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第三章 第20話

2週間後、弥美と芽衣、そして累はトレーニングルームにて高濃度酸素マスクを装着しランニングマシンを走る夏輝を見ていた。雅と沙羅は別室でカウンセリング中。最初は夜中に悪夢で飛び起きることが多かった雅もカウンセリングを重ねるにつれ飛び起きることも少なくなった。芽衣は夏輝を見つめながら感服したように話す。


「もうあそこまで動けるのか……」


「あぁ……正直、私も驚いてるよ。アイツは自己治癒能力が異様に高い。おそらく今回あれだけのダメージを負いながら動けたのもそこにある。脳震盪や爆発による耳鳴りなんかは軽度であれば復帰は人一倍早いと思うぞ」


 それを聞いた芽衣は累に対してボヤく。

 

「改めて聞くと、夏輝は敵に回ると厄介な相手だな」

 

「不屈のバイタリティに精神攻撃、裏打ちされた実力。まぁ育てたのは私達ですけども」

 

「この前の人身売買組織の摘発任務の時は目を見張るものがあったな」

 

「静かに背後をとって頸動脈を絞めて気絶。これをバレずにやる技術と度胸素晴らしいですわ」


「逆にこの前の制圧任務では捕縛した敵に対して鼻にワサビを突っ込んでいてな。なぜこんなことするのか聞いたんだがな」

 

「返答は?」

 

「"悲鳴でさらに誘き寄せて一網打尽にする。1番効率的だ"とな。全くアイツは………」

 

「とことん現場主義ですわね」

 

「だな。一体誰に似たのやら……」


 (芽衣さんですわね)

 (おめぇだろうな)


 心には思うが口には出さない累と弥美。夏輝がランニングマシンを終えたのを確認すると芽衣は弥美に問う。


「退院は?」


「この調子ならもういいだろう。いつでも出ていけ」


「言い方……一応患者だぞ……」


「雅さんは?どうですの?」


「多少のトラウマはあるものの概ね寛解だ。最初はプールの写真や映像でもパニックになっていたが最近は特にそういったことは起きていない。実際に連れて行ったが特に問題はなかった。カウンセリング時にあの小僧が隣にいたからだろうな」


「俺のこと呼んだか?」


 声のした方を見れば首からタオルを下げた夏輝が近くに来ていた。


「まぁな。汗を流したら部屋に来い。退院の日程とお前に知らせることがある」


「知らせること?悪いニュースか?それなら聞き飽きたぞ」


「聞けばわかる。ほらとっとと行け」


「はいはい……ったく……」


 芽衣に手を払われると夏輝は渋々といった様子でシャワールームに消えた。


「それで?悪いニュースですの?」


「まさか。ただ、夏輝は嫌がるだろうって内容さ」


「嫌がる事は嬉々として聞かせる内容ではないと思うぞ」


「クックック………」


「悪い上司ですわね」


「全くだ……」


 3人は談笑しながら夏輝と雅の病室へ向かう。病室に着きしばらくすると夏輝も戻ってきた。ストレッチを始めると芽衣に問いかける。


「で?知らせたいことってなんだよ」


「1つ目は警察からだ」


「やめろやめろ!厄介ごとだろ!」


「まぁ聞け。国際指名手配犯の逮捕協力によりお前に懸賞金と感謝状が与えられる」

 

「うわ……いらねー……」

 

「そうもいかん。これは警察のプライドもある」


 嫌がる夏輝に対して毅然と答える芽衣。悩んだ夏輝は雅を指差して芽衣に告げた。

 

「じゃあこうしてくれよ。感謝状を受け取るのは……雅。懸賞金は……そうだな。俺の通院費と雅の慰謝料分くらい貰って残りは被害者と遺族に寄付しといてくれ。それでいいや」

 

「本当にそれでいいのか?」

 

「いーのいーの。アイツが1番頑張ったんだし、俺としてもあんまし表に顔出したくねぇもん。後、式典とかでちゃんとした服装するのめんどくせー」

 

「お前……後者が本音だな……?まぁ、お前がそれでいいならその通りに伝えておく」

 

「じゃ、よろしく〜」


「えっ?……あの……私の意見は……?」


 困惑する雅を放置して話が進む。夏輝は雅を一瞥すると目線を芽衣に戻し話を続ける。


「それで?他にもなんかあるんだろ?」


「ねぇ!なんで一回私のこと見たのにスルーしたの!?私の話聞いてた!?」


「いや、こういう対外的な事は俺よりも雅の方が慣れてるしいいかなーって」


「無責任すぎるでしょ!」


「雅君」


「は……はい……」


 真剣な声色で芽衣に呼ばれた雅は思わず姿勢を正し返事をする。


「コイツはこういう奴なんだ諦めてくれ」


「おい、芽衣のヤロー。小僧の説得じゃなくて嬢ちゃんに譲歩を求めやがったぞ。ホントに大人か?」


「真剣な表情で言うべきことではありませんわね」


「はぁ………仕方ないですね……….夏輝君が自分の意見を曲げないのは知っていますから……わかりました………引き受けます……」


「サンキュー、雅」


「なぁ累……この嬢ちゃんチョロすぎないか?」


「少々心配になるくらいには……全く、恋は盲目とはよく言ったものですわね……」


 2人の関係性に少々疑問を抱く累と弥美だった。芽衣は続けて2人に告げる。


「2つ目の知らせだ。例年通り我々もそろそろ夏季休暇に入る」


「あぁ。いいんじゃね?俺もこんな状態だし。総力戦は厳しいだろ」


「そこでだ。お前達、夏祭りに行く気はないか?」


「夏祭り……ですか?」


「あぁ。商店街の方から夏祭りで使える商品券を貰ってな。どうせだからお前達で使ってもらおうと思ったんだ」


 夏輝は芽衣から受け取った商品券を見る。日付を見れば、明日の日付であった。


「明日じゃねーか!いきなりすぎだろ!」


「はははっ。はしゃぐなはしゃぐな」


「はしゃいでんじゃねーの!呆れてんの!」


「そうか。まぁどうでもいいが」


「どうでもいい!?今、この人どうでもいいっつったぞ!」


 芽衣を指差して吠える夏輝を無視して芽衣が続ける。


「明日の朝一番に退院だ。その後、お前達2人は警察からの表彰式に参加。それが終わり次第、家に帰す。それから夏祭りは夜の7時から開演だ。夕方の5時に事務所に来い。如月さんとその彼氏も連れてこい」


「なんで如月と謙也まで?」


「連れてくればわかる。荷物はなるべく少なくしろ。心配するな。夏休みを楽しんでもらうためだ。入院していたとはいえ、お前達にも夏休みを謳歌する権利はある」


「はぁ………」


「では、私はもう帰る。明日の朝また会おう」


「私も帰りますわ。お二人共また明日の夕方にお会いしましょう」


 芽衣と累が部屋から出たのを確認すると弥美も2人に告げた。


「では、私も行くとするか……お前達、最後の入院生活だ。精々楽しめ。それから2度と来るんじゃないぞ」


「わかったよ………あ、一つ聞きてぇんだけどさ」


「なんだ」


「ここの病院食。他の病院と比べてかなりレベル高いよな。めっちゃ美味かった」


「私も思いました。なんというか……全体的に優しい味でしたから」


「当たり前だろう。お前達が食べていたのは私の手作りだ。感謝しろよ」


「えっ!?」


「マジかよ!?」


 それだけ告げると弥美も部屋を後にする。衝撃の告白と共に2人の入院生活は終わりを迎えるのであった。

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