第三章幕間 第5話
夏祭りの会場は神社へ続く商店街であった。この商店街は突き当たりに大きな社があり、商店街にある各店が出店を展開している。
夏祭りの特有の提灯の灯りと喧騒を聞きながら夏輝達はカラコロと履き物を鳴らし練り歩く。
「初めて来たけど……すごい活気ね」
「毎年やってるからな。この辺じゃ結構有名だ」
「懐かしいね。昔はよく連れてきてもらってたっけ」
「焼きそば、串物、たこ焼き……グルメも多いな。こういう祭りの飯って何故か普段より美味く感じるんだよなぁ。俺は既に腹ペコだ」
「なら周りながらなんか食べ歩くか」
夏輝は財布の中にある大量の商品券を見る。4人で使いきれるかどうかという量があった。
(ボス達も酔いどれメカニックの酔いがある程度醒めたら来るとは言ってたが……たぶんボス達も持ってるだろうな……使い切れるかわかんねぇや……)
雅と杏梨を先頭に、その後ろを夏輝と謙也が歩いてゆく。何かいいものはないかと見回していると、ふと聞き慣れた男性の声がする。向けば肉屋の主人が手を振っていた。4人が肉屋へ到達すると主人が話す。
「よぉ!夏輝!」
「よ。おっさん。今年も出店してんのか」
「たりめぇだろ!夏の稼ぎどきだぜ?売らなくてどうする。どうだ?なんか買っていくか?」
肉屋の出店には、コロッケ、ミンチカツ、焼き鳥各種など多彩な惣菜が並んでおり、どれも片手で食べられるものであった。
「どれにすっかな……お前らは何にするよ」
「ん〜……私はコロッケにしようかな。杏ちゃんは?」
「私は……よくわからないから雅のオススメにするわ」
「俺は鶏モモ串5本ください」
「最初から飛ばすな……なら俺は……」
夏輝が注文しようとしたところで主人が遮った。
「お前の頼むものなんざ聞かなくてもわかる。鶏皮串3本。タレだろ?いつも雅ちゃんと分けてたもんなぁ……今から目の前でそれぞれ焼いてやる。待ってろ」
「流石……サンキュー」
鶏モモ串と鶏皮串を炉端焼きにセットすると炭火でじっくりと焼いていく。うちわで串を仰ぎながら主人が尋ねた。串物に塗られたタレの香りがうちわに煽られ漂ってくる。
「それでよ。夏輝、お揃いの浴衣着た美人さんは?彼女か?それとも嫁か?」
「ちげーよ。雅だよ。覚えてねぇのか?」
そう言われた店主は驚きで目を丸くする。先に出来上がったコロッケを夏輝に渡すと続ける。
「本当か!?かぁ〜!偉い美人になっちまって……わからなかったぞ!」
「俺達も成長したんだよ。ほら、雅。熱いから気付けろよ。如月も」
「あ……ありがとう」
「ありがと」
コロッケを雅と杏梨に渡しながら夏輝がそう返す。
「俺は初め、お前が彼女か嫁さんを連れてきたんじゃねぇかと思っちまったぞ」
夏輝はコロッケに齧り付く雅を見てから告げる。
「彼女はまだしも嫁って……俺はまだ高校生だぞ?それにそんなの俺に出来ると思うか?見た目は成長しても中身はクソガキのままだぜ?」
「男は皆そんなもんよ。ほらよ商品だ。そっちのお兄さんも」
「サンキュー」
「ありがとうございます。めっちゃ美味そう」
「また来いよ!」
商品を受け取り、商品券で支払いをすると主人の声を背に受けてまたも商店街へ繰り出す4人だった。
「美味しいわね……コレ。次の現場の差し入れにしようかしら」
「俺にもちょっとちょうだい」
「貴方……5本も食べたのにまだ食べられるの?」
「余裕余裕。まだ一分目にもなってない」
「しょうがないわね……」
特に戸惑うこともなく自身の食べかけを謙也に食べさせる杏梨を見て、雅は僅かな羨ましさを感じていた。そんな時、横から串が突き出される。見れば夏輝が一本差し出していた。
「ん」
「えっ……!?えぇっ!?」
「食わねぇの?」
雅は夏輝の顔と串を何度か交互に見た後、意を決して串を咥える。串を引き抜いた夏輝は咀嚼する雅をよそに口周りの汚れを拭き取ってやると雅が口を付けた残りを躊躇なく食べる。それを見た雅の内心はどうして平然とそんなことができるのか半ばパニックであった。
(なんでそんな平然としてるの……!?そりゃ昔はよくやったけど……!夏輝君にはこれが普通なの!?私にはもうわからないよ……!)
頬を真っ赤に染めて意識している雅と対照的に夏輝からすれば昔からの慣習のようなもので特別意識しているわけではなかった。全ての串を食べ終えた夏輝。ゴミを捨てたタイミングでスマートフォンが震えた。差出人はなんと華恋。"呉服屋で手伝いをしているから時間があれば来て欲しい"とのことであった。
「ちょっと呉服屋寄ってもいいか?」
「呉服屋?何かあるのか?」
「妹が手伝いでな。それに普段から妹の和服なんかでも世話になってるから挨拶はしておきたいんだ」
「なら行きましょうか」
呉服屋に向かう最中、謙也が夏輝に言う。
「夏輝の妹さんか……写真で少し見たかけたことがあるくらいだな」
「普段は寮生活してるしな。顔合わせることも少ないよなぁ」
「なら、俺に紹介してくれよ。仲良くなりたい」
「は?ぶっ殺すぞ」
「何?彼女の横で浮気宣言かしら?」
答える杏梨と夏輝の声は冷たく、目は人を射殺せる眼光であった。
「こっわ……友人と彼氏に向ける目つきと声じゃねぇぞ……」
「冗談、冗談。1割冗談」
「世間ではそれを本気というのよ」
4人は呉服屋の前に到着した。表の立て看板には"浴衣レンタル"の文字。夏輝が店の奥を覗こうとすると誰かが出てきた。
「いらっしゃいませ。ようこそ………って兄様ではありませんか」
「よっ。呼ばれたから来たぞ」
「こんにちは……もうこんばんはかな。華恋ちゃん」
「雅義姉様まで!ちょうど良かったです!私、兄様と雅義姉様に浴衣を選ぼうと………」
夏輝と雅の服装を見るとルンルン気分だった華恋の勢いがなくなる。膝をつくと嘆いた。
「どうして!私が兄様と雅義姉様の浴衣を選ぶつもりだったのに!」
「いや……これはボスが用意したものでさ……」
「あぁ゛ーっ!芽衣伯母様ぁーっ!」
「気持ちは嬉しいよ。華恋ちゃん……華恋ちゃん?」
「ウグッ……ヒック……うぅ……」
「そんなガチ泣きするほどか!?」
「今度、和服屋のお買い物に付き合ってあげるから……とりあえず落ち着いて。ね?」
「わだじの脳内プランがぁー!柄も帯も全部ぎめであっだのにー!」
まさかの号泣に驚く夏輝と慰める雅。この光景を見て謙也と杏梨は思うのだった。
((兄妹揃ってキャラが濃い……!))




