第三章幕間 第7話
雅に手招きされた夏輝と謙也は2人に合流する。シルヴァは夏輝に気づくが……隣にいる謙也を見て固まってしまった。脳内に過去の出来事が浮かぶ……だがそんな思考は握られた手の温もりで霧散した。
杏梨はシルヴァの手を握り優しく言う。
「あの……えっと……その……」
「大丈夫よ。彼は貴女に危害は加えないわ……彼は……そうね……私の……私の何かしら」
「俺に聞くな。本人に聞け」
「そこは即答してあげようよ……」
夏輝が謙也を見れば、しゃがんでシルヴァに目線を合わせていた。それでもラガーマン特有の体つきの良さは隠せていないが。謙也は、いつもより声の大きさを落としてゆっくり尋ねる。
「こんにちは。俺は、このお姉さんの……パートナーの龍崎 謙也って言うんだ。キミのお名前は?」
「シルヴァと言います……」
「そっか……シルヴァちゃんか……いい名前だ。よろしくね」
謙也は両方の手のひらを上に向けてシルヴァの前に差し出す。何も手に持っていない、丸腰であることをシルヴァに伝える為に夏輝が教えた手段であった。
両手で握手をした後、謙也は立ち上がる。それを見たシルヴァが思わず呟く。
「おっきい……ですね。紙飛行機のお兄さんより大きいです」
「そうね。私は毎回、話す時に首が痛くなっちゃうわ。縮んでくれないかしら。もしくは私に身長を分けて欲しいわ」
「無理だよ!?流石に縮むのは小さくて可愛い彼女の願いでも無理」
「……ッ!」
「痛い……!脛蹴られた……」
「今のはお前が悪い。お前は良くも悪くもストレートすぎる」
「杏ちゃん……照れ隠しでも暴力はダメだよ……」
「問題ないわ。彼、頑丈だもの」
顔を背ける杏梨であったが、耳はしっかりと照れを表していた。謙也はそんな杏梨を見るとシルヴァにドヤ顔で言う。
「こういうところが可愛い」
「これが"つんでれ"というものですか?流れ星のお姉さんは太陽のお兄さんの彼女さんなんですか?」
「そういうこと。ところで太陽のお兄さんって俺のこと?」
「はい!大きくてなんだか暖かく感じるので……」
「そっか〜……太陽か……ちょっと小っ恥ずかしいかも」
照れながらもどこか満足そうに頷く謙也を見て雅が追撃する。
「流れ星と太陽のカップル……いいんじゃない?ね。杏ちゃん」
「………そうね……」
「おぉ……さしもの塩対応モデルも子供の純粋さには勝てなかったか」
「神山うるさい!」
「どうどう……ところで、なんで夏輝は紙飛行機のお兄さんなんだ?」
ガルルルと夏輝に威嚇する杏梨を諌めながら謙也は問いかける。その問いに答えたのは雅であった。
「実は夏輝君、昔はシルヴァちゃんとコミュニケーションを取る為に紙飛行機を飛ばしてたの。最初は受け取った紙飛行機を芽衣さんに渡して答えを書いて芽衣さんが夏輝君に渡すって言う流れだったんだけど……」
「いつの日かシルヴァが折り方を知りたいらしいってボスから聞いてな。折り方の説明を書いて飛ばしたら、飛行機が返ってきたんだよなぁ……」
「あの頃は累さんと事務所を掃除しても紙ゴミが減らなくて……最近は落ち着いたみたいだけど……全く、文通にしてももう少しやり方あるでしょうに」
「アレが俺なりの最善策だったんだよ……あ、コレが本当の"エアメール"なんてな」
「もう……!」
昔を思い出したのか腰に手を当てて頬を膨らませる雅とイタズラっ子のような笑みを見せる夏輝。終始、雰囲気は和やかなまま過ぎてゆく……と思われたがその流れは芽衣からの電話で変わった。
「もしもし?ボス?」
『夏輝か。今どこだ』
「八百屋。シルヴァに会いに」
『そうか。ちょうど私達も到着するところなんだが……沙羅が手伝っているおもちゃ屋の出店で厄介なことになってるらしい。手伝ってやれるか?』
「はいよ。所詮はチンピラだろうし、手早く捻るよ」
『感謝する。では任せたぞ』
「うーっす」
夏輝は電話を切ると、シルヴァにこれから母が来ること、沙羅を手伝いに行くことを伝える。シルヴァは4人との別れに少々名残惜しそうな顔をしたが杏梨に"また会いに来る"と約束してもらうと手を振って4人を送り出したのだった。
おもちゃ屋の前に着くと何やら祭りの喧騒とは違う騒がしさであった。夏輝達が人混みを掻き分けると目に入ったのは複数のヤンチャそうな風貌の男達がスマートフォン片手に沙羅とおもちゃ屋の店主を囲んでいた。夏輝は店主達と男達の間に割って入る。突然現れた夏輝に男達は口々に吠えるが無視して沙羅に問う。
「はいはいストップストップ。沙羅先輩、一体何があったんです?」
「あ……夏輝君……」
「夏輝!?よく来てくれたぜ!聞いてくれよ!コイツらがな、俺の射的は細工をしてるって言うんだよ」
「細工ぅ?」
夏輝が射的の的を見れば、大小様々な景品の他に高額ゲーム機の引換券やプラモデルの引換券等が的として設置されていた。的を見る夏輝に男の1人が吠えた。
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!倒れねぇように固定してんだろ!それで客から金巻き上げてんだろ?あぁ!そうじゃなかったら俺達が集中砲火して倒れねぇのはおかしいもんなぁ!」
「貴方達が……ヘタクソなだけ……」
「なんだと、クソガキ!」
「……!」
「沙羅先輩、ステイ」
思わず飛びつき締めを行おうとする沙羅を慌てて制する夏輝。続けて店主が言う。
「固定なんてアコギなことはしてねぇぞ!多少の錘はあるが倒れないなんてことはない!」
「は!どうだか!こんなの詐欺だぜ!詐欺!誰か警察呼んでくれ!」
「なぁ、おっちゃん。俺がやってもいいか?」
「おいおい勘弁してくれ……また俺の店が素寒貧になっちまう……」
夏輝は銃を手に取り片手で構える。しかしそれに異議を唱えたのは男達だった。
「待て!お前達、顔馴染みのグルだろ?ワザと倒れやすい景品を狙わせる気だな?騙されると思うなよ!この詐欺師め!」
「お〜……マジか……そう捉えられるのか……」
「しょうもない言いがかりだね……」
「うるせぇぞ!クソガキ」
「……!」
「沙羅先輩、ステイ」
周囲を見回した夏輝は雅に銃を渡すと、衝撃の一言を発した。その一言は雅を一瞬硬直させるには十分であった。
「雅、お前が撃て」
「え……?」




