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第三章 第15話

「おい、魚男!お前にいいものをやろう」


「おいおい………マジかよ……!」


 キラーホエールはテラスから見張り台のあるタワーまで移動する夏輝に照準を合わせると躊躇なく引き金を引いた。咄嗟に夏輝は伏せるが、弾は当たらずウォータースライダーに使用する為のウォータータンクに直撃。骨組みが軋む音と共に大量の質量と水圧が夏輝に降り注ぐ。骨組みが倒壊する音を聞き、慌ててそこから離れると既に先ほどまでの場所はウォータースライダーの残骸により潰されていた。


「ハァ……ハァ……マジで……ヤバすぎかも……」


「チッ……外したか。俺様からのお恵みだ!なぜ受け取らん?」


 その一言と共にまたも夏輝に対してミサイルが発射される。夏輝は横に飛ぶと直撃は免れたが近くで爆発。爆風で吹き飛ばされてしまう。強烈な疲労感と耳鳴りに苛まれながらもなんとか立ち上がった夏輝。しかし曲がり角に近づいた際に死角から1つの影が襲いかかる。先ほどの副官である。手には刃渡の大きいサバイバルナイフを持っており、その動きは鋭い。


「待ち伏せか……!」


「いいぞ!やってしまえ!」


 キラーホエールの言葉に応えるかのように鋭く突き出されるナイフを避け、前蹴りをお見舞いする。しかしそんなことも意に介さず副官は容赦なくナイフを振るう。ナイフを避けると、壁に、手摺りに刃が当たりその度に火花が散る。夏輝は徐々に飛び込み台まで追い詰められていった。副官はナイフを手で回すように弄ぶと夏輝に告げる。


「貴様の戦闘力は素晴らしいの一言だ。よく我々をここまで出し抜いた」


「ハァ……ハァ……誰が鍛えたのかは知らねぇがここまでチョロいヤツらも初めてだよ……」


「この期に及んでまだそんな戯言を言えるとは……やはりお前は素晴らしい……そこでだ……一つ提案がある」


「提案だと?」


「そうだ。貴様、我々の仲間にならないか?」


「………」


 反応のない夏輝に対し副官は続ける。


「お前が仲間になれば、ここにいる人質は全て解放しよう。どうだ?お前がこちらに着くならば……あの小娘共々守ることができるぞ?」


「………お断りだな」


「ほう……理由は?」


「俺は自分より弱いヤツに従う気はないんでね。"イルカ"だか"オルカ"だか知らないがこんな腑抜けた弱者だらけの組織はお断りだ。くたばれクソ共!」


「そうか……残念だ……実に残念だ。ならば……貴様はここで死ねぇ!」


 中指を立てて宣言する夏輝に対し、副官の攻撃は更に苛烈さを増す。夏輝もナイフを捌き、受け流してはいるものの少なくない傷が増えてゆく。気付けば既に飛び込み台のギリギリまで追い詰められていた。


「うおっ………!ヤベ………」


「どうする!もう逃げ道はないぞ!ここで死ぬか!我々の仲間になるか!選べ!」


「どっちもお断りだ!俺はテメェらを全員ぶっ飛ばして生きて帰る!そう約束したからな!」


「愚かな男だ!」


 ナイフを逆手に構え接近する副官。一か八か夏輝は形勢逆転を狙い、副官に近づくとナイフを抑え込み、組み合いになる。だがキラーホエールがその隙を逃すはずがない。

 

「はっ!ソイツを盾にするか。だがなんとも思わん!」


 躊躇いもなく引き金を引くキラーホエール。ミサイルは夏輝と副官のすぐそばで爆発し、夏輝は副官諸共プールへと落ちていった。



「急がなきゃ……!」


 雅はホテルの中を走る。夏輝には"部屋にいろ"と言われたがそんなことできるはずもなかった。走りながら思い出すのは今までのこと。昔から夏輝には守られてばかりであった。何かあった時、気付けば目の前にいて、時には傷つきながらも必ず守ってくれた彼。新入生交流会で自分と後輩がナイフで脅された時も、友人が危険な人身売買組織に狙われている時も。いつだって彼が自分の前にいた。降りかかる火の粉を払うように。

 それがなんだか嬉しくもあり……悔しくもあった。夏輝は、時に命をかけて自分や誰かを守っている。でも私は?夏輝君に何ができる?自問自答を繰り返しても答えは見つからない。夏輝はいつも雅に"たぶん雅がいないと俺は生きていけない気がする"なんて言うけどもその言葉の真意はわからない。本心なのか、はたまた私を庇護対象として見ているのか……本人に確認しようとも、おそらくのらりくらりとかわすだろう。だから決めたのだ。次に何かあった時、私はただ守られる存在ではないと気づかせてやろうと。その為に芽衣から少しの護身武術なんかも教わった。

 "私は後ろで守られたいんじゃない。貴方を隣で支えたいんだ"と伝える為に雅は夏輝の元に向かう。その時、地響きのような爆発音が聞こえた。近くの窓から見れば、ウォータースライダーが崩れて煙を上げていた。


「そんな……!夏輝君は……!」


 雅が探すとウォータータンクから流れ出る滝のような水流の中から夏輝が出てくるのが見えた。その光景に安堵する雅。しかしプール中央の島にいるキラーホエールはまたも夏輝にむけてミサイルを発射する。再び、地響きのような爆発が起こる。夏輝はヨロヨロと立ち上がるところであった。


「ダメ……!」


 その光景を見た雅はまたも全力で走り出す。しかしリゾートホテルという施設の広さが雅に立ちはだかる。階段を駆け降り、非常口を通り、ロビーに出るとプール方面に向かってまたも駆け出す。

 雅がプールサイドに到達した時には、既にキラーホエールが夏輝にミサイルの照準を合わせていた。


「そんな……ダメ……!ダメ!」


 照明弾を装填した銃を取り出すが、雅は考え込む。飛び出してきたのはいいものの私に何ができる?今すぐヤツに飛びつく?ダメだ。距離がありすぎるし、圧倒的な地力の差で呆気なく殺される。ならばこの銃で撃つ?だが撃ったところで何になる?おそらくどうにもならない。状況は詰みだった。


「私は………どうしたら………」


 雅は両手を見つめて途方に暮れるがキラーホエールは待ってくれない。ミサイルを構えると戸惑いなく副官と夏輝にむけて発射する。特大の地響きのような爆発音と熱気で我に返った雅は顔を上げた。その視線の先にはミサイルの爆発で破壊された飛び込み台から副官の男と共に力なくプールに転落する夏輝の姿が映っていた。


「そんな……!ウソ………!いや……!いやぁぁぁぁぁぁぁ!」


「クックック………ハーッハッハッハ!俺の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁ!」


 雅の絶叫に近い悲鳴とキラーホエールの勝利宣言が地獄と化したリゾートプールに響き渡った。

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