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第三章幕間 第2話

時は流れ夕刻。夏輝と雅は芽衣の言いつけ通り事務所に来ていた。その傍には友人である龍崎 謙也と如月 杏梨の姿もあった。


「ここが夏輝の仕事場かー……初めて来たな」


「厳密には仕事場じゃねぇけどな。俺達は派遣方の家政サービスだから」


「でも本拠地でしょう?私が依頼した時も打ち合わせはここでやったじゃない」


「まぁな……事務仕事はここでやるな……俺は斥候担当だからあんま関与しねーけど」


 夏輝は徐に立ち上がると、芽衣のデスクにあるデスクトップPCでメールを流し見る。特に急ぎの案件はなさそうだが……1つのメールが目に止まる。差出人は例のメカニックであった。


「イカれメカニックから?なんの要件だ……」


 送られてきていた内容は"今日、そっちに行くからこの間のメールの件について、クソガキに覚悟するように言っておけ"とのことだった。それを見た夏輝はそっとメールを未開封に戻した。思い当たる節が多過ぎて見て見ぬふりをしたのだ。夏輝は咄嗟に考える。


 (この前のメールってどれのことだ?使用所感に納期と婚期の遅れについて書いたことか?いやこれは違うだろう……アイツがこんなこと気にする訳がない……ならベティーをバラして絶妙に使わないシステムを消したことか……?たぶんこれも違うな……どのメールだ?)


 夏輝が悩んでいるのを尻目に来客用のテーブルに座る3人にヒールの音が聞こえた。

 ヒールを鳴らし近づいてきたメイド服に身を包んだ累が3人に告げる。


「お忙しいところお呼び立てして申し訳ありませんわ。時期に芽衣さんが来ますので、もうしばしお待ちを。皆様、お飲み物は何になされますか?」


「えっ……と……痛……!」


「私はアイスティーで」


「私も同じものをお願いします」


 杏梨は向かいに座るおそらく累に見惚れているであろう彼氏の足を蹴り飛ばし注文した。雅も同じものを告げた後、それに続く様に謙也はアイスコーヒーを頼んだ。


「かしこまりました。しばしお待ちくださいまし」


「あ、私も手伝います」


「構いませんわ。今日はお客様ですから、お座りになってお待ちくださいまし」


「そういうわけには……それにここに来てじっとしているのはなんだか落ち着かなくて……」


「そうですの……ではお言葉に甘えさせていただきますわ」


「雅ー。共用の冷蔵庫から瓶サイダー持ってきてくれー」


「自分で取りに行きなさいな……全く……!しょうがないわね」


 雅はデスクトップPCと睨めっこしている夏輝に対してやれやれといった表情で返すと、累と共に簡易キッチンに消えた。その光景を見ていた謙也と杏梨は思わず溢す。


「アレで夏輝と神崎さんの間には何もないのか………」


「神山はわからないけど……雅も今の状況に満足してそうなところあるわね……ホントに進展する気あるのかしら……」


 見守る2人の気持ちなぞ微塵も知らない当事者達である。

 数分後、累と雅がキッチンから戻ってくる。そこで夏輝は事務所にある人物がいないことに気づいた。雅から瓶サイダーを受け取ると累に問う。


「そういえばシルヴァは?」


「シルヴァちゃんなら沙羅ちゃんとお祭りのお手伝いに。最近は少しずつですが人と話せる様になってきましたので、練習がてら」


「なるほどね……会場で見かけたら挨拶しとくか」


「皆、いるようだな……そこの2人だ。累、連れて行け」


「はぁい」


「えっ……!?」


「ちょっと……!?」


 4人に声をかけたのは芽衣。いきなり杏梨と雅を指差すと累に隣の部屋へ連行する様に告げた。突然のことに理解が追いつかないまま、雅と杏梨は別室へと消えた。芽衣は、2人に少し待つように告げると自身も別室へ。事務所内には夏輝と謙也の2人が残されたのだった。


「一体何するつもりなんだろうな……」


「わかんねぇ……ボスは割と勢いで色々やるところあるから……まぁ、悪いようにはならんだろ。気楽に待ってようぜ」


 ソファーにもたれかかると夏輝は呑気に雑誌を読み耽る。手にした雑誌を見て謙也は驚いたようだった。


「夏輝……それって海外のか?」


「ん?そうだけど?海外の銃カタログ。そろそろ新調しねぇとなって」


「色々聞きたいこともあるけど、英語が苦手どころか嫌いって言ってる夏輝がそんなもの読んでるのに驚いてるんだけど……」


「英語なぁ……形式ばった文法とかが嫌いなだけで日常会話とかは仕事でよくやるから割と楽」


「初めて知ったな……」


「初めて言ったからな」


 目を丸くする謙也とカタログに目を通す夏輝。そんな時、事務所のドアが勢いよく開く。その勢いは2人を驚かせるには十分であった。2人の視線の先には1人の女性。特筆すべき点はその格好。ツナギを着用し大胆にも胸元を大きく開けている。見えるのは某メーカーの黒いスポーツブラ。黒縁のメガネをかけ、髪は高めのポニーテールでまとめており、腰のベルトには多くの工具がぶら下がっている。そして片手には何故か一升瓶を持っていた。


「夏輝……どちら様……?」


「ヤッベ……!思った以上に来るのが速い……!謙也!隠れろ!」


 夏輝は謙也をソファーに伏せさせた後、自身も伏せるが……遅かったようだ。夏輝はそのままヘッドロックされると同時に彼女の呂律の回っていない叫び声が響く。


「見つけたわよぉ〜!このクソガキィ〜!よぉくもわらしにあんらこと送ってきたわねぇ〜!」


「事実だろうが!」


「世の中には言っていいころろ、悪いころがあんのよ。しかも、わらしのベティーをバラしたんらってぇ?許せないわね〜」


「なら絶妙に要らん機能つけんなよ!ていうか酒くせぇ!お前!一升瓶丸々飲んだな!」


「飲まなきゃやってらんないわよぉ〜」


「知るかよ……!離せって……!てか………力強っ!この絡み上戸め!」


「にゃはははは!メカニックらめんなぁ〜!」


 女性は夏輝を大きめのソファーに投げるとマウントポジションを取った。一升瓶をローテーブルに"ドン!"と置くと、夏輝にさらに絡む。そんな様子を謙也はただただ唖然として見ていることしかできなかった。


「マウントポジション取っらぞ〜!覚悟しろ〜!」


「クッソ……!降りろよ!」


「おぉ〜?照れてんろか〜?一端の男の子だらぁ〜!一緒に風呂入ったから今更らろ〜?」


「あの時とは状況が違うだろうが……!」


 メカニックの両手を自身の両手で押さえ鍔迫り合い状態になる。


「わらしはお前のころ気に入ってんらぞ〜?普段は生意気らけろなぁ〜!」


「うるせぇよ!早くどけ!」


「しょうがないらぁ〜」


 その言葉に安堵する夏輝。しかしメカニックは徐にツナギのジッパーを下ろそうとする。既に胸下まで下げているのにだ。


「うぉぉい!バカ!何してんだ!」


「らにすんだよ〜!あらしは暑いんだよ!」


「キッチンで水飲んでこいよ!この飲んだくれ!」


「あ〜言ったらぁ〜!いいもん!脱ぐ!」


「やめろ!」


 謙也の視線の先にはジッパーを下ろそうとする手を止める夏輝と無理矢理にでも下ろそうとするメカニックの攻防戦が繰り広げられていた。その時、困惑する謙也のスマートフォンへ連絡がきた。画面を見た謙也は立ち上がり部屋を出ようとする。それを見た夏輝はメカニックと攻防戦を行いながら問いかける。


「謙也!どこ行くんだ!助けてくれ!」


「ごめん……夏輝……ちょっと杏梨から電話でさ……すぐ戻るから。まぁその……なんだ……頑張って!」


「マジかよ!?この裏切り者!」


 彼女からの連絡により龍崎 謙也 離脱!

 かくして部屋にはベロベロに酔っ払った絡み上戸(夏輝限定)のメカニックと夏輝がソファーの上に残されたのだった。

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