第四章前編 第2話
芽衣から封筒を受け取った夏輝は、疑いの目を向けながらも恐る恐る中身を取り出す。封筒から出てきたのは1枚のチケットだった。
「なんだコレ?チケット?」
「そうだ。お前、夏休みの大半は入院していただろう?」
「誠に不本意ながらな」
夏輝はキラーホエールに刺された右脹脛をさする。後遺症こそなかったものの、あの時は本当に死ぬかと思ったらしい。
「どうせ課題もその間に終えたんだろう?」
「一応な。もうやる事ねぇよ」
「だからだ。偶には何も考えず羽を伸ばしてくると良い。行き先を見てみろ」
夏輝が見れば、そこは有名な複合遊園地の名前があった。思わず歓声を上げる夏輝。
「おぉ!ここめっちゃ気になってたんだよな!ラッキー!」
「そこまで喜んでもらえるとはな。こちらとしても嬉しいものだ」
「あんま遠出する時間なかったからな……サンキュー、ボス。ありがたく使わせてもらうぜ」
チケット片手に喜びの舞をする夏輝。だが芽衣はそんな夏輝を呼び止めると重い声で告げる。
「だが1つ注意点があってな」
「注意点?」
「そうだ。そのチケットはペアチケットでな。1人では使えないんだ」
「マジかよ……」
表面を確認すると確かに"ペアプランチケット"の文字があった。それを見た夏輝は頭を抱える。
「うげぇ……どーすっかな……一緒に行けるヤツいたっけ……謙也は……そろそろ秋の大会があるから無理だって言ってたし……如月は……俺が謙也に殺されるし……姉貴達となると……喧嘩しそうだな……選択肢なくね!?というか友達が少ねぇ!クソ……リセールして1人で行くか……?」
「もっと周りを見ろ。いるだろう。1人」
「1人……?あ、そうだ。雅いるじゃん。聞いてみっか」
チケット片手にスタスタと雅の元へ。ちょうど累、沙羅、シルヴァと話していたようだった。夏輝は3人に一声かけると雅を引き抜いた。
「あの、少しだけ雅借りてもいいです?」
「えぇ」
「いいよ……」
「ちゃんと返してくださいね」
「わかってるよ……」
快く送り出してくれた2人と渋々と言った1人だが累と沙羅の目は生暖かい視線であった。夏輝に手招きされた雅は頭にクエスチョンマークを浮かべついてゆく。3人から少し離れたところで立ち止まると問いかける。
「どうしたの?夏輝君」
「いや、ボスが遊園地のチケットくれたんだけどよ。ペアチケットでな。頭の中でいろんなヤツを考えたんだが……俺に友達や知り合いが少ないせいで一緒に行けるヤツがいなくて。どうせなら一緒に行こうぜ」
「へ……?」
「雅も俺と同じであの事件以降、ほぼほぼ入院してたしな。最後くらいパーっと遊ぼうぜ」
「………」
「雅?おーい雅」
夏輝の誘いに思わず固まる雅。夏輝が声をかけたり、顔の前で手を振ったりしていると、状況を飲み込んだのか再起動したようで雅は顔を赤くしながら答える。
「いっいいいい……いいよ!一緒に!行こう!」
「そんな前のめりに答えなくても……でも快諾してくれて良かったよ。そうじゃなきゃ俺は1人寂しく遊ぶことになってたからな……雅様々だぜ」
飄々と答える夏輝とは裏腹に雅の脳内はショート寸前であった。頭の中でグルグルと様々な考えが駆け巡る。
(えっ!?遊園地!?どういうこと!?そりゃ夏輝君が消去法とはいえ選んでくれたのは嬉しいけど……いきなりすぎて頭が追いつかないよ……しかも2人!?2人きり!?それってもはやデー……ううん……夏輝君のことだから普通に遊びに行くつもりなんだろうな……それは……ちょっと……)
言葉にするのが難しい感情が起こったタイミングで芽衣が更なる爆弾を投下する。
「勧誘は上手くいったようだな。あぁ、そうだ一つ言い忘れていた事があった」
「忘れていた事……ですか?」
「まさか、期限ギリギリとかじゃねーだろうな」
「ハッハッハッ。まさか。そんなことよりも些細なことさ。そのチケット、2泊3日のホテル付き宿泊チケットだということだけさ」
「2泊3日の……」
「しゅ……宿泊付きですか!?」
「そうだ」
「そんな大事なことを些細なことで済ますなぁ!」
夏輝と雅が揃ってチケットを見れば、そこにはしっかりと"ペア宿泊プラン(朝食付き)"の文字が。
「マジじゃねぇか……雅、どーする……?アレならこのチケットやるから如月とかと行ってこいよ。俺は一緒に行けるヤツいねーし……今度1人で行くからさ」
「それは……イヤ。だって……夏休みの思い出は夏祭りしかないじゃない……それにあの時は杏ちゃんと龍崎君もいたし……私は、2人だけの思い出も……欲しい」
「………」
「さて、どうする夏輝?ここまで熱烈なラブコールをされたんだ。断るのか?」
「ラブッ……!うぅ……」
「はぁ……わかったよ。雅がそういうなら俺に拒否権はねーよ……」
「それでこそ我が弟子だ」
芽衣に雑に頭を撫でられる夏輝と自分の言ったことを反芻してショートしかけている雅を見て、累、沙羅、シルヴァが言う。
「紙飛行機のお兄さんは黒髪のお姉さんなことが好きなんですか?」
「さぁ?どうでしょうか。それは本人達にしかわかりませんわ。ですが深層心理……つまり心の気づかないところで夏輝君は雅さんを気にかけていると思いますよ」
「夏輝君は……雅さんに甘い……と言うより溺愛してるよ……本人に自覚はないけどね」
「難しいんですね……感情は言葉にするべきだってお母さんには習いました」
「歳を重ねる度、関係が固定化しているほどその行為は難しくなるものなのですよ」
「言いたいことは言える時に……言うべきだよ」
それを聞いたシルヴァは、振り向くと累と沙羅の目を見て告げた。
「私は、お姉さん達のことが大好きです!」
「……!ふふっ、えぇ私達も貴女のことが好きですよ」
「うん。私も好きだよ……あの2人も……これくらいハッキリ伝えれば良いのに……見ててイライラする……」
「沙羅ちゃんは時折、毒舌ですわねぇ」
累は沙羅とシルヴァ、夏輝と雅のペアを見るとやれやれと言った表情で告げるが……その声色はどこか嬉しそうであった。




