そう叫ぶ夏輝の心境は穏やかではなかった。内心"ガチで相手の男達を心配している&姉2人が来る前にどっか行ってほしい。マジで"としか思っていないのだ。


「こんなヤツ放っておいて俺達と行こうぜ……へ?」


 夏輝を無視して華恋の肩に手を置いた男子。だが次の瞬間、彼の視点は逆さまになっていた。華恋が男子の体重を利用し、そのまますっ転ばせたからであった。それを見た夏輝は思わず呟く。


「おいおい……華恋……ヤベェって。騒ぎにすんなよ……姉貴達が戻ってきたら………あ」


 夏輝の視線の先には栞と玲、そして雅の姿があった。


「終わったな……南無南無………」


「これは一体どういうこと?ウチの可愛い妹に手ェ出すとはいい度胸してんね。アンタら!」


 そう告げる玲を見た男子達はざわめく。それもそのはず。ナンパしていた女の子がまさか自分達が通っている学園の副会長と先生の妹とは思わなかったからである。"白峰の女帝"とも呼ばれる玲は拳から音を鳴らしながらドスの聞いた声で男子に告げる。一歩進むたびに空気が沈む。


「覚悟はいいね?妹に手ェ出したこと後悔させてやるよ」


「ひぃぃぃぃ!なんで女帝がここに!?」


「に……逃げるぞ!」


「本当に申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」


 男子達は素早く立ち上がるとその場をダッシュで去っていった。


「ったく……アイツらのツラ覚えたからな……夏休み明けどうしてやろうか……」


「ダメよ、玲ちゃん。私刑は。私から言っておくわ。成績に響くかもって」


「栞さん……それは脅迫ですよ……玲さんもいくら副会長だからと言って限度がありますからね」


「まぁまぁ玲姉様。華恋はなんともありませんでしたので」


「それでもだよ」


 玲を見た夏輝は思い出した。そういえば今、学園を実質的に取り仕切っているのは玲であったと。生徒会長の"親鸞 司"も人望はあるのだが中々人に強く出ることが出来ない。対する玲は持ち前の気の強さで言いたいことはなんでも言う。しかもフィジカルも強い。司とは正反対である。それに玲が副会長になったのも家柄による押し付けだと聞いている。聞いた当時は"今頃押し付けた人達震え上がってんじゃねぇかな"なんて思っていたが間違ってはいない様だった。


「やっぱ姉貴はおっかねぇなぁ……」


「何か言ったか」


「なんでもないです……」


 しばらくの間、夏輝は蛇に睨まれたカエルの様に冷や汗をかきながら縮こまる。心中では男達にこう吐き捨てていた。


 "良かったな命までは奪われなくて。俺に感謝しろよ……"

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