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第7話

「ただいま」


 重い足取りで玄関のドアを開けた俺を迎えたのは、何かがぶつかった衝撃と質量だった。こんなことするのは1人しかいない。少なくともウチの番犬2頭は優秀だから無闇にこんなことしないし。


「栞姉……離して……」


「ダメよ。今日も1日頑張った弟を癒してるんだから」


「とりあえず……玄関から移動したい」


「もう……仕方ないわね」


 そういうと栞は、一度ハグを解いた。彼女の横を抜けて自分の部屋へ荷物を置きに行こうとした時、今度は後ろから捕まえられた。


「あの……部屋行きたいんだけど」


「先にお風呂に入りなさい」


「荷物あるんだけど」


「ならお姉ちゃんが持っていってあげる」


 そういうが否や、栞はリュックを引ったくると2階に行ってしまった。そう。彼女が外で見せない一面とはこの溺愛ぶりである。しかも対象は俺だけではなく、玲や妹の華恋、はたまた雅にまで及ぶのだ。リビングに行くとすでに玲と雅は帰っていた。


「お、おかえりー」


「おかえりなさい」


「ただいま。とりあえず風呂入ってくる」


「お前で最後だから。洗濯機回しといて」


「ん」


 パーカーとブレザーをハンガーにかけ、風呂に行こうとするとちょうど栞が降りてきたところだった。


「あ、ちょうどいいじゃん。栞姉もお風呂入ってきなよ。今から夏輝が入るって」


「おい。姉貴」


「あらあら。そういうことならお姉ちゃん一緒に入っちゃおうかな」


「ウキウキで服脱ごうとするのヤメろ。せめて脱衣所に行け」


 栞を押し出して風呂に行かせる。なんだろう。家にいるのにドッと疲れている気がする。玲を見ればクスクス笑ってるし、雅もなんとも言えない顔をしていた。


「姉貴さぁ……」


「ほらほら早く入ってきなよ。栞姉。アンタが来るまでたぶん待ってるよ」


「クソが……」


 そう吐き捨てるとしぶしぶ風呂に向かう。脱衣所にはすでに栞の姿はなく、シャワーの音が鳴っているだけだった。


「栞姉。後どれくらいで出る」


「夏輝君が入るまで出ません」


 あぁ……やっぱり……こうなると栞姉は意地でも揺るがない。玲や雅とは銭湯なんかで一緒に入る機会もあるからそこまで固執しないんだけど、俺に関しては普段から入れないからえらく頑固になるのだ。

 見られて困る様な体つきをしている訳じゃないが……はぁ……仕方ない。入るか。


「わかった。入るぞ」


「待ってましたー」


 入った俺に手渡されたのは、ボディタオル。洗えってことか。


「洗えばいいんだな」


「わかってるじゃない」


「なんで風呂なんて一緒に入りたがるのかねぇ」


「裸の付き合いってヤツ」

 

そう言って栞はシャワーを手渡してきた。仕方なく、いつものように体を流してやる。

 

「何から何までやらせるなよ」

 

「たまには甘えてもいいじゃない」

 

泡立てたシャンプーで髪を洗ってやりながら、ふと思う。こう見えて、栞姉は俺たちを本当によく見てくれている。 

その後、無理矢理交代させられて、今度は俺が洗われる番に。ほんと、家にいても気が休まらない。


「本当に大きくなったねー」


 なんか事あるごとに言われてる気がする。でもあまり両親に会えない身からすると普段からこうやって自分のことを見てくれている人がいるってのはいいものだ。

 だから余計にヤバいバイトやってること話しにくいんだよな……

 風呂から上がると、リビングでは既に夕食の準備が進んでいた。


「今日の晩飯なに?」


「今日はカレーにしてみました。この前夏君が教えてくれたレシピを元に」


 そういって4人分のカレーを盛るとそれぞれ食べ始める。美味いなコレ。

 食事が終わった後、話題はもっぱら交流会のことにだった。


「そういえば、今年はこのイベントの為に外部から給仕を雇ったって話が出てたのよね」


「そういえばありましたね。学園の予算じゃなくて学園長がポケットマネーで雇ったとも聞きましたし」


「なんかあるのかもね。それと今年の交流会から夜の部があるから参加者が去年より増えるかもって。名簿とかめんどくさいから勘弁してほしいわ。栞姉は?なにか職員間で話しあった?」


「んーー……特にコレといってはなかったわよ」


 この話題怖すぎんだろ……変な汗かくわ。はよ退散しよ。そう思っていると雅から質問が飛んできた。


「そういえば夏輝君」


「うん?」


「えっと……交流会、もし良かったら一緒に行かない?」


「えーっと……」


 バイトで行くとは言いづらいなぁなんて思っていると思い切り足を蹴られた。見ると素知らぬ顔でコーヒーを啜る玲がいた。だが、どれだけ攻撃されようが断るしかない。だって仕事なのだから。


「悪い。その日はバイトが入っちまって。たぶん終日無理かもしれない」


「そ……っか……なら仕方ないね」


 そういう雅の顔はどこか寂しそうな笑顔だった。すまない。参加は参加でも雇われる側なんだ……とは言えんわなぁ。仕事の内容が内容だし……と思いながらふとスマホに目を落とすとメッセージアプリに通知が来ていた。先出人は……謙也?

 アプリを立ち上げ内容を見るとそこには一言『今、話せるか』とだけ届いていた。『どうした』と送るとすぐに既読がついた。


『少し話がしたい』


『メッセじゃダメなのか』


『なるべく記録に残したくない。それにコレはお前に一番関係あることだ。とにかく一度話したい』


 アイツにしては珍しくしつこい。いつもはサクッと諦めるものなんだが。これは本当に何かあったパターンか。


『わかった。少し待っていろ』


『了解』


 姉貴達に部屋に戻ると告げ、自分の部屋へ。そのタイミングで謙也に電話をしてみた。3回ほど呼び出し音が鳴ったところでアイツは出た。


「もしもし?謙也?どうしたんだ。あんな文面」


『悪いな。団欒中だったか?それとも神崎さんと乳繰り合っていたか?』


「切るぞ」


『ごめんって。連絡したのはお前のバイトについてだ』


「バイト?」


『そうだ。単刀直入に言おう。お前"Perfect Clearing"でバイトしてるだろ』


「ッ……!」


 驚きのあまり声が出なくなってしまった。なんでだ。どこでバレた。


『その反応、アタリみたいだな』


「なんのことやら……」


『誤魔化さなくてもいい。写真もある』


「……何が目的だ」


 まさかコイツに脅される日が来るとはな。要求は何かと聞いてみると返ってきたのは思ってもいない返事だった。


『安心してくれ。写真をバラまいたり、お前の家族や神崎さんにいうつもりはない。ただ、確かあそこって家事だけじゃなくてボディガードとかもやるんだろ?こっちの界隈では結構話題になるぜ』


「まぁな……家族や雅には俺がそういう仕事柄ってのは言ってないし、皆ただの家事代行サービスって信じてるからな」


『だろうな。まぁさっきも言った通りバラそうとは思わないさ』


「拍子抜けだな。何か要求するのかと」


『お?なんだよ。脅して欲しかったか?』


「そうじゃねーが……俺が気になるんだ。一つ貸しにしておいてくれ」


『律儀だな。いいぜ、この切り札をいつ使うか楽しみだ』


「無理難題には応えられないぞ」


『わかってるさ。じゃ、また明日な』


「じゃあな」


 そういうと龍崎は電話を切った。やってしまったな。不注意とはいえバレてしまうとは。まだ謙也だったから良かったものの、他の誰かだとどうなっていたことか。

 そんなことを思いながら俺は眠る為にベッドに潜り込んだのだった……なんか甘い匂いするな。栞姉ベッドにダイブしやがったな……

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