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第三章幕間 第1話

翌日、夏輝と雅は弥美への挨拶もそこそこにブラック・ベティーで病院を後にした。弥美からは

 "嬢ちゃんはもう来ることもないと思うが……小僧。お前は近々来そうだな"

 と言われてしまい、若干夏輝は不服そうであったが。

 幹線道路を走ること約20分。ベティーは警察署へと到着した。控え室に案内された夏輝と雅、それから芽衣。緊張する雅を他所に夏輝がのほほんと告げる。


「めっちゃマスコミいたな」


「それはそうだろう。国際的なテロリストの逮捕に協力した女子高生だぞ?マスコミが食いつかない訳がない」


「アイツら……死んだ自分達の同僚のことなんて忘れてそうだな……」


「………少なくとも私にはマスコミの気持ちなんかわからん。ただ、視聴率の為に命を散らされた彼女達があまりにも可哀想すぎる………」


「だったら……私達だけでも彼女達を覚えていませんか?彼女達は本物のジャーナリストだったと思います」


「その通りだな……祈ろう……私達だけでも……本物のジャーナリストに敬意を表して……」


 芽衣は腕時計のタイマーを1分に設定すると2人に目配せする。夏輝と雅はお互いを見た後、芽衣に頷く。芽衣は指を折り曲げカウントダウンを行う。カウントダウンがゼロになったタイミングで3人は真のジャーナリスト達に黙祷を行った。3人が目を開けたのは芽衣の腕時計から1分を知らせるタイマーが鳴った後であった。黙祷を終えた後、雅がふと尋ねた。


「そういえば、私は何を着ればいいんでしょうか……流石に私服で出る訳には………」


「それなら心配には及ばん。君の制服を預かっている。もちろん、我々によるクリーニングも実施済みだ」


 芽衣がスーツカバーを開けるとそこには丁寧な手入れを施された雅の制服が。制服にはシワひとつなく、経年劣化による僅かな綻びや色褪せ、擦り切れまでもが修復されており、まるで新品の様であった。


「凄い……」


「さては累さん達……張り切ったな……?」


「君の晴れ舞台だからな。皆、気合いを入れて手入れさせてもらったよ。着替えてくるといい」


 芽衣に促され、雅は更衣室へと消えた。数分後、制服に着替えた雅と共に表彰会場へ赴いた。会場には警察の高官と多くのマスコミがいた。雅は表彰者の席に。夏輝と芽衣は関係者ということで会場の後ろで待機していた。そんな2人に話しかける人物が1人。見ればいつも何かと世話になっている刑事の男であった。刑事は夏輝達と同じ様に壁に背を預けると話す。


「大体予想はついていたが……やはりお前らか」


「私達以外にいるとでも?」


「まさか………それよりも今回の立役者だが……ホントはあの娘じゃなくてお前だろ?夏輝」


「………ノーコメントで」


「大方、表に出たくないから押し付けたってとこか……あの娘も大変だなぁ……」


「ノーコメントっつってるだろ……」


「クックック……」


 いやいや答える夏輝に対して笑う刑事。そんなこともお構いなしに夏輝と芽衣は話す。


「ボス。どっちに賭ける?」


「私か?そうだな……当たり障りのない答えに三千」


「いやぁ……雅はこういう時、突拍子のないこと言うからなぁ……度肝抜かれる答えに五千」


「おいおい………警官だらけの場所で賭博はやめろ……何について賭けてるんだ……」


「雅がインタビューでどう答えるか」


「お前ら……仕事の時はちゃんとしてるのにこういうことになると碌でもないな」


「いや〜………」


「それほどでも」


「褒めてないぞ。このクソバカ師弟コンビ」


 ため息を吐くと呆れた様に刑事はそう溢したのだった。

 会見はつつがなく進行。写真撮影の後、軽いインタビューとなった。夏輝も芽衣も真剣な表情ではあるが内心は賭けのことでいっぱいであった。どうしようもない2人である。とある記者から"何か思うことはありますか"と聞かれた。その質問で雅の空気が変わった。


「私は何も特別なことはしていません。自分のできる行動を起こしただけで、自ずと結果があった。それだけです。ただ……一つ申し上げるのならば、人の命を軽く見ないで貰いたいです。オルカを阻止する為に亡くなったセキュリティの方、命を軽視した指示により儚く散ったレポーター含むテレビ局の職員の方々……世間の皆様はすぐに忘れるでしょう。ですが、私は忘れることはないでしょう。あの方達は"政府といき過ぎたジャーナリズム"の犠牲者です」


 雅はキッパリと言い切る。会場の空気は地獄の様に静かであった。だが雅の顔は晴々としている様だった。


「なぁ、おっさん。今のコメントどう思う?」


「答えづらいな……あの娘が言ったことは俺達にも当てはまるからな……耳が痛いな……こういう時、守る為に上からの指示なく動けるお前らが羨ましく感じるよ」


「ちげぇ。そういうのを聞きたいんじゃねぇの。アイツが自分の信念を話すのはわかってたから」


「どういうことだ?」


「賭けの軍配はどっちにあるかを聞いてんの」


「なに?警官に賭けの審判をやらせるな」


「じゃあ俺達で白黒決めるしかないか。アレは俺の勝ちだろ?」


「何を言っている?私に決まっているだろう。まるで模範解答だったぞ」


「前半だけだろうが。今の会場を見てみろ。地獄の様な空気だぞ。つまり賭けは俺の勝ち」


「ふざけるんじゃない。どう見ても私の勝ちだ」


「お前ら……………!」


 刑事の声と共に会場に鈍い音が2発響くのだった。

 雅は会見を終え、控え室に戻ると先に戻っていた2人に尋ねる。


「あの………2人とも頭、どうしたんですか?」

 

 雅の視線の先にいる夏輝と芽衣の頭には大きなたんこぶができており、腕を組み、遠い目をしていた。隣に立つ刑事はなんだか少し疲れている様子だった。


「諸事情だ」


「これには深い理由があってな………」


「うるせぇぞお前ら。海よりも浅く、丘よりも低いくだらねぇ理由の癖に」


「はぁ………」


 刑事が呆れながら告げた内容に、訳がわからないという表情の雅を放って、夏輝は告げる。


「さっきの雅の発言だが………炎上はしてなさそうだな。肯定8割、様子見1割、否定1割ってとこか。まぁ、政府の対応が雑過ぎたから……そういうところもあって全面的に支持されてるんだろ。それに……雅の意見に対してよりも容姿に対しての反応の方が圧倒的に多い。ただ、マスコミがこの発言をなぁ………どうすると思う?ボス」



「おそらく……切り取り、改竄、隠蔽、情報統制による印象操作と言ったあたりか……どのみち、今の時代に国内のオールドメディアはほぼほぼ信用ならん」


「SNSには、俺達警察よりも一定方面に詳しいヤツらはゴロゴロいるからな……デマも多いが真実も稀にある。実際、俺達よりも早く情報を掴んでいそうなヤツもいる。SNSも侮れん」


 しみじみと告げる刑事。芽衣は腕時計を見ると告げた。


「もうこんな時間か……すまないが我々はお暇させてもらう」


「そうか。今日はご苦労だったな」


「じゃあな。おっさん。また現場で」


「失礼します」


「じゃあな。俺は2度と現場では会いたくないがな」


 刑事の呟きを背に3人はブラック・ベティーで警察署を後にするのだった。

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