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第三章幕間 第6話

「お騒がせいたしました……」


「ホントにな」


 4人の前で深々と頭を下げる華恋。夏輝の呆れ返ったような返答の後、尋ねる。


「して兄様。こちらのお二人は?」


「俺の友人」


「こんちは。俺は龍崎 謙也。それでこっちが彼女の……」


「如月 杏梨よ。よろしく」


「これはご丁寧に。いつも兄が世話になっております。妹の神山 華恋と申します。どうぞ、よろしくお願いします」


「礼儀正しい子ね」


「あぁ。夏輝とは正反対だ」


「どういう意味だコラ」


「まぁまぁ……夏輝君、落ち着いて」


 謙也と杏梨の評価に不服そうな夏輝。雅は夏輝を諌めながら華恋に聞いた。


「それで、華恋ちゃんはここで何を?」


「私はここのお手伝いです。レンタル浴衣の着付けや選定のお手伝いをしています。皆様の浴衣を選んだのは芽衣伯母様ですか?」


「あぁ。たぶんな」


「なるほど……」


 華恋は4人を見回すと思う。


 (芽衣伯母様……さすがと言うべきですね……兄様と雅義姉様、ご友人の龍崎さんと如月さんを自然にペアルックにしている……考えていることは私と同じでしたか……悔しいですが今回は負けを認めましょう……)


「兄様」


「うん?」


「芽衣伯母様にお伝えください。次は負けないと」


「華恋は何と戦ってんだ?」


「聞かないでください。この戦、負けるわけにはいかないのです」


「俺はお前がわかんねぇよ……」


 半ば呆れ気味で返答する夏輝。華恋から沙羅はおもちゃ屋、シルヴァは八百屋でお手伝いしていると聞き、4人はそちらへ向かうのであった。

 八百屋まで後少しというところで夏輝が他の3人に言う。


「残念だが、俺と謙也はここまでだ」


「は?どういうことだよ。夏輝、説明してくれない?」


「私も謙也と同意見よ。何か理由が?」


 謙也と杏梨は理由を問い詰めるが事情を察した雅だけは何も言わなかった。夏輝は2人にシルヴァ何故ここにきた経緯を話す。国際的な人身売買組織で酷い扱いを受けていたこと。対人恐怖症、特に男に対して極端な警戒を見せること、様々な要因が重なって芽衣の娘になったこと。全てを話した。


「そっかー。なら俺と夏輝は待機が1番かぁ。向こうからアクションを起こさない限りは動かない方がいい?」


「安牌はそうだろうな。シルヴァにとって知らない人、ましてや男と話すのはかなり勇気がいるし、強いストレスがかかる。もちろん、寛解させるのが1番いいが……世の中そんなに甘くない。シルヴァのスピードに合わせるしかないんだよ。その為に俺達男性陣が出来るのは怖がらせないことだけ」


「でも夏輝とはある程度話せるんじゃないのか?」


「周りに頼れる大人がいればな。2人きりはまだ無理だ。流石に泣きそうになられるとこっちの心にクる」


「夏輝は結構繊細だもんね」


 謙也は杏梨を一目見ると続ける。


「杏梨は?杏梨は大丈夫なのか?」


「女性ならまぁなんとか……ただ……」


「ただ。何よ。ハッキリ言いなさい」


「髪色でリアクションあるかもしれんけど……気にしないでやってくれ」


「わかったわ」


 夏輝は雅を見ると短く伝える。


「悪いが頼んだ。シルヴァが大丈夫そうなら呼んでくれ」


「OK。任せて。杏ちゃん、行きましょう」


「えぇ」


 八百屋に向かう雅と杏梨を見送る2人。周囲に聞こえるように少し大きな声で話す。


「それにしてもお前の彼女はなんでも似合うな」


「そっちのお連れさんこそ」


「訳あって離れてるが……変に声かける輩がいたらどうするよ」


「ん〜……自分でも何するかわかんないかな」


「同感だ」


 夏輝と謙也が眼光鋭く周りを見回すと、視線を逸らす者や顔を明後日の方向に向ける者が散見された。2人は顔を見合わせる。


「こんだけわかりやすけりゃいいだろ」


「だね。これで行動起こすヤツは勇気を超えて無謀だよ」


 再び八百屋を見れば、雅が2人に手招きしていた。どうやらファーストコンタクトは上手くいったようだ。夏輝は謙也にシルヴァとの接し方をおさらいすると2人で向かうのだった。



 雅は杏梨と共に八百屋へ赴く。しかし店先にシルヴァの姿はなかった。訪れた雅と杏梨を出迎えてくれたのは年若い八百屋の一人娘だった。


「お!雅ちゃん!いらっしゃい!」


「こんにちは。シルヴァちゃんに会いに来たんですけど」


「シルヴァちゃんなら、今は奥でお婆ちゃんの手伝いをしてるよ。もうすぐ出てくると思うからこれでも食べてちょっと待ってて」


 娘から手渡されたのはよく冷えたスイカ。既にカットされており、手を汚さずに食べられるようになっていた。


「ありがとうございます」


「それで雅ちゃん。そちらは?」


「私の友達の……」


「如月 杏梨と言います」


「如月……?杏梨……もしかして、モデルの?」


「えっと……一応……」


 それを聞いた娘は少々興奮したように捲し立てる。


「凄い!本物だ……!私、貴女のファンなの。いつも応援しているわ」


「ありがとうございます……」


「雅ちゃんも凄い人と繋がりがあるのねぇ……あら?そういえば夏輝君は?君達のことだから夏祭りデートでもしてるものかと」


「デッ……!違います!今、杏ちゃんの彼氏と向こうで待機してもらってるんです。シルヴァちゃん怖がらせるといけないので……」


「なるほどねぇ……ダブルデートって訳か……」


「だから!デートじゃありません!」


「あむ…………甘いわね…‥コレ……」

 

 シャクシャクとマイペースにスイカを食べる杏梨と対照的に雅は頬を染めながら否定する。しばらくすると店の奥から老婆と浴衣姿の少女が現れた。


「おやおや……元気なお客様だと思ったら……よう来たね。みやちゃん」


「あ!黒髪のお姉さん!」


「シルヴァちゃん!お婆ちゃんも」


「雅。その子が例の?」


「そう。シルヴァちゃん」


 杏梨がシルヴァを見るが、シルヴァは一瞬固まった後、八百屋の老婆の服の裾を掴むと後ろに身を隠す。その対応により杏梨は少し沈んだトーンと顔で雅に聞く。


「私……何かしたからしら……」


「そんなことはないと思うけど……」


「シルヴァちゃんや。この娘さんは、目つきこそ鋭いけども、みやちゃんのお友達さ。大丈夫。一度話してごらん。きっと悪い人じゃないさ」


「はい……」


 その言葉におずおずと出てくるシルヴァ。杏梨もしゃがんで目線を合わせると軽い自己紹介を行った。


「怖がらせたのならごめんなさい。目つきが悪いってよく言われるの。私は如月 杏梨。貴女は?」


「えっと……シルヴァと言います……」


「そう。よろしくね」


「よろしくお願いします。流れ星のお姉さん」


「流れ星?どうしてそう思ったの?」


 シルヴァの返答に雅と杏梨は首を傾げる。疑問に思った雅が聞くとシルヴァは答える。


「お姉さんの髪……黒い中に金色のラインが綺麗で……それがお母さんと見た……流れ星みたいだなって……お姉さんに3回お願いすれば願い事は叶いますか?」


「……!……流れ星……ふふっ……そうね、叶うかもしれないわね。そう……流れ星……ね。初めて言われたわね……子供の感性は純心で面白いわね」


 それを聞いた杏梨は自身の前髪にある金のメッシュを撫でながら優しく微笑むのだった。

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