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第三章幕間 第4話

「雅君。その辺にしたまえ……夏輝が限界だ」


 芽衣の言葉で夏輝を見ればかなり応えたようで僅かながらションボリしているようであった。


「もう………反省した?」


「はい………」


「んにゃあ〜!まらまら!嫁さん!もっろ言ってやれ!もひくはわらしの婿になれ!」


「え!?」


「それはちょっとごめん被りたい。助手さんは?あの人いい人だろ」


「アイツはらぁ〜……悪くないんらけろなぁ〜……そんなことより酒よこせ酒ぇ!」


「おめーは飲み過ぎなんだよ!」


 夏輝が見れば、透子は既に2本目の一升瓶を空にしており、どこから取り出したのか3本目を開封していた。とんだ酒癖の悪い酒豪である。

 芽衣は透子の手から一升瓶を奪うと累に言う。


「あぁ〜……らにするんですか芽衣しゃん!わらしのれすよ!返してくらさい〜!」


「透子。飲み過ぎだ。累、透子の酔いを覚ましてやれ」


「そうしたいのは山々ですが………少々手に負えないかもしれませんわ………」


 そう告げる累の視線の先にはまるで駄々っ子のように暴れる透子がいた。


「大の大人がこれでいいのか……しゃあねーな……ちょっと待ってろ」


「夏輝。どうするつもりだ?」


「まぁ見てなって……この強度ならいけるだろ……」


 夏輝は戸棚から麻縄を取り出すと強度を確認。それを持って透子に近づくと一瞬で簀巻きにした。


「これでいいだろ」


「解け〜!解放しろ〜!」


「ちょっとは反省しろ!酒飲みめ!」


「素晴らしい手際だな」


「えぇ。さすが我が社のエースですわね」


 素早い手際に感心する芽衣と累をよそに、夏輝の正体を知らなかった謙也は少々驚いたようだった。簀巻きにされている透子と口論する夏輝を見ながら呟く。


「何が起きたんだ?俺には見えなかったんだけど……」


「謙也、気にしなくていいわよ。私も見えなかったから。アレが神山の本来の仕事よ」


「えぇ………俺、夏輝とは付き合い長いけど知らないことばっかだな」


「私も知らないことだらけだよ?」


 杏梨と謙也の会話に割って入ったのは雅。その発言にまたも謙也は驚く。


「マジ?幼馴染だからなんでも知ってると思った」


「あはは。無理無理。私はエスパーじゃないもの。つい最近まで命を賭ける仕事をしてるなんて知らなかったもの……」


「………そんなに悲観しなくてもいいんじゃない?これからもっと知ればいいだけだし、たぶん夏輝も案外神崎さんのこと知らないと思うよ。幼馴染特有の距離ってあるとは思うけど、それはお互いを知ることに関係ないと思う。少なくとも俺と杏梨は神崎さんのこと応援してるから」


「そう……ありがとう」


 謙也に礼を述べる雅だったが気になるワードに引っかかる。


「待って?応援してる?」


「うん」


「え……?もしかして………」


「諦めなさい、雅。貴方の神山に対する感情は周囲からはバレバレよ。気づいていないのは当の本人だけ」


「いや〜……あんだけわかりやすいのに夏輝が気づかないのは……ちょっと同情するね……アイツ人の気持ちには敏感な方なのに」


「おそらく幼馴染ゆえの距離感ってやつね。雅、もっとアピールしないと不味いわよ……雅?」


 謙也と杏梨が雅を見れば、顔を赤くして蹲っていた。かなりの大ダメージのようである。雅がそんな状況であるとは露知らず、芽衣は夏輝と謙也を一瞥すると告げる。


「さて……女性陣は着飾れたが……問題は男性陣だな」


「私達でセットアップできるのは女性陣だけですものね……どこかに男性の着付けができる方がいればよろしいのですが……」


「その通りだ。どこかにいるといいが……」


 芽衣と累の視線の先には、簀巻きにされた透子を足蹴にする夏輝がいた。視線に気づいた夏輝は2人に問う。


「なんだよ……こんな酒飲みモンスターを解放する気はねーぞ」


「なんらとぉ〜!お前はわらしをなんらと思ってんら!」


「酒癖の悪い酒豪メカニック」


「んむぅ……間違ってらいら……」


「認めるのかよ……」


 透子の答えに呆れる夏輝。そんな夏輝に芽衣は告げる。


「お前達。浴衣を着るつもりはないか?」


「浴衣ぁ?俺は着るつもりないぞ。あの服じゃいざという時走れねぇだろ。足元も覚束ねぇし。近接格闘には向いてねぇ」


「視点が野蛮だな」


「完全に染まりきってますわね。芽衣さんの教育のせいでは?」


「俺は着てもいいですよ。どうせなら杏梨とお揃いがいいです」


「……!いきなり恥ずかしいこと言わないで………」


「やはりこちらが正常だな」


「2人がこうなるのはどれだけ先でしょうか……」


「わからん………夏輝。お前に拒否権はない。大人しく着替えてこい」


「えっ……ちょ……!待てって……!」


 抵抗虚しく夏輝は首根っこを掴まれると隣の部屋へ文字通り投げ込まれる。続けてニコニコ顔の謙也も入るとドアが閉まるのだった。

 部屋の中では夏輝が謙也の浴衣を着付けていた。謙也は素朴な疑問を夏輝にぶつける。


「なんで着付けなんかできるんだ?」


「色々理由はあるが……第一にボスから叩き込まれたってのはあるな。次に妹が和装をするからな。何かあった時に対処できねーのはカッコ悪いだろ?そういう理由」


「ふ〜ん……なんか夏輝もちゃんと普通の高校生っぽいな」


「どういう意味だよ」


「いや。命懸けの仕事をしてるから勝手にスーパーヒーローみたいに感じてたけど、やっぱり夏輝は夏輝だなって。昔から変わらないな」


「意味わかんね。俺は俺だぞ」


 帯の微調整を終えると夏輝は謙也の両肩を叩く。

 謙也は杏梨と同じく黒を基調としたもの。浴衣自身ではなく帯に杏の花がワンポイントされている。

 夏輝も手早く自分のものを着ると鏡でチェックする。

 夏輝は雅と同じ白を基調とし紺の幾何学模様が入ったもの。帯は雅と同じ紺色である。


「ご丁寧に足袋まで用意してある……ボスは初めから着させるつもりだったな……」


「足袋なんて初めて履くな……」


「たぶん俺達が履くのは雪駄だろうな。鼻緒でダメージ貰わないように履いておいたほうがいい」


 足袋を履いた2人は、雅達が待つ部屋へ戻るのだった。


 一方の雅と杏梨はソワソワしていた。それもそのはずで普段見れない2人の姿を見ることができるからである。やがて夏輝と謙也が部屋から出てくると2人は息を飲む。それもそのはず。方や上流家政戦闘組織で働く好青年。方や現役の高校ラグビー日本代表選手。その体つきと顔付きで和装が似合わない訳がなかった。夏輝と謙也が芽衣と何か話していたが頭に入ってこない。雅と杏梨は少し距離を取るとヒソヒソと話す。


「予想外に似合ってるね………」


「想定外だわ……謙也の服装はいつもユニフォームかトレーニングウェアのような格好しか見たことないから……」


「夏輝君も普段はTシャツにジーンズとか仕事の執事服しか知らないから……ギャップが……」


「大きいわね……私、心臓持つかしら……」


「私も……」


「2人共、ボスが近くまで送ってくれるってよ。行こうぜ」


 夏輝の呼びかけにビクリとする2人。しかしなんとか平然を装うと夏輝と謙也にエスコートされベティーに乗り込んだ。こうして4人を乗せたベティーは夏祭りの会場に向けて出発した。

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