第四章前編 第3話
その日の夜。夏輝と雅は夏輝のベッドに並んで腰掛け、夏輝のスマホで施設の詳細を確認していた。公式サイトにあるマップをスクロールしながら夏輝が言う。
「遊園地にプールに……すげぇな……水族館まであんのかよ……」
「敷地が物凄く広いね……見て。園内を周遊のバスが走ってる」
「ヤバすぎだろ。もはや1つの街だぞ。そりゃ1日で周りきれるわけねぇわ」
雅はベッドに倒れ込む。舞い上がるのは微かな埃と夏輝の匂い。脳内で夏輝の言葉を反芻するとある言葉に引っかかる。
「プール……プールってことは……!水着用意しなきゃ!」
「そうなのか?前回、茅葺達と行った時ので良いんじゃねぇの?」
「それは……そうだけど……」
「?」
頭にクエスチョンマークを浮かべる夏輝に対して、雅は言い淀む。それもそのはずで"貴方にアピールする為に新しいものを買う"なんてことは言えるはずもなく。口をついて出てきた言葉は……
「い……色々と成長してるから……」
「あ……あ〜……そういう……」
「その反応ヤメテ!そ……それに夏輝君も色々と買った方がいいんじゃない……?」
「それもそうだな……俺もこの際だし、色々と新調すっかな」
雅は夏輝の言葉を逃さない。俯きながらもハッキリとした言葉で問う。
「じ……じゃあ……一緒に色々買いに行かない……?」
「ん、いいぞ」
即答する夏輝。その時、夏輝のスマートフォンが震える。相手を確認すると夏輝は席を外した。
「如月から……?なんかあったっけな……ちょっと出てくる」
「あ、うん。わかった」
「もしもし?如月?なんか用か?」
夏輝が出たのを確認すると雅はベッドの上を転がる。
(さ……誘っちゃった〜〜〜!でもでも、いつも振り回されてるから偶にはやり返さないと割に合わないものね!夏輝君を赤面させる……のは難しいかもしれないけどそれくらいの意気込みでいかなきゃ!)
雅はもう一度チケットを確認する。間違いなく2泊3日、ペアチケットと記載されていた。
「2泊3日……夏輝君と2人きり……」
いざ口に出してみると恥ずかしさが勝る。枕に顔を埋め足をバタつかせる最中、プランの部屋を見ていないことに気づいた。
「そういえば、お部屋見てないな……どんなお部屋なんだろ。流石に1人1室だと思うけど……」
雅は自身のスマホで施設名を検索。宿泊するホテルの名前を打ち込みプランの確認をした。
「え〜っと……ペアプランは……あった……えっと……どれどれ……えっ……?え〜〜〜〜〜!」
なんの気なしにプラン詳細をタップした雅はとんでもないモノを見ると同時に思わず声を上げるのだった。
雅がプランを見て叫ぶ少し前、夏輝は杏梨からの電話に出ていた。
「何用だよ」
『夜分遅くにごめんなさい。大したことじゃないのだけど……』
「なんだよ」
『け……謙也は浮気とかすると思う?』
「はぁ?お前は何言ってんだ?」
予想外の質問に思わず聞き返す夏輝。杏梨は構わず続ける。
『今日、他の子達と少し話すことがあって……あんまり会わないと気持ちが揺らいで他の人に気持ちが向くって……私は仕事柄あまり頻繁に会えないし、人目をしのんで会うことも多いから……」
「なんだそれ……大方、相手の人がそういう原因で別れたって話じゃねぇの?」
『そうだけど……』
「お前さ……アイツが隠れて浮気できるほど器用だと思うか?」
『無理ね』
夏輝の問いに対して杏梨の返事は即答であった。
「それが答えだ。アイツはああ見えてもキッチリしてるタイプだから。浮気なんてしないしできねぇよ」
『そう……貴方がそう言うのならそうなのでしょうね。少し安心したわ』
「時間のある時に電話でもしてやれ。謙也は如月から電話が来ないって俺に愚痴ってくるんだ。旦那だろ?面倒みろ」
『旦那じゃないわよ!でも……電話はしてみるわ……」
「それがいい。ったくこっちがクソ忙しい時に電話してきやがって……」
『何かあったのかしら?』
「いや実はよ……」
夏輝は、これまでの事情を杏梨に話す。杏梨はどこか面白そうな反応であった。
『ふーん。面白そうなことしてるじゃない』
「面白くねーっての」
『チケット貰って、調べたらペアプランでした。面白い以外の感想でないわよ』
「お前それ自分が謙也と同じようになったら笑えるか?」
『………笑えないわね』
「だろ?だから……ん?雅?悪い!切る!」
『えぇ。精々頑張りなさいな』
「何をだよ!切るからな!」
『えぇ、じゃあね』
「おう」
恋している側(杏梨)と恋されている側(夏輝)の話であった。話は続くかと思われたが雅の叫び声を聞いた夏輝は電話を切ると部屋に駆け込んだ。
「どうした!何かあったか!?」
「夏輝君……こ……これ……」
震える雅の手に握られたスマートフォン。その画面にはペアプランの部屋が映っていた。
「はぁ……ただの部屋だろ?それがどうし……!?はぁぁぁぁぁ!?」
「ね!?そうなるでしょう!?」
映っていた部屋は2人一部屋。ダブルベッドというプランであった。普段大したことで驚くことのない夏輝であったがコレに関しては完全に予想外であった。
「いや……は?え?どういうことだ?マジで訳がわからん……脳が理解を拒んでいる……」
「私も……訳がわからないよ……見て、ここ。"当ホテルのペアプランは2人一部屋、ダブルベッドしかございません"だって……」
「マジで……やってくれたな……ボス!」
夏輝の脳内に浮かんだ芽衣は笑いながら"ハッハッハッ!愉快愉快!"と告げた。そんな芽衣を脳内で処刑するとちょうど芽衣からメッセージが届く。
「おぉ……マジか……」
「どうしたの?」
「行きと帰りの新幹線は確保したってよ……」
「なんだかここまで来ると……」
「嬉しさよりも恐怖が勝つな……」
「そうだね……」
若干引き気味な2人を他所に旅行に向けて夜は更けてゆくのだった……




